第6話 迷惑系配信者を斬殺してみた

 セリューナが伸ばした手に、シルキスは自分の手を重ねる。

 魔力がほとばしる。

 シルキスの傷がたちどころに塞がる。セリューナの体が剣へと変化する。


「な、なんだ、その剣は……なんで傷が治っている!? あんな重傷を一瞬で治す魔法もアイテムも、俺は知らないぞ!」


 ゴローから余裕の笑みが消え、反対に慌てふためいている。


「知らんのか? 今のはキュアだ」


 シルキスは答えを返してやった。


「キュアだと!? ふざけるな! 初級の回復魔法でそうなるわけがない!」


「同じ魔法でも、使い手の魔力と技術で結果は変わる。常識だろう?」


「しかし、その変わり様は非常識だ!」


「私とお前では、常識が異なるのだろう。無理もない。私は魔王だ。その再臨に立ち会えた幸福を噛みしめながら死ぬがいい」


「……は! 魔王ってなんだよWEB小説の読みすぎなんじゃねーのか!? ガキが調子くれやがって……いたぶるのはやめだ。瞬殺してから屍姦配信してやる。切り札を見せてやるよ!」


 冷汗を流しつつも、ゴローは笑みを取り戻した。

 そして地面に魔法陣を広げる。


「ほう。その術式、隷獣れいじゅうの召喚か。どんなものを呼び出すのか楽しみ……いや、待て」


 シルキスは驚きの余り、目を丸くした。


「セリューナ、あの気配はやはり――」


「ええ。そのようですね。まさか、こんなところで相まみえるとは」


 セリューナは剣になっても声を発することができる。

 表情は出せないが、それでも驚いているのが声色で分かった。


「へえ、へえ! お前らみたいな奇妙な奴らでも、俺の隷獣にはビビるらしいな! 有名か? そうだろうな! 俺を最強たらしめている、守護神様だからな!」


 魔法陣から現れたのは、亀だった。

 収納しているからか、頭も手足もまるで見えない。

 だが甲羅だけでも、中に大人が十人以上も入れそうな巨体だ。

 そして大きさよりも注目すべきは、甲羅の材質。

 明らかに金属としか思えない輝きを放っている。

 それもそのはず。

 こいつの正体は亀ではない。

 無数の盾が集まって、亀の甲羅のようになっているのだ。

 シルキスとセリューナは、中身などないと知っている、、、、、


 シルキスは剣を振り下ろす。黒い斬撃がオーラとなってゴローに襲い掛かる。

 が、亀の甲羅が分裂。瞬時に組み替えられ、ゴローの前に壁を作り出した。

 斬撃はそれに阻まれ、掻き消されてしまう。


「すっげぇ魔力だな! しかし、それさえ防いだぜ。やっぱり俺の守護神は最強だ!」


 ゴローは歓喜の声を上げる。

 そして壁を組み替え、また甲羅状に戻す。

 甲羅はゴローを包み込む。まさに鉄壁。


「どうよ。これで全方位からの攻撃を遮断できるぜ。絶対! 無敵!」


「この世に絶対も無敵もないぞ。アダマンタートルは確かに硬いが、弱点も多い」


「アダマンタートルだぁ?」


「なんだ。隷獣の名前も知らないで使っていたのか。なら死ぬ前に覚えろ。ついでに弱点を教えてやる」


 シルキスは魔力で炎の渦を作り、ゴローの周りを覆い尽くした。

 ゴブリンロード程度なら即座に炭化する熱量だ。


「こんなんでどうにかなるわけねーだろ! なにが弱点だ!」


 ゴローは威勢よく叫ぶ。が、すぐに声が小さくなった。


「なんだ……息が、苦しい……」


「その炎は魔力で生み出したものだが、ちゃんと酸素を消費する特性を持たせてある。ほら、早く脱出しないと窒息するぞ」


「が、はっ!」


 甲羅が割れ、勢いよくゴローが飛び出してきた。

 炎の渦から転がるように逃れ、恨めしそうにシルキスを睨んでくる。


「はあ……はあ……なるほど窒息ね。それなら確かに硬さは関係ねぇ……教えてくれてありがとよ。おかげで賢くなったぜ。要は籠城は厳禁。普通に盾として使えばやっぱり無敵ってことだな! ふははははははは! 蹂躙&強姦タイムの幕開けだぁぁぁぁっ!」 


 ゴローは高笑いしながら、無数の盾を自分の前に並べた。

 シルキスは「やれやれ」と呟きながら指を鳴らす。

 すると盾の一枚が砕け散り、魔力の光へと還元され、大気中に霧散していく。


「な、なんだぁ……?」


「隷獣とて魔法の一種。使い手の魔力で性能が変わる。お前如きでは、私の指先一つで砕けるような防御力しか出せない」


「馬鹿な馬鹿なっ! 今までこんなことをできた奴はいなかった! 警察の特殊部隊だって、有名な賞金稼ぎだって、盾をどうにもできなかった……なのにお前みたいなガキがどうして!」


「そいつらより私が強い。そんなことも分からんか?」


「分からん! 認めねぇ! 一枚だけならマグレかもしれねぇ! だから、これでどうだぁ!」


 ゴローは必死の形相で、何十枚とある盾を全て一直線に並べた。


「魔王だかなんだか知らねぇが、さすがにこれは貫けねぇだろう!」


「一点集中するのはいいが、どうして私がその一点を狙わなきゃならんのだ? まあ、いいけどな。お前は迂回が必要なほどの相手じゃない。真正面から叩き潰してやる。セリューナ、私の魔力を吸え」


「ああ、なんて甘美な魔力でしょうか……目に物見せてやりましょう」


 セリューナの刃が、暗黒の魔力をまとう。

 シルキスは天を刺すように構え、一気に振り下ろす。

 先程とは比べものにならない高密度の斬撃が放たれた。

 それはゴローの挑戦に応え、盾を一枚ずつ砕き、魔力光に変えながら突き進んでいく。


「十枚、二十枚……止まらねぇ!?」


 ゴローは盾が次々と数を減らすのを見て、目を血走らせた。

 自分から勝負を挑んできたくせに、脱兎のように逃げだそうとする。

 だが、逃がさない。


「足が動かない……!」


「防御結界を応用して、お前を地面に縫い付けた。早く術式を解析して解除しないと、盾が全てなくなるぞ。ああ、ほら、あと五枚しかない」


「頼む、許してくれ! 謝るから! なんでもするから! そうだ金をやろう! 俺は殺した奴の装備を売り飛ばしてるから結構金持ちなんだ……見逃してくれたら、これからずっと分け前をやる!」


「駄目だ。死ね」


「あああああああああああ!」


 黒い斬撃が最後の盾を粉砕し、ゴローの体にゆっくりとめりこんでいく。

 死んでいくのをじっくり体感できる速度。

 汚い悲鳴を上げて、史上最悪の迷惑系配信者は真っ二つになった。


 盾を構成していた魔素が、洞窟を漂っている。

 シルキスは手のひらからそれを吸い取る。

 前世で使っていた武器の一つ、隷獣アダマンタートル。

 その回収が完了した。


「思わぬ収穫だった。さて、帰ろうセリューナ。語り合うことは山ほどある。けれどまずは再会を祝いたい。よくぞ私の魂をこの星まで運んでくれた。ありがとう」


「こちらこそ、お礼を言わせてください。魂だけの状態から受肉してくださり、そして無事に記憶を取り戻してくださり、ありがとうございます。またこうしてシルキス様と戦えて、セリューナは幸せでございます」


「苦労をかけたな。では、二人でもう一度最強を目指そう。どうやらこの地球という星、なかなか尋常ではなさそうだ。刺激に満ちているのは素晴らしい。私たちを高みに導いてくれる」

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