第29話 ふつうでしょ

J1スタジアム3日目。

今日はカナくんと一緒に行動する。


というか、した。

メディカルさんが約束を取り付けて。

イギリスのJ1選手たちと会う。

予定、だったんだけど…


すっぽかされちゃって。

もうお家に帰ってるところだ。


「カナくん、メディカルさん…大丈夫かな?」


帯同してたオーナー。

めっちゃ怒ってたし。

迫力すごすぎてやばかった。

わたしは絶対に怒られたくない。


「紹介元にクレーム入れるって言ってたから、メディカルさんには怒ってないんじゃないかな?」


「だといいねー…」


紹介元って…イギリスの人?

オーナーはイギリスの言葉、喋れるのかな。

喋れそうな雰囲気あるなー。

カナくんもあるけど…

どうなの、カナくん。


「栞ちゃん、よかったら旅館に寄っていい?」


「あ、うん!もちろん歓迎!歓迎だよカナくん!」


旅館かー!

カナくん、何か月ぶりになるんだろ?

だいぶ変わったから、ビックリするかな!



「知ってたの!?」


「そりゃ~知っててやったんだし?」


「知っててやった!?まさか朝香も!?」


「カナ先輩は?」


「あはは、録画される仕様なのは知ってたよ」


旅館に着いて、いきなりの暴露。

会議の録画、ユリちゃん知ってたって。

知っててやったって!

なんで、そーゆーことするの?

でも、


「いいよ?それはもう、済んだことだから。わたし、カナくんの宣伝だって思うことにしたし」


わたしの夢は旅館の復活だけど。

最近の野望は違う。


カナくんを、世界に知ってもらうこと。

できたら、わたしと結婚してから。

じゃないと不安になっちゃうし。


「へ~レオ先輩ガチギレてたらしいけど?ね、あさちゃん?」


「ユリ!」


なんでお兄ちゃん?

わたし、なんも言われてないけど?


カナくんを見る。

…訳知り顔だ、これは。


「どういう意味?カナくん」


「うーん…朝香、もう話しておいた方がいいんじゃない?」


「…はぁ。そうですね、わかりました…」


「な、なになに?なんか怖いよ、怖いって顔」


朝香がそこまで深刻な顔するなんて。

記憶にも…ない。

ある。あった。


わたしが黒板消しパタパタしてて。

すっぽぬけて外に飛んでったときの顔!


「レオ先輩の健康管理したいの、できたらずっと」


「…………?」


ええっ!?



「そっ!そうなの!?」


そういう意味だよね!

お兄ちゃん!?

お兄ちゃんとかありえるの!?


「おおっ、ようやく帰ってきた~しおちゃん、5分も意識飛ばすとか、上級者だね?」


「だれでもビックリするよ!だってお兄ちゃんとか…え、お兄ちゃんだよ?お兄ちゃんでいいの?ほんとに?後悔しない?すると思うんだけど…」


「栞、おこるよ」


「は、はい…すいません…怒らないで、ください…」


朝香、こわい…

オーナーぐらい怖いんだけど。


「栞ちゃん。朝香はずっと、一緒にレオを支えてくれてたんだよ」


そうなの?

2人でコソコソやってたのもそれ?

結婚したいわけじゃないの?

カナくんと。


でも、カナくんを見る朝香の顔。

ふつうじゃなくない?


「朝香、カナくんのこと、めっちゃ好きって感じするのに…」


「…ユリ、そう見える?」


「見えない。あのさ~しおちゃん、親しい異性に向ける目と、好きな異性に向ける目ってぜんぜん違うよ?あさちゃんはカナタ先輩のこと…そうだな~近所の優しいお兄さん、みたいな目で見てるでしょ?」


「そう、なの…?」


違いなんてあるの?

さっぱりだ。

さっぱりわからないよ。


だってわたし、カナくんが優しいお兄さんで。

好きな異性、だし。

一緒じゃん。

一緒、なんだもん。


「しおちゃん、自分の顔みたことないからな~ガチでヤバイから。カナタ先輩とイチャイチャしてるとき」


「栞、あの録画みてみて。ユリの言ってる意味わかるから」


「…いや?みない、けど?」


そうまで言われて…

見れる?見れないでしょ。

見る勇気なんてない。


「あのね、ふつうはガマンできない!とか言って急に会いになんて行かないもんだよ?」


「授業の合間の休み時間、ダッシュしてまではね」


「…」


そうなの?

一緒にいたいの、ふつうでしょ?

やばいの?

隙あらばカナくんと一緒にいたいって。


…え?

ふつうのことのような。

やっぱふつうでしょ。


「それも毎日毎回ね?カナタ先輩じゃなかったらストーカーで通報だよ、しおちゃん!」


ストーカー…?

カナくん、あれってストーカーなの?

小さいころからずっと、なんだけど。


「へー。よくそんな短い時間で往復できてたね、距離も階段もあるのに。それで足が速くなったのかな?栞ちゃん」


「さすがカナ先輩、動じない」


「家ではもっとすごいんだろうな~ってわかる発言で笑うんだけど」


家でも、まあ、ずっと一緒にいたいし…

いるけど。

それってふつうじゃないの?

みんなは違うの?

えー…


「朝香は…そうならないの?」


「栞を反面教師にしたから」


「はんめん…きょうし…?」


これは…あれだな。

わたし、怒っていいやつだな。

たぶん。



「これなら温泉も許可が取れそうだ、念のため申請だけしておこうか」


「はい。クラファンは予定通りですか?」


「読めない部分があるから…準備は早めのほうがいいかな」


ボサボサ髪の朝香とカナくんと。

掃除した温泉を披露する。

ユリちゃんはデートらしい。

…ぜったい逃げたよね、あれ。


でも、許そう。

わたしは大らかだから。

それに、今後のこと、話してる。

大事だし、ちゃんと話を聞かないと。


「早まる可能性、あるんですか?」


「レオのチームが今7位で。厳しめとはいえ、まだ昇格の可能性も残ってるんだ」


「優勝ではなく、昇格ですか?」


ふむ。

お兄ちゃんが、優勝。

じゃなくて昇格…?

優勝か準優勝しないとJ1に上がれない。

って、言ってたような…?


「うん、J2チームをそのままJ1として登録する計画らしい」


「…たしかに、客席数は規定を満たしてますが」


ふむ…?

一気にわからなくなった。

J2がJ1になる…?

クラブにJ1もうあるけど…

今のJ1はどうなるの?


「栞ちゃん、前に4軍を解体して、J3に吸収させたよね?あれ、J1になるための規定をクリアするのに、選手とスタッフを上にあげた、っていう意味合いもあるんだって。だから昇格が認められたら」


「J1チームを2つ持つ。これは話題になりますね」


「それもあって、今後クラファンへの投資に、選手は関われないって通達がくるんだ。そのへんが読めないから」


「…わかりました。栞、早めに動こう」


「う、うん。よくわかんないけど、動くよ、わたし」


たぶん、旅館の復活が早まるかも。

ってことだよね?

うん、頑張るよわたし。

だから2人とも、あとでわかるように説明して。

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