進歩

 テーブルに紅茶のカップを置く。


「まずくはなくなったわね、よく頑張りました」


 フリートがネモに微笑むと、安堵したように息を吐いた。 


「けれどあれね、アナタ出来も態度も悪いけど、音はあげなかったのね」

「それはお前さんも同じだろ」


 頬の傷をなぞりながら、ネモが言う。


「まずいと言いながら全部飲んでたじゃねえか。いつまでもまずいもん飲ませられないだろ」


 不格好なクッキーを口に含む。焼けていなかったり黒焦げだったりしたときに比べればだいぶマシだ。


「次は言葉遣いかしら」

「メレイスみたいにしろってか」


 露骨に嫌そうな顔をするネモを、笑う。


「冗談よ、今更変えられたって気持ち悪いわ」


 ネモはほっと胸を撫で下ろす。


「……それにしてもこの間の盗賊騎士との戦いは良かったわ」

「何度目だよ、その話」

「ウラワザだったかしら」

「おう」


 ネモは自分の腰を叩く。


「納刀からの抜刀攻撃をする、抜刀術を裏技。通常の剣術を表技ってんだ」

「入学が楽しみだわ。きっともっとアナタの技を堪能できる」

「強えやつがいればな」

「いたらまた左の突き見せてくれる?」

「左?」


 フリートは左手を上げた。


「ほらオーガ倒すとき使ってたじゃない。よくわからなかったからちゃんと見る機会がほしいわね」


 ネモは意外そうな顔で固まった。やがて暗い表情になり、うつむく。


「そんな、てぇしたもんじゃねえ」

「いいえ。大したものよ。だって惚れたもの、アナタの剣」


 オーガの喉を貫いた突き技。

 炎の魔法を斬り抜ける回転斬り。


 衝撃だった。


 まさか自分が、剣でうっとり・・・・・・するなんて思わなかった。


 もっと見たい。もっと魅せられたい。そんな感情がフリートの胸中に渦巻いていた。


「そうか、なら俺の剣も捨てたもんじゃねえな」

「当たり前よ」


 どこか嬉しそうなネモに、フリートは強く頷いた。


 入学まで、あとわずかだ。




──────


ここまで読んでいただいてありがとうございます。


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