10.思わぬ合流
思わぬ再会に二人は前のめりになりながら喜んだ。
ロロはばっと飛びついて抱きしめる。
無事なことを確認したギギは胸をほっとなでおろした。
まさか家に帰っているとは思っていなかった。
ギギはロロとタチアナが魔物と女店主に襲われているところを目撃して問い詰めた後、方々を駆けまわって二人を探していたのだ。
家には道具を取りに来ただけ。
部屋の中に入って二人がいた事には少し驚いてしまった。
とはいえここで合流することが出来たのは大きい。
これで今日中に女店主の目的を暴くことが可能だ。
「大丈夫だな?」
「だいじょーぶ! 私は速いからね!」
「よかった」
ギギは額に浮き出ていた汗を拭う。
その時目を隠していた長い髪が一緒に動いて素顔が出てくるのだが、タリアナはそれを見て驚愕した。
(え、うっそバリバリのイケメン……!)
今まで見たこともないような美男子だったように思う。
メイビー色の髪の毛と金色の瞳の色彩が対照的で、なお顔立ちの良さを際立たせていた。
どうして長い髪で目元を隠しているのかなんとなく分かった気がする。
あんなのを堂々と出していれば日常生活にも支障をきたしそうだ。
もしかしたら過去にそういう経験があったのかもしれない。
タリアナは今から普通に接することが出来るか不安に思いながら深呼吸をした。
今は事件を優先……!
心を無にし、咳払いをしてからようやく二人に声をかけた。
「んん……。えっと、い、いいかしら?」
「いいよー!」
「……ロロ。あの人は?」
「私の同僚! 一緒に行ったら一緒に追いかけられちゃって」
「そうか。初めまして、ロロの兄のギギです」
「あっ、えっとどうも! た、タリアナです……!」
そこでギギは首を傾げた。
ロロの通訳なしにどうして返事ができるのか。
「ギギ兄ちゃんが喋ってるの久しぶりに聞いた~!」
「っ!」
「喋り方変になってるよー」
「え? ギギさんって普段喋らないんですか……?」
「う、んん……」
ギギはしどろもどろになりながらロロを見る。
すると彼女はニコッと笑った。
「私は気にしてないよ? 昔のことだし」
「……そう、か」
ロロがいいなら、もういいかもしれないとギギは思った。
しかしこうして喋るのは本当に久しぶりだ。
喋り方が変になっている自覚はある。
これを戻すのには結構かかりそうだな、と思いながら照れ臭そうに頬を掻いた。
するとタリアナが質問する。
「な、なんで今まで喋らなかったの?」
「それは昔ね~!」
「ロロ? やめろ?」
「ギギ兄ちゃん昔からこんな喋り方で、私が小さい頃にその喋り方で大泣きしたんだって。これはお母さんから聞いた! それから黙っちゃったんだよね~」
「めっちゃ妹想いのお兄さんじゃん……! え、でも会話とかどうしてたの?」
「私のもう一個のスキルが役に立ったの」
ロロのその言葉に、タリアナはもちろんギギも驚いた様子だった。
そんな話は聞いたことがない。
十二歳の誕生日を迎える時に神様から信託を授かるのだが、これは複数個貰えるのが一般的だ。
その中から最も使いやすそうなスキルを職業とする。
これはキュリアス王国にある冒険者ギルドに提出しなければならない決まりで、ギルドが子供の職業を決めることが一般的だ。
家業を継ぐ場合などでは例外もあるが。
それはそうとして、ロロから他にも使えるスキルがあると聞いたことは一度もなかった。
兄であるギギですらもだ。
どうして隠していたのか、と問うと『神様が他言するな』と助言してくれたらしい。
「『意思伝達』っていうスキルなんだけどね」
「初めて聞いた」
「戦闘向きじゃなくて、諜報向きって神様は言ってたよ。えと、これちょっと説明が難しいんだけど……。相手が私に伝えようとしていることが分かるんだよね」
ロロの持つ『意思伝達』というスキルは少し特殊だ。
相手の心を読むスキルというわけではなく、相手が“伝えたい”と思っていることを理解できるスキルである。
なので勝手に人の心を読むことはできないし、このスキルを知らない人は言葉で伝えたいことを伝えて来るのであまり役に立ったことはない。
唯一、喋ることのなかったギギにのみ役に立ったスキルだ。
だが、このスキルは言葉や文字を使わずに情報共有をすることが出来るスキルである。
なので情報漏洩の心配が一切ない。
上級階級の人たちの中ではとても重宝するかもしれないスキルだ。
「か、神様はなんて……?」
「いやぁ……特に何も……。ギルドには報告しないようにって言われたし、なにより『疾走スキル』のほうが魅力的だったから」
「あー……そうですかぁ……」
神様に直接会える人など聞いたことがないタリアナだったが、恐らくロロはあまり気にしていないんだろうなと思った。
とりあえずこの話は一旦措いておくことにして、本題に入る。
「それで……どうする?」
「そうだった! ギギ兄ちゃん! 今日墓地に行こう!」
「今日……!?」
ロロとタリアナはすぐにでも墓地に行かなければならない理由を説明する。
すべては五年前の手紙が発端である可能性が高く、この手紙自体に屋台を見つけられる仕掛けが施されている可能性があるがこれは憶測。
屋台の女店主と従えているロシュ・マヴォルは少なくとも五年間ここに滞在しており、誰にも発見されていない。
これは彼女がロロに向けて口にした『五年待った』という言葉から読み取れる。
ロシュ・マヴォルは姿隠しの能力を有しており、ロロとタリアナはそれをなぜか看破した。
その理由を女店主は知りたいらしく、追いかけていることは分かっている。
恐らく姿隠しを看破する術自体に女店主が不利益を被る何かがあるのだと思う。
この手紙には何かがある。
キュリアス王国の墓地には何か重要な物が隠されているのだ。
それこそ、犯罪にかかわる大きななにかが。
「てことで! それを暴きに行きたい!」
「お前はここに残ってもいいんだぞ……?」
「私は大丈夫! 逃げられるから! タリアナはどうする?」
「一人にしないで頂けるかしら? 狙われてるんだって私たち」
「そうだった」
この危機感の無さは余裕と捉えてもいいのだろうか?
タリアナはそんなことを考えながら、ギギを見る。
「えっと、ギギさんは冒険者ギルドでパーティーを組んでいますよね?」
「ああ。昨晩は依頼一つを途中まで終わらせています。二人とも今は帰って休んでいるでしょう。夜になれば集合できますよ」
「い、依頼の方は大丈夫ですか?」
「キュリアス王国の墓地での依頼です。場所は同じだから心配いりません」
ギギの言葉にロロが反応する。
「……ん!? ちょっとギギ兄ちゃん!? 下見に行ってたって事!?」
「何があるか分からないだろう……? 非戦闘員を連れていくのだから下見は当然だ」
「むー!」
有難い判断ではあったがなんだか腑に落ちない。
頬を膨らませて顔で文句を言うが、ギギは素知らぬ顔をして嘆息した。
これも妹の為なのである。
少しばかりは大目に見て欲しい。
ギギが欠伸をかみ殺す。
夜勤仕事だったので睡眠をあまり取っていないのだ。
「……行くとしても夜だな」
「き、危険じゃないですか……?」
「依頼との兼ね合いもあるから夜の方が都合がいいんです。それに……」
何かを思い出すようにして顎に手を添える。
昔、高位冒険者の話を盗み聴いた時があった。
あの時はたしか……ロシュ・マヴォルが討伐されてその素材が持ち込まれた時だっただろうか。
討伐に参加した冒険者はこう言っていた。
「……ロシュ・マヴォルは、夜になると姿を見せる」
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