第4話 死のギフトカード
*
ネット検索をしたりシステムのマニュアルを読んだりして過ごした。レーナが目を覚ましたのは気を失ってから20時間後だった。
「あ、いつの間にかわたし、寝て……ベッドまで」
「おはよう」
「おはようございます、その、倒れてしまい申し訳ありませんでした。ベッドまで用意していただきありがとうございます」
「いいんだ」
「わたし、寝ていたんですけど、寝ている間、ポイント管理ヘルプアシスタントシステムの知識を総動員して、マスターのトラブルの原因と問題解決の方法を考えていたんです」
「ありがとう」
「でも原因はわかりませんでした。解決方法もわかりませんでした」
「気にしないで」
「わたし、わたしの考え方を変えることにしました。たしかにマスターのシステムは壊れています。けどマスターのシステムはいい意味で壊れてるんだと思います。きっとマスターはわたしが知ってるダンジョンマスターの常識をぶち壊す存在なんです」
「……ありがとう」
「マスターを支えるために、わたしもいい意味で壊れたい」
ダンジョンマスターとして壊れてしまったおれにとって、レーナの言葉は嬉しかった。
「レーナも一緒に壊れてくれるの?」
「はい!」
「ありがとう。でもレーナまで壊れちゃったらまともなダンジョン運営ができないよ。レーナはレーナのままでいいんだ」
「あ、ありがとうございます」
「体はどう? 動けるなら手伝ってほしいな。なんせ何をしたらいいのかわからなくて」
しょうがないですね、とレーナは笑った。
*
レーナが仕事に復帰した。
レーナがまずやるべきと言ったのは、ポイント残高の確認だった。自分が何ポイント持っているのかわからない状態でダンジョン運営は出来ない。もしポイントがゼロ以下になってしまうとダンジョンマスターの権能が一切使用できなくなってしまう。
この状態をブレイクと言うらしい。ブレイクはダンジョンマスターにとって死と同じくらい恐ろしい状態らしい。レーナいわく、
「ブレイクしたダンジョンマスターのところには悪いやつらがゴロゴロ集まって死んだほうがましなくらいのひどい目にあいます」
とのこと。それはたしかにおそろしい。ブレイクを避けるためにもポイント残高の確認は重要だ。
「現在のポイント残高はいくらですか?」
「ggjkisekitポイント」
「……はい。これをどうにか数字に換算できないか試してみましょう」
レーナはDANAZONを利用してポイントの残高を確認する方法を提言した。
「DANAZONには『買えるだけ買う』という詐欺めいたバカげた機能がついています。これを利用すればポイントの残高を推定できると思います」
DANAZONの買えるだけ買うとはポイント残高続く限り同じ商品を購入する機能のこと。
ほとんど使う者はいない。なのになぜこんな機能がついているかというとDANAZONのポイント稼ぎのためらしい。
過去にどこぞのダンジョンマスターが遊び半分でポーションを買えるだけ買ったところ、大量のポーションが届いてダンジョンがポーションまみれになり、返品しようとしたが断られ結局ブレイクしてしまったという事例がある。その時のDANAZONは過去最高の売り上げを記録したとか……。
「『ひのきの棒』というアイテムをご存じですか? これは発売以来ずっと10ポイントの単価で販売されているアイテムなのですが、マスターの画面では何ポイントで販売されていますか?」
「fdsポイントだよ」
ひのきの棒のポイントの表示もおかしくなっている。
「fdsポイントですね……さて、今回はひのきの棒を『買えるだけ買う』で買います。が、実際には買うわけではありませんのでご安心を。購入可能な棒の個数を確認するだけです」
「そうか。おれが買える棒の個数に10を掛ければポイントの残高がわかるんだね。さっそくやってみる」
やってみた。
「dujnddyuokjdoo個だった」
さて問題です。dujnddyuokjdoo×10は何ポイントでしょうか? 答え:わからない。
「ぐ……」
レーナは言葉に詰まった。頭を抱え、
「ブツブツ……実際に購入してみて届いた棒の数を数えれば……いえ、それではポイントが消費されてしまう……返品さえ可能なら……いえ、大量に注文した商品を返品なんかしたら詐欺に問われる可能性が……今後一切取引できなくなるかも……ブツブツ」
「商品券は?」
おれが言うとレーナはハッとしたようだった。
「そうか! DANAZONギフトカード…!」
DANAZONギフトカードはDANAZONが発行する商品券だ。ギフトカードのポイントをDANAZONのサイトにチャージすれば、チャージしたポイント分の買い物ができる。1ポイント分のギフトカードの購入費用は1ポイントなので損は感じない。
「1,000,000ポイント分のギフトカードを『買えるだけ買う』で買い、そのあと届いたギフトカードの枚数を数えればおおよそのポイント残高がわかりますね」
届いたギフトカードはDANAZONにチャージすれば再び通貨として使える。DANAZONでしか買い物ができなくなるというデメリットはあるが、その条件さえ呑めれば最も損失の少ない残高の確認方法かもしれない。
ダンジョンマスターの初期ポイントの平均は5,000,000ポイントだった。おそらくおれのポイント残高もそれくらいだろうから、たぶん4~6枚のカードが届くんじゃないかな。
「これやるとDANAZONでしか買い物できなくなくなるけど大丈夫かな?」
「うーん、ひょっとしたら困ることもあるかもしれないですが、必要なものはだいたいDANAZONで揃えられますし、残高の確認は絶対に必要です。やりましょう」
「わかった! やってみる!」
1,000,000ポイント分の商品券を買えるだけ買い……購入を確定! やってみたのはいいけど、高額の買い物ってなんか怖いな……
直後に部屋の中央に光の塊が現れ…………って、でかくね!?
光の塊がどんどんでかくなっていく。さらにでかくなっていく。さらにさらにさらにでかくなって部屋全体に広がっていく。光の塊の大きさは届くモノの大きさとだいたい同じ。つまりこの部屋に、部屋を埋め尽くすほど大量のギフトカードが届くということ!?
「この大きさヤバくない!?」
「ひょっとしたらこの部屋に入りきらないくらいのカードが届くのかもしれません!」
「このままだと大量のカードに押しつぶされて死ぬかも!」
「マスターどうしよう!」
「ひとまずベッドの下に隠れよう!」
レーナと一緒にベッドの下に隠れながらおれはDANAZONのサイトにアクセス、注文をキャンセルするのボタンをカーソル操作で連打する。
「キャンセル5,000連打だ!」
「消えて消えて消えて!」
すると光の塊はどんどん小さくなり、やがて消えた。ディスプレイには「注文がキャンセルされました」の文書が表示されていた。
「はあ、はあ……助かった……」
「まさかDANAZONギフトカードで死の危険を感じることになるなんて……」
これでわかったことはおれは大量のポイントを所有しているらしいということだ。少なくとも部屋いっぱいのギフトカードを買えるくらいのポイントは持っている。
「レーナに贅沢させられるね」
「いえ、実際に注文できたわけではないので、ポイントの量はまだわかりませんよ?」
「それもそうか」
「でもマスターならすごいダンジョンを作れそうだって思いましたよ」
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