3.気になる依頼書
翌朝となり、ロロはいつも通り朝の配達を終えて一番乗りで郵便局に帰ってくると、早速作業を再開する。
これが終わらなければギギとキュリアス王国の墓地に赴けないのだ。
やる気も出るというものである。
昨日はだらだらやっていたし、タリアナから差し入れが有ったりして百五十枚ほどしか処理しなかったが、今日はやる気満々で作業を行ったので二百枚ほどを処理することが出来た。
焼却処分に回す手紙は七十枚。
その内の二割がダミーだった。
今日は少なかったな、と思いながら中庭で手紙を燃やす。
今回も一枚一枚丁寧に燃やし、昨日と同じ様に炙り出しが出ないかどうか期待してみたが流石に連日同じようなことは起きないらしい。
残念。
送り先、送り主が分かった手紙を分別して翌日持って行く為に仕分けする。
この住所を調べるのが何よりも大変なのではあるが……何処からやってきた手紙なのか分かっているので意外と何とでもなるものだ。
帳簿を付けてくれていた人に感謝しなければならない。
恐らくタナトだろうが。
「よっし、今日の分終わりっ!」
ぱんぱん、と手を払って残りの手紙の数を数えてみる。
昨日は碌に数えもせずにパッと見て一千枚ほどあるなぁ、とは思っていたがしっかり数えてみれば残りは五百五十二枚だった。
昨日と今日で役三百五十枚を処理したので、合わせて九百枚ほどあったらしい。
ダミーだけで三百枚くらいあるのではないだろうか。
それだったら楽なのに、と思いながら一つにまとめて明日に回す。
この調子で行けば三日後にはすべての手紙を処理できそうだ。
また炙り出しで文字が浮き上がってこないかなぁ、と期待しながら今日は帰路に着いたのだった。
Side-ギギ-
様々な武具を身に着けている人々が大きな建造物の中を出入りしていた。
赤いレンガを基調としているようで、なんだかそれだけで威圧感が感じられる。
これは冒険者と呼ばれる者たちが発している物なのかもしれない。
冒険者ギルドは数十年前に建て替えられた時、彼らの功績を現国王が認めてくれて建造資金を工面してくれたらしい。
だが建物が大きくて立派でも人が居なければ意味がない、とギルドマスターが国王に対して苦言を呈し、金銭面での支援を要請したことは有名な話だ。
これに対し国王は苦笑いしながらそれに了承したようだが、それだけの功績を当時の冒険者は上げた。
百鬼夜行。
呪われた者が呪われた禁術をこの国をターゲットにして使用したことがある。
それにより国は一日で大破。
先代国王は襲撃一日目にして妻子を残して逃走した。
この呪いは今も尚語り継がれている。
大きな穴が出現し、夜になるとそこから化け物が延々と湧いてくるのだという。
それに対抗したのが当時の屈強な冒険者たち。
想像を絶するほどの戦いと地獄が毎晩迫りくるが、彼らは逃げも隠れもせず、死闘を繰り広げてこの国を守り切った。
最終的には呪いを掛けていた犯人を討ち取り、呪いは解けて平和がようやく訪れたらしい。
この話が二十三年前。
今も当時のことを覚えている冒険者、騎士団、国王、冒険者ギルドマスターがいるこのキュリアス王国は、各国の中でも地獄から立ち直った堅牢な国として有名だ。
そんな噂が大きく広まったおかげで復興も短い期間で終わったらしい。
歴史ある冒険者ギルドの中を、ギギは大きな鉈を担ぎながら入って行った。
今日は彼もロロと同じように仕事だ。
彼の役割は前衛ではあるが重装備ではない。
この大きな鉈を振り回すのには中鎧が丁度いいのだ。
大きな鉈だと目立つかもしれないが、そこらにも巨大な武器を持っている冒険者がゴロゴロいるのでそこまで気にはならないだろう。
ギギはキョロキョロと周囲を見渡してメンバーを探す。
すると依頼の掲示板をリーダーが見ていた。
今日の仕事を選んでいる最中だった様だ。
「うう」
「おっ、おはようギギ! え、なにこれ」
手を上げて挨拶をしたあと、ギギは一枚の紙を押し付ける。
彼は目を細めて受け取った紙の内容を口にした。
「キュリアス王国の墓地関連の仕事……? この仕事があるかってこと?」
「う」
「ギギが依頼を決めようとするなんて珍しいね……。ちょっと待ってて」
彼はそう言ってから掲示板の中に墓地関連の仕事がないか探し始めた。
目の前にいる人物はイグル。
ギギが所属している『不動』というパーティーリーダーだ。
淡い金……プラチナっぽい色の髪は寝癖が酷い。
彼とギギは同い年ではあるが、実力的にはイグルの方が上である。
戦闘系スキルを多く所持しているのだ。
熟練度でなんとか巻き返そうと考えているのだが、イグルを越えるのはもうしばらく先になりそうである。
背に背負っている槍をカタッと揺らしながら、掲示板から一枚の紙をひっぺがす。
そこには『墓地の清掃』という地味な内容が記載されていた。
「……こんなのがあったけど、これで大丈夫? ていうか今日は皆を集めて魔物討伐に行こうかなって思ってたんだけど……」
「う?」
「ギギが居ないとなると難易度下げなきゃなぁー」
「……」
イグルにそう言われてギギは苦笑いを浮かべる。
別に受けたいと言っているわけではない。
簡単な依頼があるなら、後で個人的に受けようと思っていただけだ。
この事を説明しようとすると長くなりそうなので、墓地清掃の依頼書を受け取って掲示板に張り直した。
「あれ、いいの?」
「うう」
「まぁ帰ってきて余裕があったら付き合ってあげるよ。墓地清掃なんて誰もしないだろうし残ってるさ」
こういうところがイグルの良いところだ。
ゼスチャーで感謝の意を伝えたあと、二人で今日の依頼を探してみる。
依頼を見つけては移動距離がどうだの報酬がどうだのと意見しあっている間に、最後のメンバーが到着した。
「あれ、ギギ早いじゃん! にょーい!」
「う」
やってきたのは身の丈ほどもある杖を突いている女性だった。
いかにも魔法使いらしいフード付きのローブを身に纏っており、フードからはふわふわとした茶髪の巻き髪が飛び出していた。
それと、幾つかのアクセサリーを首から下げている。
カチャカチャと音が立っているので少しうるさいが、これは彼女にとって非常に重要な魔道具なのだ。
彼女の名前はヨナ。
小柄なヨナはほんの少しポチャッとしていて可愛らしい。
猫のような顔をしているなぁ、とギギはいつも思う。
ぽてぽてと歩いてきた彼女は掲示板を見上げる。
そして一つの依頼書を杖で示した。
「これなんかどーう?」
「Aランクの依頼じゃん……。俺らはまだBランク。却下でーす」
「やれると思うんだけどなぁー」
「仮に可能だとしてもギルドが許可してくれません。はいこのお話終わり」
イグルがヨナの杖を払いのける。
彼女が活躍できる依頼なのでもし行くとなればイグルとギギは付き添いのような形になってしまうが、なんとなくその依頼書が気になった。
(レイス退治か……)
墓地といえば幽霊だったりグールだったりといった存在が思い浮かぶ。
レイスもその内の一体だ。
あんな手紙を見たせいか、こうなんでもなさそうな事も紐づけてしまう。
よくないな、とは思っているがどうにも引っ掛かった。
とはいえ、どの道ランクが違うので受けられないのだ。
少しくらい内容を見てみようと思って目を通す。
『レイス討伐依頼』
Aランク。
報酬:3000銀貨。
依頼主:ライキンス神父。
依頼内容:キュリアス王国の墓地に湧き出たレイス五体の討伐。
(ライキンス……? ていうかキュリアス王国の墓地にレイスが出るのか。近寄らない方がいいかもな……。うん、名前覚えておくか)
懐から取り出した紙にライキンスという人物の名前を書いておく。
ギギは人と喋らないので意思疎通を図るために文字を良く書くため、こうして常に紙を常備しているのだ。
因みにペンは魔道具で、インクを必要としない便利な物だ。
その代わり魔石を使用するのでコストは高い。
しかしいつでもどこでも使えるのでギギは重宝している。
「なーにかいてるにょ~」
「う?」
「え、あのレイス討伐が気になるの? 依頼主の名前書いたりして」
「だから~、Aランクの依頼書だから無理だっての。てかなんでBランクの掲示板に貼ってあるんだこれ……」
「そう言われると確かに」
ランクごとに掲示板があるので、こういったことはほとんどない。
恐らく何かの手違いで混じってしまったのだろう。
そう思ったヨナはペッとその依頼書を掲示板から引っぺがした。
「これ届けて来るよ~」
「ああ」
そう言って、ヨナは受付に歩いて行った。
二人きりになったところで、イグルが肘で小突いて来る。
「お前、マジで何考えてる?」
「……」
「まさかレイス討伐に行こうってんじゃないだろうな」
「うぅ!」
そんなつもりは一切ないので、ギギは全力で首を横に振った。
魔法使いであればレイス討伐などそんなに難しい仕事ではないが、接近戦を得意とする戦士は相性が悪すぎる。
相性が悪いと知っていて自ら死地に行くような真似はしない。
先ほど見つけた墓地の清掃依頼は昼間に行うのでレイスと遭遇することはないだろう。
それにしても清掃するだけなのにどうしてBランクの仕事になっているのかが気になった。
「うう……」
考えれば考える程、なんだが深みにはまってしまったような感覚になる。
ギギは今、墓地について知りたくて仕方がない。
五年前の手紙に出てきた炙り出し。
何故がBランクの掲示板に貼り付けてあったAランクのレイス討伐の依頼書。
清掃をするだけなのにBランクに張り付けられている墓地の清掃依頼書。
昨日今日で、こんなにも墓地関係で気になることが出て来るだろうか?
妹のロロには悪いが、これは本格的に下調べをしてから向かった方がよさそうだ。
となれば、あとはパーティーメンバーの説得だ。
ギギは墓地の清掃依頼書を引っぺがし、イグルに見せる。
そして懇願する様に手を合わせて頭を下げた。
「う!!」
「えっ!? こ、これやるの!?」
「っ!」
「ま、まじかぁ……。ま、ギギがここまで熱心なのは久しぶりだ。何かあるみたいだし手伝うよ」
「!」
再び深々と頭を下げて礼を言う。
あとはヨナを説得するだけではあったが、いつの間にか戻って来ていたらしく一部始終を見ていたようだ。
ギギの後ろからひょっこり顔を出して腕で大きな丸を作る。
「いいにょ~」
「うびっくりしたぁ! いたのかよ……」
「な~んか面白そう……。依頼は詰まらなさそうだけどね」
「う」
「「いいてっことよ」にょ~」
もし大きな手掛かりが見つかったのであれば、この二人にも説明しておかなければならないな、と思いながら礼を言う。
こうしてギギたちのパーティーは、キュリアス王国にある大きな墓地へと向かうことになったのだった。
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