第22話 温水

ホッカイドウ島はアラスカやシベリア同様、冬は氷点下10℃を下回る極寒だが夏は30℃に達する高温で避暑にやってきた人々は落胆するという。

実のところ、オキナワ島までは冬に長袖が必要とは聞いていたのでより北にあるキュウシュウ島に暖かい冬は期待していなかった。しかし、太平洋に面したオオイタまで雪が降るとは思わなかった。

私が知っていて確実に天然温泉がある場所はアリマとベップで、より南にあり暖かそうなベップを選んだのだ。ただ温かくて湿った空気で肺をいたわるだけではなく、うまくいけば数ヶ月ぶりに入浴ができるかもしれない。

入浴施設は往々にして木造だったので全て奴らに消化され、温泉は元々の見窄らしい湧き水に戻り、そこいらで水溜りを成していた。


それでもこの温かな湧き水が、世界がこんな有様になってから見たあらゆる物の中で、私には最も頼もしく見えていた。湯だまりをバケツですくい、顔を洗い、汚れや硬くなった皮脂をそそぐ。その温かさにいつまでも涙が止まらなかった。

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