22.英雄が眠る墓地
地面を蹴って加速する。
今持てる最大の速度で『疾走スキル』を使用して走り続けた。
ここまで全力で走るのは本当に久しぶりだ。
障害物と人の往来が少ない場所だからこのスキルの本領を発揮できた。
時々人の往来に邪魔されて速度が落ちてしまうが、それでもできる限り早く墓地へ行こうと努力する。
その甲斐あってか墓地がようやく見えてきた。
しかし思わず足を止めた。
墓地から鋭い金属音が鳴り響いていたからだ。
「た、戦ってる……!」
このまま行っても邪魔になる。
だが伝えたいことがあった。
それもとても重要な、今回の犯人の話。
戦闘が終わるのを待つのがいいのだろうが、それがいつになるか分からなかった。
キュリアス王国の墓地には数多くの英雄が眠っているのだ。
あの武器の中から多くの冒険者がレイスとして蘇ったのであれば、永遠に湧き続ける敵と戦うことになってしまう。
それが終わるのを待っている時間はない。
「うえええ、どうしよー!」
ここ以外ですぐに思い付く報告先は冒険者ギルドだ。
今から行けばまだナルファムがいるかもしれない。
迷っている暇はなかった。
ギルドに向かって事情を説明し、キュリアス王国墓地に増援を送ってもらう。
今ロロができることはこれくらいしかない。
踵を返して地面を蹴った。
だが一歩踏み出したところで足を止めなければならなかった。
ロロの目の前に剣が落ちてきたのだ。
それは見事に地面に突き刺さる。
飛んできた方角を見やれば……そこには一人の人物が屋根に立っていた。
分厚いローブのフードを目深に被っており、背中にはいくつかの武器をまとめて担いでいる。
ロロの目の前に落ちてきた剣は飛んで来たのではない。
投げられたのだ。
「ばれた!?」
ローブを着ている人物が指を鳴らす。
その途端、地面に突き刺さった剣から白い靄が吹き出した。
特別なレイスの体が構築されていく。
その前に逃げるしかない。
ロロは即座に方向転換してローブの人物とレイスから逃げた。
想像以上に速い速度で走り去るものだからローブの人物は『なに!?』と声を上げて驚いた様だ。
声色から男性だということが分かる。
しかし亡霊は冷静だ。
すぐさま現状を理解して周囲を見渡す。
一番最初に視界の中に捉えたのはローブの男だったが、すぐに視線を外してロロの後ろ姿を認識した。
亡霊はローブの男を狙うつもりはないらしい。
地面に突き刺さっている剣を引き抜き、切っ先をロロへと向けた。
「──……」
ぼそぼそと何かを口する。
するとバヂリ、と電撃が剣に纏わりついた。
時間が経つにつれて電撃音は激しさを増しており、ついには剣が電気を纏って発光している。
「させないよっ!」
「──!?」
突如亡霊の真横に出現したアイニィが蹴りを顔面に繰り出す。
詠唱に集中して気付かなかったのか、そもそも詠唱中は動けないのか定かではないが、その攻撃は見事に直撃した。
顔を押さえながら数歩後退した亡霊。
しかしすぐに顔を上げてアイニィを見据えた。
この特別なレイスは記憶を持たない。
レイス自体がそう言う相手なのだが、見知った顔を相手にするとなるとやはりやりにくい。
とはいえ相手は全力で掛かってくるだろう。
彼ら相手に引けを取らないためには、こちらも全力で自らの技術を振るうしかない。
亡霊が剣を構えた。
アイニィもそれに応えるようにして槍を構える。
「かかっておいでペリオン。それとそこのローブ野郎……。いや、違うね」
屋根からこちらを傍観しているローブの男にアイニィが殺気を飛ばす。
怯みこそしないものの、彼は警戒したようだった。
アイニィは彼が誰か既に知っている。
「好き勝手はさせないよ! ライキンス神父!」
「……」
「──」
長い詠唱をようやく終えたペリオンが肉薄する。
雷魔法を得意とする彼は一度魔法を詠唱しきってしまえば、しばらくの間は高速で移動し続けられるのだ。
それに加えて触れると雷魔法によるダメージを貰うというおまけつき。
逃げられる速度でもなく、触れただけでダメージを喰らってしまうという厄介な魔法。
あの時は味方だったから心強かったが、こうして敵に回るとなかなかやりづらい。
“普通の冒険者”であればの話だが。
突っ込んできた刃を跳ね上げる。
武器同士が触れただけでもダメージが入り、少なからず怯むと踏んでいたペリオンだったが、アイニィは平然として次の攻撃を繰り出そうとしていた。
完全に取った、と油断していたペリオンはその攻撃に反応することが出来ない。
槍の石突が首筋に直撃する。
「──ッ!」
「二十三年前のくそ長い詠唱時間しか使えない奴が無詠唱に勝てるわけないでしょ?」
体勢が崩れたところを見逃すことなく、アイニィは槍を回転させて刃の方で首を落とす。
首を落とされたペリオンは暫く硬直していたが最後には白い靄を噴き出して霧散した。
そしてペリオンの武器を奪ったアイニィはライキンス神父に狙いを定める。
投擲は得意ではないがここで逃がしたくはない。
「なっ!?」
「逃げなかったのがアンタの敗因!」
今持てる全ての力を使って全力で剣を投擲した。
真っすぐ飛ばすことはできないが高速で回転しながら飛んで行く剣はそれだけでも脅威だ。
見たところライキンス神父の持っている武器は一つにまとめられている。
あれを一本取り出して弾き返すとこはできないだろう。
だが……確定してはいないがリヴァスプロ王国の使者と思われる人物だ。
何かしらのスキルを使われてもおかしくはない。
この確認も込めてアイニィは遠距離での攻撃を実施したのだが……投げた武器は弾かれてしまった。
ライキンス神父の前に出現したもう一体の女の亡霊によって。
「ん!?」
アイニィが投げた剣を弾いたのはやはり知り合いだった。
それだけであれば別に驚きはしなかったのだが、彼女はライキンス神父を守る様にして剣を振るった様にしか見えなかったのだ。
「出てこい……」
ライキンス神父がそう呟く。
すると濃い白い靄が屋根を覆い隠す。
そしてもやから起き上がる様にして数名の亡霊が立ち上がった。
彼ら彼女らはライキンスが背中に束ねている武器を手に取り、臨戦態勢を見せた。
その数……十一体。
最初に出てきた女の亡霊を合わせると十二体だ。
各々が武器を手に取って構える様は昔の光景を思い出させる。
あの時はまだ届かない存在だと思っていた。
自分もその域に到達した時に、彼らから話を聞いて見たかったものだ。
彼らは強い。
さすがのアイニィでもこの数を相手取るのは難しい。
何より厄介なのは出てきた彼らがすべてSランクの実力を持っている者たちであることだ。
そこでようやく理解した。
ライキンス神父は強いレイスが宿っている武器を選択することが出来た。
これはダムラスが戦っている姿を見て判断したわけではないだろう。
彼より強いレイスがいないのだから、参考にはならなかったはずだ。
そして……彼はレイスを従えている。
間近くに十二体の亡霊がいるのにも拘らず、襲われる様子が微塵もないのがその証拠。
まさかこんな近くにいるとは思わなかった。
「死霊術師……!」
「いけ、レイスたちよ」
その声が合図になり、亡霊たちが屋根の上から飛び降りた。
力強く着地する者、華麗に着地する者と分かれていたがこれは彼らの戦闘スタイルに起因する。
重い甲冑を揺らしながら前に出て来た男を見上げた。
両手で持つような巨大な戦斧を二振り持っている。
その背後からは隙を狙うかのようにして慎重に足を動かしている暗器を持った女が二人。
他にも各々が戦うのに最適な立ち位置に陣取ってアイニィにじりじりとにじり寄る。
大きく深呼吸をしたアイニィ。
パリッ……と髪の毛に静電気が走った。
「ロロちゃん、タリアナちゃん。できるだけ早く応援呼んでね……!」
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