第6話 感染

最初は「あいつら」がなんなのかわからないので「感染者」と呼ばれてた。それぐらいわからなかった。例えばよくある伝染病だったら、CDCあたりが「あいつら」の1人を捕まえてDNAだかミトコンドリアだか何かを調査し、感染経路がこうで、こういう風に人体を変えて雑踏を作らせる、なんて頭の良い説明をしてくれる。対策にああしましょうこうしましょうと言って、無知蒙昧なアホが人権侵害だ先制国家だと騒ぎ立てる。そんな時代があったんだ。


しかし、P国でWHOの職員が雑踏から帰って来なかったように、感染対策を十分に行なったプロでさえ研究しようと接近したら帰って来なかった。例え帰ってきても研究なんかしない。「何をしようとしてたか忘れた」「よくわからない」などと当たり障りのないことを言って静かに座ってるだけだ。部屋の明かりがなくなった頃に外に出て、暗くなったらまた椅子に座る。


これを読んでるお前ならどうしただろう。「おいおいしっかりしてくれよ!」と説教しようとするだろうか。そんなことしたらお前も仲間入りだ。学者と一緒に椅子を並べて私が死んだあとも2人で当たり障りのないことを喋っているだろう。


ところで私はあとどれくらい生きられるんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る