第27話 ポジティブ!
カナくんが。
なんか嬉しいこと言ってくれてた…
気がするけど。
それより。
それよりいま…
不穏なこと、言ってなかった?
新しいタブレットにも…
わたしのフォルダが、とか。
まさかだけど。
見せびらかしスタイルなの?
クラブ全体に。
すでに死にかけてるのに?
わたし。
あれを?
ほんとに?
☆
あのあと。
わたしだけが労働を課せられたあと。
ユリちゃんが言った。
でも結局それ先輩との旅行じゃん~って。
対価としては軽いな?って。
それで。
カナくんのいいとことか。
好きなとことか、かっこいいとことか。
なんでもいいから語ってけよ~って言うから。
ユリちゃんが、そう言ったから。
残ってる。
あのあと、3時間くらい。
わたしがカナくんを熱弁した録画が。
残っちゃってるのに…!
☆
「ごめんなさい…いろいろ」
「そういう経緯だったんだね。ぜんぜん戻ってこないから、説得が難航してるのかと思ってたよ」
気づけば、オーナーもいなくて。
宙に浮いた部屋でカナくんと2人。
試合も始まってるけど…
見る気、おきない。
ていうか、
「…カナくんは、見てないの?」
「うん。さすがに見られたらイヤかなって」
「うー…カナくーん…」
むしろ、カナくんにだけは。
見られてもよかったのに。
そういう気遣いとか。
優しいとこ、ほんと好き…
「栞ちゃん、でもこれ…削除できないんだけど、なんでかわかる?」
「え?」
消せない?
タブレットを借りて、操作してみる。
…消せない。
そもそも削除項目ないし。
ていうか、この鍵マークなに。
ロックかかってるってこと?
「他のは消せそうだから、たしかに権限は高そうなんだけどね」
「…カナくん、この鍵マーク、前からあった?」
「前のタブレットには、表示されてなかったと思うよ」
むむむ…
権限あがって消せるようになったけど。
さらに上からの権限で…ロック?
まさか。
「おばさんがやったのかな」
「オーナーだよ、栞ちゃん。人前ではおばさん呼び、控えようね?」
「はーい…」
それにしても。
この録画、なんで残すんだろ?
みんなに見せるため?
そんな意味、あるのかなー…
「あ、佐藤さん出てきたよ…残り30分か、活躍できるといいね」
うーん…
でも、いい?
別に見られても。
カナくんのこと話してるだけだし。
悪いこと、ある…?
わたしにダメージ入るくらいで。
ないよ。ないと思う。
ポジティブに考えたら。
みんなにカナくんとのこと。
知ってもらえるチャンスじゃない?
そーだよ!
そういうことにしよう!
いつもカナくんが言ってるように。
「ポジティブ!」
「え?」
「カナくん!佐藤さん応援しよ!」
「あ、うん、まぁ…ここからだと、小さくて見えないんだけどね」
「わー…ほんとだ…みんな豆粒だ…」
ガラスギリギリまで寄ってみたけど。
どれがだれやら…
それより、落ちそうで怖い。
うぅ…ぞわぞわするぅー。
「この壁のモニタで応援するのかな?ピッチに背を向けることになっちゃうけど」
「…なんかもったいないね。臨場感っていうか、そういうの…なくなっちゃうし」
「そうだね、これだとテレビで見てる感じだ」
「わたしは下で応援するほうが、好きかなぁ…」
スタジアムは満席近い入りに見える。
けど、歓声も聞こえてこないし。
なんか、もったない、気がする。
ぜったい高いのに、ここ。
カナくんの視線の先。
モニタを見れば。
佐藤さんがゴールしたところだった。
☆
「飲みすぎはダメですからね!」
メディカルさんに案内されて。
スタジアム内の食堂に来た。
カナくんの下見と、佐藤さんのお祝いだ。
今は、さっそく止めてる。
佐藤さんの深酒を。
「酔うほどは飲まないが…あいかわらず厳しいな、栞ちゃん」
「だって監督たち、めっちゃ飲むじゃないですかー…」
「井岡さんらは昔からな…まぁ、スタッフはいいんじゃないか?選手は自制が必要だが」
「飲むのはいいんですよ?でも絡まないでほしい!」
ほんと臭いんですよ、お酒飲んだおじさんたち。
カナくんへの絡み酒もお控えください。
「でも栞ちゃん。旅館がスタートしたら、そうも言ってられなくなるから…今日は佐藤さんだけだし、いいんじゃないかな」
「うぐっ…た、たしかに…」
佐藤さんだけなら、いい?
カナくんが絡み酒されないなら。
ちょっと慣れておきたいし。
わたしも。
でも、うーん…
「そういうわけでどうぞ、佐藤さん。ゴールおめでとうございます」
カナくん!
いつのまにお酒を!
ムダに準備がいい!
「わ、わたしが注ぐから!カナくんは座ってて!」
「なんだよ、俺はカナタくんに祝ってもらいたいのに…」
「けっ!…いや、佐藤さんには奥さんがいる、んでした…セーフ。セーフです。さ、どうぞ」
カナくんからビール瓶を奪ってコップに注ぐ。
奥さんいるならセーフ。
わたしルールだけど。
うー…もうこの時点で匂いがきっつい…
「おお、ついに俺も栞ちゃんの結婚阻止デビューか。なんか感慨深いなぁ、ありがとう」
「…なんですかそれ?」
けっこんそし?
「知らないのか。栞ちゃんから結婚を止められた選手たちの情報。タブレットに入ってるんだが…ちなみに俺で11人目だな。杵築さんや井岡さんを含めたら13人か」
知らないよ、そんなの。
自分のフォルダしか開かないし。
そんなのデータにして何したいの?
いじめなの?
カナくんを見る。
…これは、知ってる顔だ。
「…いつから?」
「タブレットの改修やってるから、なんか追加されてるなってすぐ気づいたよ。栞ちゃん、手広くやってるなぁって思いながら見てた」
「あぁ…」
頭を抱える。
だってあのとき。
みんな怪しかったんだもん。
みんなカナくんカナくんって。
よってたかって。
でも、今は大らかだから。
もう過去だよ過去。
切替、だいじ!
「で、メディカルと一緒にきたのは?例の件、進んだのか?」
「ええ、さきほど無事に契約が済みました。今後はタブレットにJ1の情報も追加されますが…佐藤さんのタブレットはもうJ1ですか?」
「そうだ。でもよかった、その言いかただと統合ってことだよな?既存のと。栞ちゃんの旅館フォルダ、見れなくて困ってたところだ」
「はい。1つのタブレットで、クラブ全体が管理されるようになります」
「ほう、そりゃいいな。競争力も上がるだろうし、旅館フォルダの閲覧も増えるだろうしな」
…増える意味、あるの?
見れなくて、困ることも。
ていうか、
「そんな、みるとこあります?サッカー関係ないと思うんですけど」
「俺は趣味だ。まぁ、故郷があの町の人間はJ1にも当然いるからな。手伝ってくれるんじゃないか?」
趣味…
ヘンな趣味ですね、佐藤さん。
でも、
「たしか、オーナー…クラファンへの投資、選手禁止にするっていってなかった?カナくん」
「寝てるかと思ったけど、ちゃんと聞いてたんだね、栞ちゃん」
「会議中に寝るとか、さすがにやばいな栞ちゃん」
「寝てない!」
うなだれてはいたけど…!
居眠りしてたとかじゃないから!
「あはは。トップ選手の財力だと、はずみでクリアしてしまう可能性がある、とのことでした。こちらもまだ準備が必要ですから。早すぎるのも困るんですよね」
「まぁ進捗みても、そんな感じだよな。焦る必要もないか。それって、全体通達でくるのか?」
「ええ、タブレット更新の同期が明後日で、そのときに開くとメッセージがでるらしいです」
「わたしの旅館のことなのに、なんかすごいね…カナくん」
サッカーのタブレットなのに。
開いたら、旅館の通知とか。
わたしなら、え?ってなる。
「うん、みんなが手伝ってくれるって、ありがたいよね」
「な?いいクラブだろ?今後もひいきにしてくれよ、2人とも」
「佐藤さん、顔寄せないでください。臭いです」
お酒が。
うぅ…酔いそう…
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