第15話 魔王との交渉 その②

 *




 魔法というものは本当に面白い。魔力の性質が世界によって異なる。そのため世界ごとに使える魔法が異なる。


 前の世界で巫術という魔法体系を極めた焔だが、この世界では巫術を使うことはできない。そして今の焔にはこの世界の魔法を使うこともできない。ゆえにこの世界では焔は魔法の初心者で、全くの素人であった。


 ゆえに面白い。この世界の魔法は色魔術カラードと呼ばれる。自身の属性を火や水などに変化させる《属性変化エレメントチェンジ》という魔術を基礎とする魔法体系である。


 属性の数は全部で18種類もある。すべての属性を極めたいと思った焔だが、属性を扱うには「属性適正」というこの世界独自の要件を満たす必要がある。


 つまり適正のない属性は使えない。ということだ。《魔法適正:S》という途方もない才能を持つ焔であっても、この世界では属性適正がなければその属性の魔法を使うことができない。残念なことだ。


 しかも個体が持ちうる属性適正の数には上限がある。その数2種類。適正を持たない残りの16種類の属性は扱うことはできなくなる。


「ふ~む難しい魔法やな~」


「いや魔法はかなりシンプルだから習得はそんなに難しくないよ」


 焔と話しているスクール水着姿の女子はジェービーである。


「習得の話やない。縛りがきつくて立ち回りが難しいなと思ってな……この魔法体系やと“単独で最強の魔法使い”になれんやんか」


「どうしたって弱点属性が出てくるからね~」


 火は水と地と岩に弱い。水は草と電に弱い。などなど。それぞれの属性には相性が存在する。


「あとは耐性の問題もあるやん。属性の相性が悪いと敵の防御を突破できない、なんてこともあるやろ……」


「あ~あるある。まあそこはスキルや技術でで補って行くしかないだろうね」


「そうやな。魔法戦に付き合わないのも手か」


「あと属性適正にもF~Sのランク付けがあるからね。A以上の適正があればエレメントチェンジしたときに体がその属性そのものに変化させることができるんだ」


「ほう……体そのものが変質するんか」


「属性転化の最大のメリットは修復力かな……部位欠損した部分もそれで治ったりする。属性転化した上でその属性の魔法を受けると、その魔法を吸収して魔力の上乗せもできるようになる」


「う~む。回復魔法はそれで代用する感じなんやな……」


「そうだね。回復魔法もあるにはあるけど」


 焔がほほを撫でながらうつむく。


「この世界の魔法、極めるなら属性適正の縛りをどうにかせんとな……」


「……どうにかなるものかな?」


「どうにかするのが極めるってことや」


 そして焔はニッといたずらに笑った。


「新しい世界の新しい魔法……おもろいなあ」


 鳥居稲荷のクールタイムもあと少しで終わる。それが終われば《鑑定》を使い、自分と属性適正とやらを確認し、基礎から色魔術を研究しよう。ワクワクしてきた。


(にしてもこの魔法体系はウチみたいなひねくれ者には厄介やな……


 個の強さよりもむしろチームとしての強さの方が戦術的に重要……チーム戦術の研究に重点を置くべきかも知れない。そこにスキルも絡んでくる。


(ほんま厄介やな……)


 自分を鍛えるだけでなく、自分の苦手属性を補ってくれるチームを作る。それは焔にとってははじめての体験になるであろう。


 だからこそ燃える。この世界でも最強になって、最強の戦闘チームを作ってやる。焔は決意を固めるのであった。




   *




 次元ネットワーク上にあるサービスはDANAZONだけではない。おれがよく利用するエロ画像サイ……だけではなく、次元ネットワークのユーザー同士の交流を目的とするDNSディメンションネットワークサービスというサービスがある。


 DNSにはDixiやDuitter(最近Dという名前に変わった)など様々な種類があるのだが、その中でもダンジョンマスターの利用者数の多いのがダンスタグラムだ。


「それに登録すればバアルと連絡が取れるんだ?」


「たぶん!」


 たぶんか……まあダンスタグラム使ったこと無いからやってみないとわからないわな。ダンスタはアカウントを登録しないと使えないみたい。ではさっそく登録してみよう。


「あなたの名前は?」


 とダンスタが聞いてくる。このメッセージトラウマなんだよな。


「これは本名の方がいいの?」


「オフィシャルなアカウントですから本名の方がよさそうです」


「わかった。名前を入れてパスワードを設定してっと」


「マスターもだいぶシステムの操作に慣れましたね」


「レーナに教えてもらってるからね」


「そのうちわたしが教えることもなくなってしまいますね」


「そんなことない。わからないことだらけだよ」


 まじで。レーナがいなかったらおれは今でも矢印と格闘していただろう。そう考えると恐ろしいな。


「興味のあることを教えてくださいか……べつになんもないな」


「マスターってなんにも興味ないんですか?」


「うーん。アレかなダンジョンに興味あるってことにしようかな(女の子に興味があるとは言えなかった)。よし登録できた」


 意外と簡単だった。すると画面が切り替わる。


 まずは5人フォローしてみよう!! オススメのユーザー一覧 


・バアル……最年少魔王ですから←←

・ハーゴン……ダナゾンCEO 魔王↓

・アルジェ……いちおう勇者やってます←

・ナブラチロワ……魔王~!魔界を魔改造↓

・デスダーク……きみも魔王になろう!↓


「おお、いきなり見つかった!」


「フォローしましょう!」


 バアルをフォローし、バアルの画面に行くと、そこにはたくさんの画像が載っていた。


「この銀髪サラサラロングのイケメンがバアルなんだよね?」


「みたいですね。すごい「いいね」の数です。ダンスタで『いいね』いっぱいもらうとダンジョンにポイント入るんですよ」


「おお……ポイント貰えるならおれたちもやろうか?」


 レーナ、ジェービー、焔、みんな美形だけど。


「え~やだあ! 恥ずかしいです……。たぶん見た目よりも実績がないと人気でないと思います。バアルは美形の上に魔王だから人気があるんですよ」


「最年少魔王ってすごいんだな」


「そうですね。想像もつかないくらいすごいです」


 さて本題だ。ダンスタにはメッセージを送るという機能がある。この機能を使ってバアルと連絡をとることができる。


「なんて送るんですか」 


「こんにちわ。死ね」


「バアルと戦争したいんですか」


「冗談だよ。まったくウケなかったけど。とりあえずバアルにおれからのメッセージだって伝わらないといけないから、たとえば『マリンのことで話したい』とか。おれとバアルしか知り得ない符号的なメッセージを送るよ」


「なるほどそうですね。マリンに関しては殺してしまったので向こうの印象悪いかもしれませんが……」


 マリンを殺してしまったのは事実なのでしょうがない。正直に言うしかない。


「そういえばマリンを殺したとき、うちのダンジョンにポイントって入ったの?」


「入ってましたよ。giaiei293nooポイント」


「多いのか少ないのかもわからないな……」


「考えないようにしましょ!」


 さて、バアルにメッセージを送る。


『バアル さん へ

 はじめまして バアル さん

 わたしは あなたと同じ世界の ダンジョンの ダンジョンマスター ファーリスです。

 あなたと お話 したいです。 マリン さん の ことも 話したいです。

 よろしく お願いします ダンジョンマスター ファーリスより』 


 こんな感じでいいだろう。何気におれの名前をだしたの初めてかもしれない。


 どうも。ファーリスです。

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