第31話 探索
作業着を着て、修理屋らしい声掛けをして、家主だった感染者に疑念を抱かせないようにするのは実際のところかなり恐ろしい。
一見、家宅侵入を承諾したかのような返事こそするが、その返事自体は人間に擬態した結果としての反応でしかない。玄関で声掛けすると外にいた感染者が「どうどお上がりください」というので家に上がると家主の感染者が別にいたりする。外で許可を出した感染者はただの通行人だったのだ。
幸い家主は「どちら様ですか」と近寄りもせずに問うので「別府市水道局指定工務店の者でして、浴室の排水トラップが水が逆流する件で伺いました」と情報量を多めにして返すことで興味を失わせた。
本当に興味を失ったかの確認はできない。「ああそうですか」といって自分のルーチンに戻っていくだけだ。そもそも言ったことをどれくらい覚えてられるかもわからない。確認をとってかえって注意を引くのも危険だ。いつもはしない物音がするとかで注意をひいてしまい、密室で接触せずに迂回できなくなったらおしまいだ。
今の私は、大昔のビデオゲームの主人公同様、敵に少しでも触ったらゲームオーバーなのだ。
釣竿を見つけるまでは得られる報酬の魅力から恐怖に耐えていたが、自給自足できるならやりたくない「仕事」だ。
上手く行っても地下室があるとは限らず、地下室があっても有用な物がなければくたびれ損だ。
今回の目当てはゴムボートと、穴や劣化部の補修材だ。いずれもプラスチックをふんだんに使った製品なので、大型商業施設の廃墟でもまず見かけない。
1日、2日と何日もかけてベップからこのままフクオカまで届くのではという一帯を探し回る羽目になった。
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