第36話 予約なし

釣りをし、見える陸地と海図を比較し、航海術を独学で習得していく。どれだけ船を進めても能動的に動いている船はない。ハチマン(第五八幡丸、本来の読みはヤハタ)ほどの船舶を見かけると、大抵は甲板で船員だったものが雑踏を形成しているので、私が無人のハチマンに出会えたのはかなりの幸運だ。


車のドア1枚を挟んで、接触即致死の感染者が通りすぎていく気配を感じながら眩しさを我慢して昼間に眠る。それに比べれば就寝中に三半規管をやられて海へ不規則な撒き餌をするぐらいしか不満のない日常は平和そのものだった。


はじめての荒天にも慣れてきた頃だった。

今日は食糧確保だと寝起きの目を擦って操舵室に入ると、甲板にレインコートがいた。カニ漁師か。それとも交通整理中の警官か。「奴」がこの船にいてはいけないものなのだけはわかる。「どうやって?」はこの際問題ではない。この状況は全く想定していなかったのに、判断を一つでも誤れば私はロックンフラワーにされる。

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