第2話 拡大

北アフリカP国で起きた雑踏はその後も紅海西岸の港湾都市を飛び火して発生し、アフリカ大陸を西進した。紛争の有無に関わらず、都市部のスラムや墓地、農園などの人口密集地周辺の人のまばらなところに突如現れた。何らかの疫病を疑いWHOの調査員が雑踏の中に入っていくが、歩行者は多忙を理由に検査を拒み、調査が進展しないまま、数日後には調査員たちも防護服を脱いで雑踏に加わっていた。彼らも多忙を理由に後任への情報提供を拒んだ。


雑踏が現れた場所はプラスチック、木材から生死に関係なく動植物体の全てが消失した。何らかの新興宗教・カルトと見られるような活動は皆無で、消えたこれらの物品がどうなったかは観測しても不明だった。雑踏は日が沈むと消えて、日が昇ると再びどこからともなく現れた。


雑踏が発生すると住民たちは次々に雑踏に加わっていき、いつしか対立主体を失ったことで紛争が立ち行かなくなり、なし崩し的に終戦していく。この「ムーブメント」は望ましいと思われた。だって紛争ばかりのアフリカで紛争がなくなっていくのだから。アフリカにどんな国があるのか、紛争が起きてるのはどの国なのかも知らずに他の大陸の人々は無邪気に思考の外に置いた。「そんなこと」より自国の経済成長や雇用の方が、個々人の将来の方が大事じゃないか。これを読んでる人間なら「なんてことをしてくれたんだ」と思うだろうか?実際のところ、雑踏の正体を知ったところで無邪気で無能な彼らに何ができたとも思えないが。

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