第32話 砂浜
ゴムボートが海の上に浮いた時には雪は降らなくなっていた。なんなら日中は汗ばむ時期になっていた。日付がわからないし、季節を示す植物や動物もいない。その動物には人間の商業活動も含まれるのは言うまでもない。
ゴムボート一隻では物資自体が積めないし、これは小型船舶に乗り込むための繋ぎだ。植生の無くなった山からは降雨がそのまま濁流となって下流に土砂を供給するので、漕ぎだすのにふさわしい砂浜はあちらこちらにできていた。
最終的な目的地はベップ湾を漂流しているタンカーだ。巨大船舶に感染者が1人もいないということは考えにくいので、誘導して海に落とすか距離をとって共存するしかない。共存でも陸で無数の感染者を気にして生活するよりはずっと良い。
車のタイヤをアルミ箔で多い、砂山も築いて有機物の気配を消す。
さあ漕ぎ出すぞとゴムボートを押した時、少し離れた浜辺に海からレインコートの男が立ち上がった。フードの隙間からは毛糸の帽子が見える白人の大男だ。ベーリング海でカニ漁をしてましたという格好だ。よく見ると海にはレインコートが無数に漂い、浜辺につくと立ち上がる。英語を喋っているので本当にアラスカのカニ漁師かもしれない。
湾外がどうなってるかわからないが、海に感染者がいないのは単純に、広い海に対して同化対象の人間が陸地より少ないだけのようだ。船上がマシなのに変わりはないが、海に出れば安泰というわけには行かないようだった。
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