第14話 戦いの反省会

 戦いが終わったあと。

 ギルドの小会議室に向かった。

 シルキス、セリューナ、穂乃香、受付嬢の四人で、さっきの模擬戦の反省会をやるのだ。

 もっとも本題は『穂乃香がシルキスのお姉ちゃんになりたがっていた件』である。


 シルキスは穂乃香を睨みつける。

 セリューナと受付嬢も見つめているが、睨んではいない。同志よ、という顔をしていた。


「賞金首ゴローが野放しになっているのは、ナインズのほうが弱いから……ネットでそう噂されていることに、少なからず腹が立ってたわ。戦えば必ず勝てるのに。でも、ゴローは神出鬼没で、場所を特定できない。ナインズは、普通の冒険者では倒せないモンスターを狩る仕事があるし。ほかの犯罪者にも対処するし。ゴローだけを追いかけてるわけじゃない。ゴローが目の前に現れたら、瞬殺してやるのに……私はいつもそう思ってた」


 穂乃香は淡々と語り出す。


「なのに私が倒してしまった、と」


「ええ。純白魔王……あんたを最初に知ったのは、ツイッダーだったわ。ゴローと戦っているところの切り抜き動画が流れてきて……最初は嫉妬した。でも繰り返し見ているうちに、こう思ったんの」


「強い、と?」


「いや……この子メッチャ可愛いぃぃっ、って」


「なんでだよ! ナインズの誇り的な話してたのに、なんでそっちに興味が向かうんだ!」


「それから、こういう子が妹だったらいいのに。お姉ちゃーんって甘えられたい、と思ったわ」


「どういうことなんだ!?」


「こっちが聞きたいわよ! こんな気持ちになったの初めてなんだから。あんたのせいよ、シルキス!」


「知るか!」


「そんなことを考えながら秋葉原を歩いていたら……なんと純白魔王がいるじゃない。しかもランドセルを背負って……可愛いにもほどがある。キュンキュン! 私は夢中で動画を撮った。その可愛さを全世界の人に知ってもらおうと、ツイッダーの裏垢に投稿したってわけ」


「あれはお前の仕業かよ!」


「なにか問題でも?」


「盗撮だ! 肖像権の侵害だ!」


「え? つまり、あの可愛い動画を私一人のスマホにとどめておけって……? 駄目よ! そっちのほうがよっぽど罪じゃない。全世界に知らしめるべき!」


「独特の倫理観しやがって……」


 シルキスはため息とともに呟いた。

 すると受付嬢が話に加わってきた。


「私は穂乃香さんに賛成します」


「なにゆえ!? あれか、ギルドの職員だからナインズの肩を持つのか!」


「いえ。一個人として純粋に、シルキスさんの動画を拡散すべきと思っただけです」


「冷静な顔で言うな。一瞬『一理ある』って答えそうになっただろ……セリューナ、お前だけは私の味方だよな?」


「わたくしもお二人に諸手を挙げて賛成の立場ですが」


「裏切り者! いつからそんな奴に……前からか」


「うふふ。魔剣は一筋縄でいかぬもの。上手くぎょしてくださいね」


 四面楚歌。

 魔王だけど涙が出そう。だって誰も助けてくれないんだもん。


「それはそれとして、シルキスさん。あなたは私が見ている前で、ナインズの一員たる穂乃香さんを倒してしまいました。ナインズとは冒険者ギルドが認めた冒険者九人のこと。あなたのほうが穂乃香さんよりも強いとなれば、交代、という判断が下るかもしれません」


「ほう、私がナインズに。いいぞ。そういう肩書きは嫌いじゃない」


 受付嬢の言葉にシルキスは気軽に答えた。

 が、それを聞いた穂乃香は、真っ青な顔になる。


「交代……私がナインズから外される……」


 シルキスがナインズになるというのは、穂乃香を蹴落とすということ。

 シルキスには魔王としての記憶がある。魔力も多少は引き継いでいる。いわば反則チート

 だが穂乃香は違う。純粋な人間だ。そんな彼女が十代でナインズに選ばれる。どれほどの努力の結果なのだろうか。横からしゃしゃり出て、その努力を台無しにするのは忍びない。


「さっきの試合の結果を、私たちだけの胸に秘めておくというのはできないか? 別にそれほどナインズになりたいわけでもないし」


「シルキスさんがそう言うのであれば、そうしますけど」


「……ちょっと待って。それだと譲ってもらった感があって嬉しくないんだけど」


「意外と面倒くさいな! 大人しく譲られておけ! よく考えたらナインズとか面倒くさそうだし、頼まれても私はやらんぞ!」


 シルキスがそう叫ぶと、穂乃香は口をへの字にして不満げな様子だ。

 だが、これ以上文句を言ってナインズの地位を失うリスクを考えたのか、うつむいて誰にも聞こえない声でブツブツ呟くのみだった。


なにはともあれ。今日は欲しかったマンガ本を買えたし、賞金が振込まれると確定したし、ギルドから勲章をもらえそうだし、ナインズの一人と知り合えた。

 充実した一日だったのだから、疲れるのは仕方ない。

 シルキスはそう自分に言い聞かせた。


「ところで試しに、私をお姉ちゃんって呼んでみる気はない?」


「ねーよ!」

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