第10話 報告

こうして帰還した私は、Dが雑踏に加わった経緯をコミニュティに報告した。

感染者は物体として既に人間ではなくなっている。鉄とアルミの混合物の方が力負けする強靭な骨格を、可塑性・可逆性が極めて高く人間に擬態できる柔組織が覆っている。エネルギー源は恐らく手近にあった有機物で、Dが車から引きずり出されてから雑踏に消えるまで5分程度なので、全身を置換するだけでそれほどしかかからないことから摂食時間も相応に短いことが推測できる。

宇宙からの侵略者?某国が作った最終兵器?信仰を捨て我欲にかまける人類に主が与えた罰?なんにせよ、1人いるだけでSF映画が1本作れるようなスペックの怪物達に我々は完全に包囲されている。生産手段を持たない怪物たちはいずれ餓えるだろうが、その悪食さから、兵糧攻めにしても先に干上がるのは私たちの方だ。

当面の方針としては、Dのように刺激せず、町で大人しく金属製品を回収し、農地を作り自給自足を確立するということで変わらない、はずだった。

そもそも紅海沿岸から数千km離れた日本まで「因子」が伝播した経緯はなんだったのか。そのことをすっかり忘れていた。

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