第29話 ふつうでしょ
J1スタジアム3日目。
今日はカナくんと一緒に行動する。
というか、した。
メディカルさんが約束を取り付けて。
イギリスのJ1選手たちと会う。
予定、だったんだけど…
すっぽかされちゃって。
もうお家に帰ってるところだ。
「カナくん、メディカルさん…大丈夫かな?」
帯同してたオーナー。
めっちゃ怒ってたし。
迫力すごすぎてやばかった。
わたしは絶対に怒られたくない。
「紹介元にクレーム入れるって言ってたから、メディカルさんには怒ってないんじゃないかな?」
「だといいねー…」
紹介元って…イギリスの人?
オーナーはイギリスの言葉、喋れるのかな。
喋れそうな雰囲気あるなー。
カナくんもあるけど…
どうなの、カナくん。
「栞ちゃん、よかったら旅館に寄っていい?」
「あ、うん!もちろん歓迎!歓迎だよカナくん!」
旅館かー!
カナくん、何か月ぶりになるんだろ?
だいぶ変わったから、ビックリするかな!
☆
「知ってたの!?」
「そりゃ~知っててやったんだし?」
「知っててやった!?まさか朝香も!?」
「カナ先輩は?」
「あはは、録画される仕様なのは知ってたよ」
旅館に着いて、いきなりの暴露。
会議の録画、ユリちゃん知ってたって。
知っててやったって!
なんで、そーゆーことするの?
でも、
「いいよ?それはもう、済んだことだから。わたし、カナくんの宣伝だって思うことにしたし」
わたしの夢は旅館の復活だけど。
最近の野望は違う。
カナくんを、世界に知ってもらうこと。
できたら、わたしと結婚してから。
じゃないと不安になっちゃうし。
「へ~レオ先輩ガチギレてたらしいけど?ね、あさちゃん?」
「ユリ!」
なんでお兄ちゃん?
わたし、なんも言われてないけど?
カナくんを見る。
…訳知り顔だ、これは。
「どういう意味?カナくん」
「うーん…朝香、もう話しておいた方がいいんじゃない?」
「…はぁ。そうですね、わかりました…」
「な、なになに?なんか怖いよ、怖いって顔」
朝香がそこまで深刻な顔するなんて。
記憶にも…ない。
ある。あった。
わたしが黒板消しパタパタしてて。
すっぽぬけて外に飛んでったときの顔!
「レオ先輩の健康管理したいの、できたらずっと」
「…………?」
ええっ!?
☆
「そっ!そうなの!?」
そういう意味だよね!
お兄ちゃん!?
お兄ちゃんとかありえるの!?
「おおっ、ようやく帰ってきた~しおちゃん、5分も意識飛ばすとか、上級者だね?」
「だれでもビックリするよ!だってお兄ちゃんとか…え、お兄ちゃんだよ?お兄ちゃんでいいの?ほんとに?後悔しない?すると思うんだけど…」
「栞、おこるよ」
「は、はい…すいません…怒らないで、ください…」
朝香、こわい…
オーナーぐらい怖いんだけど。
「栞ちゃん。朝香はずっと、一緒にレオを支えてくれてたんだよ」
そうなの?
2人でコソコソやってたのもそれ?
結婚したいわけじゃないの?
カナくんと。
でも、カナくんを見る朝香の顔。
ふつうじゃなくない?
「朝香、カナくんのこと、めっちゃ好きって感じするのに…」
「…ユリ、そう見える?」
「見えない。あのさ~しおちゃん、親しい異性に向ける目と、好きな異性に向ける目ってぜんぜん違うよ?あさちゃんはカナタ先輩のこと…そうだな~近所の優しいお兄さん、みたいな目で見てるでしょ?」
「そう、なの…?」
違いなんてあるの?
さっぱりだ。
さっぱりわからないよ。
だってわたし、カナくんが優しいお兄さんで。
好きな異性、だし。
一緒じゃん。
一緒、なんだもん。
「しおちゃん、自分の顔みたことないからな~ガチでヤバイから。カナタ先輩とイチャイチャしてるとき」
「栞、あの録画みてみて。ユリの言ってる意味わかるから」
「…いや?みない、けど?」
そうまで言われて…
見れる?見れないでしょ。
見る勇気なんてない。
「あのね、ふつうはガマンできない!とか言って急に会いになんて行かないもんだよ?」
「授業の合間の休み時間、ダッシュしてまではね」
「…」
そうなの?
一緒にいたいの、ふつうでしょ?
やばいの?
隙あらばカナくんと一緒にいたいって。
…え?
ふつうのことのような。
やっぱふつうでしょ。
「それも毎日毎回ね?カナタ先輩じゃなかったらストーカーで通報だよ、しおちゃん!」
ストーカー…?
カナくん、あれってストーカーなの?
小さいころからずっと、なんだけど。
「へー。よくそんな短い時間で往復できてたね、距離も階段もあるのに。それで足が速くなったのかな?栞ちゃん」
「さすがカナ先輩、動じない」
「家ではもっとすごいんだろうな~ってわかる発言で笑うんだけど」
家でも、まあ、ずっと一緒にいたいし…
いるけど。
それってふつうじゃないの?
みんなは違うの?
えー…
「朝香は…そうならないの?」
「栞を反面教師にしたから」
「はんめん…きょうし…?」
これは…あれだな。
わたし、怒っていいやつだな。
たぶん。
☆
「これなら温泉も許可が取れそうだ、念のため申請だけしておこうか」
「はい。クラファンは予定通りですか?」
「読めない部分があるから…準備は早めのほうがいいかな」
ボサボサ髪の朝香とカナくんと。
掃除した温泉を披露する。
ユリちゃんはデートらしい。
…ぜったい逃げたよね、あれ。
でも、許そう。
わたしは大らかだから。
それに、今後のこと、話してる。
大事だし、ちゃんと話を聞かないと。
「早まる可能性、あるんですか?」
「レオのチームが今7位で。厳しめとはいえ、まだ昇格の可能性も残ってるんだ」
「優勝ではなく、昇格ですか?」
ふむ。
お兄ちゃんが、優勝。
じゃなくて昇格…?
優勝か準優勝しないとJ1に上がれない。
って、言ってたような…?
「うん、J2チームをそのままJ1として登録する計画らしい」
「…たしかに、客席数は規定を満たしてますが」
ふむ…?
一気にわからなくなった。
J2がJ1になる…?
クラブにJ1もうあるけど…
今のJ1はどうなるの?
「栞ちゃん、前に4軍を解体して、J3に吸収させたよね?あれ、J1になるための規定をクリアするのに、選手とスタッフを上にあげた、っていう意味合いもあるんだって。だから昇格が認められたら」
「J1チームを2つ持つ。これは話題になりますね」
「それもあって、今後クラファンへの投資に、選手は関われないって通達がくるんだ。そのへんが読めないから」
「…わかりました。栞、早めに動こう」
「う、うん。よくわかんないけど、動くよ、わたし」
たぶん、旅館の復活が早まるかも。
ってことだよね?
うん、頑張るよわたし。
だから2人とも、あとでわかるように説明して。
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