第34話 航海準備

航海法だったか、海上交通には厳格なルールがあった。それも最初の国際法とかいう話ではなかったか。右に進むときはどっちが優先で、このときは旗を上げろだ、何やらそのような話があったはずだ。

「多数の漂流船が邪魔なときは、船を徐行させてこちらに被害が無い速度で体当たりしてどかせた」

などという選択肢は、免許講習の筆記試験に出たら真っ先に除外すべきだ。違法行為だぞ。海上警察は捕まえに来い。


タンカーの乗り降りはクレーンか、荷物で沈んでる時に桟橋を使うかなのだと、接近して初めて知った。見上げるような鉄壁を見せるその船は、恐らく荷を下ろして、バラストも放水し、乗組員が下船した後に破滅が起きたのだ。


当初目論んでいたタンカー生活は頓挫したが、私にはハチマンがいる。小さなサルガッソー然としたタンカー海域を抜け、これまでのサバイバルを共にしたマズダ(ディーゼル車)の待つ浜辺に戻った。寝具、保存食、釣り道具の予備、服に毛布、写真、農作物の種。ゴムボートを何往復もさせ、大切な物をハチマンに積んでいく。

マズダは連れていけないので、他の生存者が見つけた時に助けになるよう缶詰と缶切りを1つ残していく。


上手くいけば感染者のいない孤島で一人だけでも文明を再建できるかもしれない。なんなら他の生存者に遭遇できるかも。そんな期待をしていた。

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