第14話 魔王との交渉 その①

  やるべきことが多すぎる。やるべきことが山ほどある。ありすぎて何をしたらいいかわからない。何をしたらいいかわからないからおれは何もしていない。何もしていないから不安になる。とりあえず何かしなくては。しかし何をしたらいいのかわからない。という無限ループ。この状態すごく健康に良くない気がする。頭の中でカーソル動かすだけでよかった日々とは大違いだ。

 

 とはいえあの頃に戻りたいとは全く思わない。今のおれには、おれにしかできない仕事があり、やるべきことがあるのだ。しかしやるべきことが多すぎる。

 

 ひとまず今後のことを決めなければならない。現在の戦力はジェービーと焔の2体だけ。敵がダンジョンに入ってくるかわからないのでとりあえず第1階層にはジェービーと焔にいてもらっている。おれとレーナも第1階層に残っている。


 おれとレーナだけでダンジョン運営をするのが、今のおれには大変プレッシャーに感じるので、どうせならジェービーと焔にも話を聞いてもらいたいのだ。


 特にジェービーと話をすることが重要だ。マリンと融合したことで、この世界と瓦礫の塔の情報を山ほど得ている。ジェービーはとにかく情報を持っているのだが、情報が多すぎて手に余る。


 たくさんの情報を聞き出す能力はおれにはないし、たくさんの情報を処理する能力もない。レーナにたのんで情報処理とついでにダンジョン運営をやってもらおうと思ったのだが、それはできないとのことだった。


 レーナが言うにはわたしは別に情報分析のエキスパートというわけでもないですし、また情報をもとに戦略を立てることが得意なわけでもないですから、とのことだった。それでもおれがやるよりマシと思う。と言ったら、


「ここは誰のダンジョンですか」


 とめちゃくちゃ怒られた。

 

 わかっている。おれは弱気になっている。おれはダンジョンを運営することが怖くなっている。たぶんジェービーをデリートする決断ができなかったことが今になって影響してるのだろう。結果的にジェービーは助かって最高の結果にはなったけど、あれが上手くいってなかったら、おれはジェービーをデリートできただろうか。デリートできたとしてその事を悔やまずにいられただろうか。

 

 こういうことで悩む時点であんまりダンジョンマスターに向いてないのかもしれない。いやまた弱気になってるな。がんばれおれ。おれがやらずにだれがダンジョンマスターをやるんだ。


 今はジェービーと焔が話している。焔はこの世界の魔法体系に興味があるらしく、ジェービーにいろいろと質問をしているみたい。


 ばジェービーはマリンと融合したときにこの世界の魔法を使えるようになった。この世界の魔法体系は≪色魔術カラード≫といって、魔術適正の他に属性適正というこの世界独自の適正も必要な魔法。属性には相性があるから格下の相手にも属性の相性次第で負けてしまうことがある。属性同士のジャンケンみたいな魔術ってことなんだろうね。


 ちなみに焔は鳥居稲荷のスキルが解けた瞬間、狐耳がなくなり髪の色も黒に戻った。そして≪鑑定≫をはじめとするスキルの多くが使用不能になってしまった。9時間経てば元に戻るらしいが、現在の焔は普段の9分の1くらいの強さらしい。今は触手を9本しか使えないとのこと。


 強いスキルにはそれ相応の代償が必要なんだね。


 ジェービーと焔はうまくやっていけそうな気がする。スク水女子姿のジェービーとセーラー服姿の焔が話しているのをみていると、不思議と心が安らぐな。なぜだろう。ジェービーも焔もたいそうな美少女の姿だからかな。


「マスターいつまでボーっとしているんですか」


「あ、ごめん。今共有ディスプレイを持ってくるから」


 問題です。現在、共有ディスプレイは50階層に置いてあります。それを第1階層に持ってくるにはどうすればいいでしょうか。答え:配置を変える。


 ≪ダンジョンマスター≫の能力には「配置を変える」という便利な機能がある。おれのダンジョンは50階層もあるので1~50階層を正式な手順を踏んで移動するのは非常に大変なのだ。そこで「配置を変える」の出番だ。この機能を使えばダンジョンの階層間の移動は一瞬で済む。


「共有ディスプレイの配置を変えてっと」


 光の塊が出現しその中から共有ディスプレイが現れる。実に簡単だ。


 移動できるのはモノだけでない。モンスターも移動できる。


 ただし「配置を変える」には制限がある。一度に配置を変えるとしばらくの間「配置を変える」を使えなくなるのだ。配置を変えるを使えなくなる時間は、配置を変えたものの種類によって異なる。共有ディスプレイの場合は4時間。モンスターだと5日間。そして一度に配置を変えることができるモンスターの数は5体までと決まっている。配置を変えるはかなり便利だけど、使いどころは考える必要がある。なんでだろうね。


「おそらくモンスターの配置換えってダンジョンマスターの奥義みたいなものなのだと思います。焔のスキルにクールタイムがあるように、配置換えにもクールタイムがあるのでしょう」


「なるほど。たしかに危なくなったモンスターを離脱させたり、敵の目の前にいきなり強いモンスターを呼び出したり便利な使い道がありすぎるものな」


 ちなみに、なぜだか知らないけどおれとレーナに関しては「配置を変える」のクールタイムが非常に短い。大体4時間くらい。モノのクールタイムも同じくらい。その発見をしたときおれとレーナは、


「おれたちってモンスターではないのかな。人間ではないんだろうけど」


「システムにモノ扱いされているのかもしれませんね……」


 ということを話した。まあ便利だからいいけど。


 とりあえずダンジョンが広ければ広いほど、ダンジョンマスターを殺すことは難しいということは理解できた。まして世界を支配下に置いたバアルを殺すなんて不可能に近いのではないか。


「まあいいや。とりあえず何をしたらいい」


「わたしはダンジョンに情報分析機関を設置するべきだと思います。それと作戦立案機関」


「情報の分析と作戦立案を誰かにやってもらおうって話だな」


「そうです。マスターは機関が立案した作戦をもとに意思決定……つまり選択をする」


「それが重いんだけどな……まあ情報分析や作戦を立てるのを誰かに任せるのは賛成だ。全部自分でやってたら間違うだろうししんどいからな」


「あとは戦力となるモンスターを多数、早急に購入したいですね。戦争みたいになるかもしれないですし……たくさんのモンスターを軍事的に運用しないといけなくなるかも……」


「うん。それとバアルと話せたら話したいな。ほら前にレーナが言ってただろ。ダンジョンは世界の生と死のバランスをとりながら運営するもんだって。そうじゃないとポイントを稼げないからって。バアルが世界を全部手に入れてるなら、ひょっとしてポイントを稼ぐのに苦労してるかもしれない」


「マスターさすが! そうですね! バアルとわたしたちって今のところ敵対しているわけじゃない。そっか……交渉次第で共存できるかもしれないんだ……」


「でもどうやって連絡とったらいいんだろう」


「それは……あっ!」


 レーナがなにかを思いついたようだ。


「ネットで連絡取れると思います」


「おお~!」


 おれとバアルが共存できれ世界は平和だ。この物語のエンディングが見えてきた。

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