第34話 これが体育会系のノリ
久しぶりに、J2スタジアムに足を運ぶ。
とはいえ、元、が前につく。
現在は急ピッチで改築中だ。
年内には、J1スタジアムに生まれ変わって。
すぐ横に、練習場と食堂が併設される。
寮もすでに完備だし。
これで効率もあがるだろう。
こっちが、杵築さんたちが使うもので。
元々J2で使っていた練習場と食堂は。
監督たちJ3チームが使うものとなる。
こっちは、4軍相当の選手も使用する予定だ。
入ってくれば、だけど。
☆
騒音現場を抜け。
スタジアムのピッチに入る。
今日は、戦術確認と聞いている。
ポジション適性も見直すのかな?
とにかく、全選手が来ているはずだ。
杵築さんや監督、他のスタッフさんたちも。
2人に来てくれと懇願されたわけだけど。
ぼくが会いたいのは、2人じゃない。
メディカルさんだ。
あ、いたいた。
「おつかれさまです、チーフ」
「…どちらかと言えば、カナタくんがチーフなのですが」
「ぼくは派遣みたいなものですから、お気になさらず」
「驚くことばかり、なんですけどね…?こうして目にすると、なおのこと…」
「チーフからみて、どうですか?J1でも通用しますか」
「少なくとも、上がりたてとは思えません。降格を争う可能性は、少ないんじゃないかと」
「ならよかったです。噂の問題児たちは?なんか急激に上がってますけど」
イギリスの2選手。
年齢を考えるとヘンだ。
能力もスタッツも、上がり方がえぐい。
バグかと思うくらいには。
「はい。オーナーからの…いえ、知人の方からの厳しい叱責があったそうで。カナタくんの食事療法を守らせたら、こうなりました。今ではとても従順です。ディフェンス陣の、模範的な存在となっていますね」
いつからかは知らないけど。
献立の実施は短い期間だろう。
なのに、急激に上がる、その理由…
「よほど、不摂生してきたのかな…?成長期の選手より、成長が速いって。そういうの、よくあるんですか?」
「いえいえ、ないですないです。そもそもですね、カナタくんが面倒を見てる選手たちの伸び率は、大抵おかしなことになってるんです…ドーピングを疑うレベルで、ほんとに」
「あはは、さすがにそれは言い過ぎですよ」
ダイレクトに余剰パワーを与える薬に。
ただの食事で対抗する?
さすがにそれは…ムリじゃないかな。
「…まぁ、いいです。とにかく、あの選手たちは問題ありません。そろそろ時間ですし、参りましょう」
「ぼくもですか?」
時間の指定はあったけど。
ピッチの外で、見てるだけだと思ってた。
「決起会、だそうですが…お聞きになられてないんですか?カナタくんの演説があると…」
「…」
なにそれ、聞いてない。
はぁ…
栞ちゃんが怒るのも、当たり前だ。
ぼくはただの、一般人なのに。
☆
着座した選手たちを見渡す。
総勢40名程度、だろうか。
その後ろに、スタッフさんたち。
チーフは、例の選手たちの通訳だ。
杵築さんと監督も、なぜか一緒に座ってる。
まぁ、いい。
ポジティブだ。
ポジティブに考えよう。
これもレオのためだ。
なんか最前列でニヤニヤしてるけど。
何が嬉しいの?レオ。
ちなみに佐藤さんは。
すでに盛大な拍手をくれている。
もう酔っぱらってるんですか?
「急に言われたので、何も考えてきてないんですけど。とりあえず、伝えるべきことがあるので、それから」
春の人事で発表される予定のもの。
別に構わないだろう。
オーナーの許可は、得ているし。
「来季から、みなさんはトップリーグとJ3で戦うことになります。杵築チームと井岡チームに、これから再編成が行われますが、心配しないでください。オーナーにお願いしたら、リーグレベルに関係なく、能力での査定となりました。年俸に関しては、どちらでプレイしても来季は変わりません。初年度既定は当然ありますけど」
レオは別として。
既定の500万を超えることはない。
と、思うけど。
とりあえず。
シーンとしないでほしい。
手が上がる。
杵築さんだ。
「なんですか、杵築さん」
「なんで?」
「え?」
「なんで、そんなことになってるの?というか、できるの?意味がわからないわよ、カナタくん」
そうだろうか。
できる、できないは別として。
「以前、聞いた記憶があったので。J3までは年俸が安い、J2でもギリギリだと。副業しながらになる、ケースが多いって。みなさんの能力やスタッツは、ひいき目なしでJ1クラスです。だから、オーナーに聞いたんです。安い給料のままだと、他のクラブに引き抜かれませんか?と」
「なるほど…?」
「オーナーも、トップチームを2つ運営していくには、控えの選手層がとても重要だと認識しています。井岡チームはJ3ですが、扱いとしてはトップのバックアップ。そう考えてみてはどうか、という話しから査定アップになりました」
「…そ、そう」
納得はもらえないようだ。
何か、おかしいのだろうか。
ぼくはサッカーに詳しくないんだって。
レオを見る。
武者震い、みたいな顔してる。
今は試合中でもなんでもないんだけど。
手が上がる。
佐藤さんだ。
「はい、佐藤さん」
「正直なところ、話しがすごすぎて、意味わからん。意味わからんが、まぁありがたい話しに違いない。俺たちは、それに応えればいい、というわけだな。みんなもそれでいいな?全力でカナタくんに報いるんだ!わかったか!」
さすがはキャプテンの佐藤さんだ。
取りまとめ、うまいですね。
怒号のような応がうるさいけど。
「ありがとうございます。ケガだけはしないように、お願いします」
「で、だ。となると井岡監督の目標は、当然優勝ってことだよな?」
「はい、そのままJ2に上がってもらえると助かります。移籍やレンタルが難航してる理由に、J2という調整場所がないことも、大きいそうですから」
「か、カナタくん!軽く言ってくれるが…俺、監督は初めてなんだが…?」
「うちの選手たちなら大丈夫です。レオはいませんけど、前監督の戦術のままで問題なく勝てるでしょうし」
「ええ!そ、そうか…?」
前年度のJ3は、4位でのフィニッシュだ。
昇格プレーオフも1歩及ばなかった。
まぁ、いろいろバタバタしてたし。
今年は、しっかりとした準備ができる。
スタッツも昨年よりさらに向上していて。
J3では、圧倒的に地力が違う。
選手層の薄さだけクリアすれば。
まず勝てるだろう。
たぶん。
「井岡監督、カナタくんが大丈夫といえば、大丈夫ですよ。それよりカナタくん、来季いっぱいは面倒みてくれる、と思っていいのか?」
「ええ、栞ちゃんと相談しました。来季いっぱい、こっちに集中することになりました…ってうるさ」
喋ってる途中で騒がないでほしい。
「そうか…それは、朗報だな」
「あ、栞ちゃんの旅館の件、みなさん本当にありがとうございます。再開したらサービスしますので、ぜひ来てください」
歓声が上がる、と思ったけど。
…野太く短い、気合の入った応だった。
これが、体育会系のノリってやつか。
あとイギリスの選手たち。
イエスボスって、まさか、ぼくに言ってる?
…まさかね。
ちょっと怖いからやめてほしい。
まぁ、やるだけやってみよう。
栞ちゃんも、応援してくれてるし。
期待には応えたいからね。
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