第11話 冒険者ギルドはヤベェ組織?

「ところで、ええっと……シルキス・エンケラドゥスさん、ですね。今日はどのようなご用件でしょう」


「だから、ゴローの賞金をもらいに来たんだ」


「ああ、そうでした。シルキスさんが可愛すぎて、死体が目に入りませんでした!」


「そんなことってあるか……? 世界的に有名な賞金首だぞ……?」


「現にそうなったので仕方ありません。ご自分がそれだけ可愛いという現実を直視してください」


 受付嬢は澄まし顔で言う。かなり変な性格だ。

 セリューナは「友達になれそうです」と呟いている。

 シルキスとしては「なんなんだ、お前たち」と思ってしまう。


「ゴローを倒した少女がいると、冒険者ギルドでもかなり話題になったんですよ。支部長いわく、上層部も大慌てだとか」


「ふふん。やはり私が戦う姿は、ギルドとしても無視できないか」


「ええ。娘や孫にしたいくらい可愛いって上層部で評判らしくて……」


「そういう評判!?」


「もちろん、ついでに、、、、強さも話題になってますよ。今まで誰にも捕まらず、ナインズにも匹敵するかもと言われていたゴローを赤子扱い。どうしてあれほどの実力者が今まで無名なのかと」


「強さはついでなのか……この組織大丈夫か?」


「あと、自分も赤子扱いして欲しいと。バブバブ甘えたいと。そう訴えた幹部がいるとか」


「本気で冒険者ギルド大丈夫か!?」


「安心してください。その幹部はイルミナティから出向している方らしいので。冒険者ギルドが雇用しているのではありません」


「幹部として在籍してるんだから同じだろ! というかイルミナティ、なんでそんなの送り込んできた! そりゃ魔法の深淵は狂気に繋がるっていうけどさ!」


「その人、優秀らしいんですよ。ギルドとイルミナティの橋渡しになる、潤滑油的な働きをしているとか……」


「本当に? ただの天下りじゃないのか?」


「シルキスさん、天下りなんて難しい言葉知ってるんですね。偉い、偉い」


「頭を撫でるな!」


「失礼しました。子供扱いされたくないお年頃なんですね」


「お年頃とかじゃない。こう見えて、私は大人なのだ」


「しかしギルドカードの情報では十三歳になっていますよ?」


「それは……複雑な事情があるんだ。実際には五百年以上生きている!」


「ああ、そういう設定なんですね。厨二ぃ」


「設定じゃない!」


 別の星から来た魔王なのだ、と説明すると話が長くなるので言わない。

 しかし地球生まれだとしても、五百歳はあり得るはずだ。


「寿命を延ばす技を使えば、優秀な魔法師なら何百年も生きるだろう。私がそういう存在ではないと、なぜ言い切れる」


「そういった方々は、重ねた年月に相応しい落ち着きを持っていますから。シルキスさんは言動と外見年齢が一致していますよ。それで五百歳とか言われても……」


「言動と外見年齢が一致している、だと……?」


 シルキスはショックで固まる。

 かつてスターイーターに星を滅ぼされたときにも匹敵する衝撃だった。


「や、やはり三年間も人間の少女として過ごすとそうなってしまうのか……済まないセリューナ……私はもう魔王としての威厳を出せないかも……」


「あら、シルキス様。スライムだった頃からそんなもんでしたよ。自分で思ってるほど変わってません。安心してください」


 セリューナはそう耳打ちしてきた。

 物理的な衝撃を受けたと錯覚するほど心が痛い。


「シルキスさん、ギルドカードがあるってことは、以前から登録していたんですね。口座に賞金を振込んでおきます」


「よ、よろしく頼む。確か、高級車を何台も買えそうな額だったな」


「駄目ですよ、無駄遣いしちゃ。車なんか買わないで、可愛い服とかアクセサリーを沢山買って、ツイッダーに写真を投稿しまくってください!」


「そんなことするか!」


「え!? 可愛い恰好の写真を私に直接送ってくれるって!?」


「一言も言ってないぞ!」


「受付嬢さん、わたくしとID交換しませんか? あなたとなら同志になれそうです」


「ぜひ!」


「お、おい、セリューナ……なにするつもりだ……?」


「なにって。この受付嬢さんと友達になるだけですけど。いくらシルキス様でも、わたくしが友達を作るのを止める権利なんてないですよね?」


「そんな権利はないが……」


「なら口出し無用です。早速、写真を送りますねー」


「きゃぁぁっ、可愛いぃぃぃぃぃぃっ!」


「な、なんの写真を送ったんだ?」


「子猫とかハムスターとか、そういう感じのです」


「そうか……小動物は可愛いから、叫んでしまうのも仕方ないな。うん」


 シルキスはセリューナを信じて頷いた。

 受付嬢はヨダレを垂らしてスマホを見つめている。やがて仕事中だというのを思い出したのか、名残惜しそうにポケットにしまった。


「写真は家に帰ってから本格的に堪能するとして……シルキスさん、冒険者としての活動実績が、あまりないですね」


 その疑問には、シルキスの代わりにセリューナが答える。


「わたくし、魔法道具屋をやっているんですけど。シルキス様は、わたくしの店にアイテムを卸しているんですよ」


「なるほど。それでギルドの実績がないんですね。しかし今回ので、普通の冒険者が一生かけても積み上げられないほどの実績になります。白銀勲章……もしかしたら黄金勲章が贈られるかもしれませんよ!」


 実力を認められた冒険者には、ギルドから勲章が贈られる。

 勲章持ちは、ほかの冒険者から一目置かれるし、信用度が高いので名指しで依頼が来たりする。

 もちろん白銀よりも黄金のほうが格上の勲章だ。

 シルキスは勲章を辞退するほど謙虚ではないので、もらえるならありがたくもらう。


 勲章があれば、普通は閲覧できない高度な魔法知識へのアクセスがしやすくなる。

 そしてシルキスがただの子供ではなく、高い実力を持った魔法師だと、誰もが認めてくれるだろう。


 勲章持ちは畏怖される。が、逆に絡んでくる者もいるだろう。

 強者は、別の強者を求める。

 そんな奴らと競い合い、高め合えば、最強が近づく。


「もし黄金勲章だったら、ナインズの候補ってことですよ。今のナインズに空きが出たら、シルキスさんがその後継に選ばれたりして!」


 受付嬢は興奮した口調だ。


「ちょっと待ちなさい! 私はそんな子供がナインズになるなんて、絶対に認めないわよ!」


 突然、鋭い声が背後から投げかけられた。

 もう絡まれてしまったぞ、とシルキスは笑顔になる。

 振り返ると、炎のように赤い髪をポニーテールにした、十八歳くらいの少女がいた。

 シルキスはその少女と初対面だが、顔も名前も知っていた。


「おやおや。ナインズ最年少、日山穂乃香に絡んでもらえるとはな。やはりギルドの実績を積んでおくのも悪くないな。で? 認めないならどうするんだ?」


「まぐれで賞金首を倒せた子供が、自分の実力を勘違いして破滅するのを防いであげる。身の程を教えるから、地下訓練場に来なさい!」


 ナインズの少女は偉そうに腕を組んで、そう口にした。

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