第24話 色魔術 その①
*
ファーリスのダンジョン第1階層。
ここには現在、バトルチーム焔とバトルチーム小夜が滞在している。どちたのバトルチームもダンジョン最強を自負している。実際両者の実力は拮抗している。しかしそれはあくまでスキルと武術のウデマエに限った話であって、実際のところは両チームには無視できないほどの差が存在していた。
それは魔法のウデマエである。
魔界クレッシェンドの魔法体系≪
焔の≪
魔法は一朝一夕で身につくものではなく、タツジンになるには長い修練と実戦経験が必要なのだ。
色魔術に関しては焔が初期から強い関心を持ち、熱心に研究と指導をつづけてきた。そのかいあってバトルチーム焔は他のバトルチームよりも色魔術の習熟度が高い。
そのためバトルチーム焔はファーリスのダンジョンにおける魔法指導を任されていた。具体的には、ダンジョンのモンスターたちに向けて、色魔術の講習動画を配信したり、実地指導を行っているのである。
それが小夜には面白くなかった。ダンジョン最強格ともいえる自分が魔法に関しては素人という事実は屈辱でしかなかった。特に魔法の実地指導のたびにレーナに口を出されるのがいやで仕方がなかった。
小夜はレーナが嫌いだった。レーナは弱いくせに妙に優遇されているのが我慢ならない。レーナはもともとマスターの愛人だったと聞く。マスターの寵愛をアリスに奪われたのは”ざまあ”ではあるが、それはそれとして今はバトルチーム焔に在籍し、あんなに弱いくせに焔に認められているのが許せない。
私だって焔に認めてもらいたい。
いつか目にものみせてやる。とはいえ自分の得意分野のスキルや武術でボコボコにすることは簡単すぎてエレガントさに欠ける。ならばレーナの唯一の得意分野、魔法でボコボコにしてやる。
その機会が今かもしれなかった。第1階層での待機時間で上下関係をはっきりさせてやる。
小夜は高い魔法適正を持ち焔の動画をみながら熱心に魔法の修練を続けた。魔法に関してはもう初心者ではない。なにより生まれ持ったバトルセンスがある。今ならレーナには負けない。
「というわけで魔法で勝負よ! レーナ」
「??」
突然の申し出にレーナは困惑している。しまった。もう少し自然に切り出す予定だったのに、気持ちが先走ってしまった。小夜は赤面しそうな自分を必死で抑えた。
「勝負と言われても……いったい何をするんですか? 小夜」
意外なことにレーナは逃げる気はないらしい。
「どちらかが死ぬまで殺しあうのよ!」
「そんな勝負できません!」
これに関してはレーナの言う通りだった。いくら憎くても仲間殺しは最悪だ。殺し合いなんてするつもりはなかったのに、なぜだかそんな提案をしてしまった。どうかしている。
「小夜を失ったらダンジョンの大きな損失ですからね」
「なんでお前が勝つ前提で話してんだァ!!」
予想外に煽ってきたからブチ切れてしまった。ダメだ。クールにクールに。小夜は必死で自分に言い聞かせた。落ち着け。普段通りクールに。
「事情は聞かせてもろたで!」
嬉しそうに焔が駆け寄ってくる。気が付けばこの階層にいる全員がこちらに注目している。
「その勝負ウチが立ち会わせてもらうで! さっそく勝負の内容を決めたいところやが、レーナの身内のウチがそれ決めたら公平とちゃうやろ? そこで
詩月とよばれたモンスターはうっすらと笑みをうかべた。白いワンピースをきた儚げな印象を持つ美少女の姿をしている。一人称は詩月。
「詩月が決めていいの? 公平というなら詩月も小夜様の身内だよ?」
「まあそこは構わん。レーナが魔法で小夜に負けることはありえんから」
バトルチーム小夜の面々がざわついた。チーム焔がめちゃくちゃ煽ってくる。
「それならこうしようかな。互いに魔法で撃ち合って先に有効打を当てたほうが勝ち。わかりやすくていいでしょ?」
「あ、そのルール穴があるで」
「そうなの?」
「小夜はレーナに魔法の有効打を与えることはできん」
流れ的に煽りのように聞こえるがこれは事実である。小夜の属性適正は≪竜≫と≪標≫。このふたつの属性はレーナの≪鋼≫に有効打を与えることはできない。
「属性適正の時点で私が劣っているっていうの……」
「劣っているというよりは相性の問題ですね」
「小夜の属性適正≪竜≫と≪標≫の組み合わせやと、≪鋼≫には有効打を与えられず、≪霊≫と≪妖≫の相手には魔法を無効化される可能性がある。弱点をつく力で言えば、≪竜≫相手には弱点をつくことができるが、しかしそれだけや」
「えええ! ひょっとして私、ゴミ属性なの!? 竜属性だから最強だと思ってたのに」
「そんなことないですよ。その代わり小夜は多くの属性に耐性をもち、弱点も4つだけなので」
「ダンジョン最強格の私に弱点があることが許せないわ」
「それがこの世界のルールやからしゃあない。ウチにだって弱点が4つもあるんやから」
「私は火属性がすごく苦手で。弱点は努力ではどうにもならないですが、そこは仲間が補ってくれます。例えば私と焔は二人で戦うことでお互いの弱点を補いあえるんです」
「まだまだ連携はできとらんけどな……」
「そうなのね……あまり属性の相性のことは考えてなかったわ」
「バトルチーム決めはアリスがやっとるから、ある程度は属性のことも考えてくれとると思うで」
属性談議に花が咲いた。意外と盛り上がった。
「あの……勝負は……」
詩月がバツが悪そうに尋ねる。
「ああそうやったな。じゃあこうしたらどうや。レーナが今からある魔法の技術を見せる。小夜がそれを超える技術を見せたら小夜の勝ち」
「わかった」
レーナが魔法を見せようとすると、小夜がそれを遮った。
「待って焔。先に私からやらせてほしいの」
「おお、ええで」
「魔法の細やかな技術ではレーナに勝てないと思う。弱点属性の理解さえできていなかったんだから。でもね私は私なりに必死で魔法の練習をしてきたの。その成果を先にみんなに見せたいの……≪
小夜は精神を集中し竜属性にエレメントチェンジした。竜属性のイメージカラーは青紫色である。淀みなく流れるような見事なエレメントチェンジだ。小夜はそこからさらに魔力を高めていった。
「おお見事なエレメントチェンジや。体が≪竜≫そのものに変換している」
「なるほど≪竜属性≫になると身体能力が爆上がりするんだ」
属性適応が高いとエレメントチェンジの際、使用者の体が属性そのものに変化する。これを
「ここからさらに魔力を高め腕に集中させる。その状態で刀を抜く―――武術と魔法を融合させる――
小夜は腰を低く落とし半身となった。右手を刀の柄に、左手を鞘に。居合い抜きの構えをとった。
「――≪
チャキンと鍔鳴りがしたが、小夜の刀身をみることができたものは焔を除いていなかった。
瞬間、第1階層が揺れた。凄まじい圧がびりびりとフロア全体に広がっていく。体重の軽いものはストンと尻もちをついた。9匹の狐は恐怖のあまり失神した。ドラゴニック・ザンそれは例えるなら竜の咆哮だった。無兆候で繰り出される広範囲斬撃魔法である。
パチパチパチと拍手がなり、次いでバトルチーム小夜の面々から「小夜! 小夜! 小夜!」と小夜コールが連呼された。
「見事や……魔法と武術のミックス……とはいえどちらかと言えば武術寄りやな……小夜なら魔法使わんでも似たようなことはできるやろ」
「そうね……認めるわ。極めた武術は魔法と見分けがつかない」
小夜はふう~っと息を吐いた。
「さてあなたの番よ、レーナ」
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