第37話 優勝だね
今日は久々のオフ。
ぼくとレオの休みが重なるレアな日だ。
栞ちゃんオススメの店を訪ねる。
予定、だったけど。
そもそもレオがいない。
レオのお祝いにも関わらず。
突然来た、朝香に拉致されていった。
止めるヒマもなく。
まぁ、それはいいんだけど。
問題はせっかくだからと訪ねた店。
それがどうみても、
「…閉店してる?栞ちゃん」
「ええー…潰れちゃった?そんなー…」
パッと見たしかに撤去中の。
洋風レストラン、かな。
あれ?
「栞ちゃん、ほら。あの看板」
「えー…あ、改装中?よかったー、潰れたわけじゃなかったんだ…」
それよりも気になることがある。
あの看板、
「なんか動いてない?栞ちゃん」
「…えっ!?」
腰を抜かす栞ちゃん支えつつ。
ゆらゆら揺れる看板を見る。
やっぱり動いてる…なんなら歩いてる。
「えっと、すいません。いま改装中で。春すぎにはリニューアルも終わりますから。よかったらまたご来店ください」
…看板が、話しかけてきた。
すごい絵面だ。
よほどインパクトあるよこれ。
ぼくらのサッカーより。
だって栞ちゃん、放心状態だし。
☆
クラファンの説明をする栞ちゃんから離れて。
現状の確認でもしていよう。
2回目のクラファンは無事に失敗。
危うく達成するところだったけど。
3回目は、夏に実施予定だ。
リーグの終わりと、期日を揃えるため。
あとは、従業員の育成を考えて。
板前も当面のあいだ、ぼくが勤める。
ただ、スポーツ医療フード温泉旅館?
とは言え、味に関してはプロが欲しい。
タブレットで情報を募ってみようかな。
そもそもスポーツ専門じゃないし。
栞ちゃんは、もっと広い客層で考えてる。
献立のバリエーションも増えるから…
早めに作っておきたい。
チームのほうも順調だ。
開幕から8試合、どちらのチームも負けがない。
レオのチームは4位。
監督のチームは1位を独走だ。
メインFCは8位なんだけど…
オーナーから何も言われてないし。
気にしないでいいだろう。
たぶん。
「おまたせ!カナくん!」
「おかえり。オッケーだった?」
「うん!てかやっぱ有名な人だったよ!めっちゃびっくり!」
「そうなんだ」
コックさんには見えなかったけど。
看板方面で有名なのかな。
とりあえず、歩き出す。
左腕の重みを感じながら。
なんとなくまだ、腰が寂しい。
「まーわたしも負けてないけどね?それより、文化祭ライブだよカナくん!そーじょーこうかで人気、出始めてるんだって!」
「そうなんだ?」
話しがサッパリわからないけど。
ずいぶんと楽しそうだね、栞ちゃん。
「閉めようとしてたお店がライブハウスでねー。ユリちゃんと説得して、文化祭で歌って宣伝してみたらーって。その動画が上がっててね、すごいらしいよ!」
…栞ちゃんが、町おこしの優待。
どう説得してるかって。
あんまり聞いてこなかったけど。
なんか、よくわからないことやってない?
まさか全部こんな調子なのかな。
優待リスト、わりと埋まってるけど。
とりあえず、
「あとで、一緒にその動画みてみようか」
「うん!わたしも忘れてたから、みてみたい」
「…忘れてたの?それはそれで、栞ちゃんらしいけど」
「んー…だってほら、なん100件って回ったから。インパクトあるのは覚えてるんだけどなー」
倒産間際のライブハウスを救うため。
店主を文化祭ライブにぶっこむ。
これで、インパクトはすごくない?
確かにさっきの看板はすごかったけど…
「栞ちゃんも立派になったなぁ…」
「お、ひさびさの親目線だね、カナくん。いいよーやる?おやこごっこ」
「あはは、そういうんじゃないよ。大人になったなって意味で」
「…さっきの人、何歳くらいだと思った?カナくん」
「看板の人?」
「うんうん、その人」
身長は栞ちゃんと同じくらいだった。
客観的に見たら、中学生…14、15歳。
でも、実は成人してた、とか?
あるかもしれない。
「18だったとか?」
「おしい!今年、高3だって…あれ?カナくんと同い年になるの?」
「うん、同い年だね」
ぼくも今年で成人だ。
ようやく、1人で出来ることが増える。
監督たちの庇護下からも外れるけど。
保護者がいらなくなるメリットは大きい。
「…どう、思った?カナくん」
「どう?」
「わたし、負けてないよね」
2人の会話の中で、勝ち負けでも出たのかな。
ぼく、聞いてなかったんだけど。
でも、
「うん、栞ちゃんの勝ちだよ」
ぼくは栞ちゃんびいきだから。
勝ちでいいと思う。
栞ちゃんの。
「ほんとに?!ありがとカナくん!優勝だね!わたし!」
「え?」
優勝したの?
何にだろう。
…まぁ、いいか。
栞ちゃん、嬉しそうだし。
☆
『カナタくん、大変なことになったわ』
「はぁ」
家に戻って昼食を取った後。
杵築さんからの緊急連絡を受けている。
栞ちゃんは…お昼寝かな。
ふて寝ともいうけど。
ぼくの膝に収まっている。
『マイケルとオリバーが代表に選ばれたのよ。どうしたらいい?』
例の2選手が国別代表に選出。
その話しはすでに、オーナーから聞いている。
確かに守備的にはダメージを受ける。
けど、
「そもそも断れないんですか?そういうの」
『断れはするわ。でも2度と呼ばれなくなる。カナタくんが行くなと言えば行かないだろうけど…いえ、そうじゃなくて、守備の穴をどうしようかと思ってて…』
「それなら、監督のチームから借りてきたらどうですか。試合を見てる感じ、あっちは新しい選手を使っても問題なさそうですし」
合同練習から数か月が経っている。
監督チームはケガ明けの選手たちと。
新規メンバーを加えて、今では大所帯だ。
『やっぱりそれしかないのよね…あまり借りを作りたくないんだけど。はぁ…カナタくん、オススメの選手は?』
「ぼくが選んでいいんですか?」
『ええ、いま一番選手の状態を把握してるのカナタくんだから。あと…メインFCからのネチネチが怖いのよ。どうにかできる?』
選んでいいのであれば。
元々バックアップに考えていた2人。
4軍から付き合いのある選手にしよう。
レオと同じく、まだ成長期の2人だ。
「何も言われてないので、こちらからは手を出せないです。メインに移籍の話しは出てるんですか?トレードとか」
ネチネチの原因は、順位差ではなく。
能力やスタッツ差だろう。
徐々に開きが出始めている。
『出てないわ。あちらはメンバーを変えるつもりはないみたい。それにしても、なんでカナタくんの献立を守らないのかしら?私ですら調子がいいのに、気づかないものなの?』
「むしろ、なんでコッチのみんなが律儀に守ってるのか、疑問なくらいです」
色んな制約や誘惑があるだろうに。
全て捨て去って3食キッチリ。
あとはみんな練習漬けだ。
その分、能力の伸びもいいけど。
献立のアップデートも忙しい。
『…カナタくんがハッパをかけすぎなのよ。来季のJ1、給与アップ、海外を狙ってる選手たちだっているし。あれよ?昨季までJ2やJ3の選手たちなのよ?みんな熱意が怖すぎるわよ…』
ぼくに言われても困ります。
とは言わないでおこう。
杵築さん、そうなると話しが長いから。
「とりあえず、監督には伝えておきます。合同練習組であれば、戦術の擦り合わせは問題ないですし。その中から選びます」
『お願いね。ね、カナタくん…うちのチーム、正直どこまで行けると思う?』
「どこまで?」
タブレットを見る。
収集された他チームの能力やスタッツ。
杵築チームは平均して3%数値が高い。
時間あたりのゴール期待値もだ。
去年1位の、チームよりも。
『井岡が最近調子に乗っててね?それってなんかシャクじゃない。降格しないって目標は達成できそうだけど、負けた気分になるというか。ね、わかるわよね?カナタくん』
「わかりません。いずれにせよ優勝を目指すなら、監督から選手を借りてこないとですし」
代表選出はマイケル達に限らない。
レオも、佐藤さんも可能性がある。
と、オーナーから言われている。
選手層は念のため、厚くしておきたい。
『そこをなんとか…ダメ?カナタくん』
「ぼくに言われても困ります。監督に連絡しますので、それでは」
栞ちゃんからの圧がすごいし。
悪いけど、通話は切らせてもらう。
「カナくん、お兄ちゃんたち優勝狙ってるみたいだよ?」
「優勝…」
「うん、朝香が前に言ってたから」
ちょっとぶすっとしてる栞ちゃんの。
頭を撫でながら考える。
さすがに、1年目での優勝はない。
能力とスタッツの向上を優先して。
ケガしないことを念頭に、って話しだし。
「本番は2年目、って決めた気がするんだけどなぁ…」
「よくわからないけど、みんなやる気みたい。お兄ちゃんも今日はマッサージらしいし、デートじゃないんだってー」
…そういうことなら。
より疲労を抜くメニューにしてみるか。
メディカルさんに連絡して。
あとは監督。
次にライブの動画見て。
1つづつ、片付けて行こう。
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