無様な灰被り(上) 2
この世界に渡って来てからの出来事を日記に書くことにする。
日記を付ける理由について訊かれた時、僕は「こっちの世界の文字や文章を書く練習のため」と説明した。
けど実際の理由は、また何かを忘れることが、怖くて
●●●
最初から書いていこう。
僕はこの世界にやって来た。日付について知ったのはさっきだけど。
何の前触れもなくこっちの世界に放り出されて、僕は酷く混乱した。
――なんて書くと、我ながら
けど今となっては、この時のことはもう遥か昔の出来事のように思えて、なんだか上手く書き表せない。
とにかく気づけば僕は、あの国の辺境、街道近くの荒野に
そうして混乱の末に、僕が初めて発した言葉は
「……なんで裸なんだよ?」
僕は
股間に手をやりつつ、僕は慌ててあちらこちらに目を遣った。
「どこかに隠れなきゃいけない」って思って。
遠くの方に、やけに
とはいえ歩いていくには遠すぎる。
その上、何となくその森は
そちらに行こうという気に、何故か僕はならなかった。
だから代わりに僕が急いで向かったのは、直ぐ近くの
姿を隠すには貧弱なものではあったけど、ひとまず僕はその茂みの傍にしゃがみ、自分の姿がなるたけ街道から見えないようにする。
僕は少しだけ安堵した。
けれど、直後にさっきよりもひどい混乱に突き落とされてしまった。
それは自分自身が、半ば無意識に呟いた独り言が切っ掛けだった。
「本当、何で裸? どこへ遊びに行ったんだ? 僕の学生服」
言ってから、僕は自分自身の言葉を、改めて考えてみた。
すると――、
「『学生服』って……何だっけ?」
裸の背中に嫌な汗が
胸が重くなって、息苦しくなった。
さらには内臓がざわざわするような感覚。
「えっと、ミズモト――違う、
嫌な思いをしながら回想しただけあって、それなりに当時の言葉を正確に書けていると思う。
こちらの世界に来て、僕は
僕が向こうの世界に残して来た色々なもの。それを思うと今でも胸が痛む。
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