第23話 幕間~レオ視点~

気づけばJ2のピッチに立っていた。

マジで気づけば、って感じだ。


4軍で1年近い研鑽は積んだ。

それ以前からも、努力は怠らなかった。

できるだけのこと全て。

サッカーにだけ注いできた。

だから、自信はあった。


ただ、この歳で?とも思った。

J2の若年層なんてのは。

ユースやアカデミー生の巣窟だ。

サッカーエリートたちしかいない。

そんなエリートの中ですら一握りの世界。

そこに、おれが?って。


わかりきってることだ。

そんなのカナタのおかげでしかない。

こんなマジックが使えるのは。

昔から世話になり続けてる。

カナタだけだ。



生まれたころから一緒だった。

小学校にあがるころ。

カナタの両親が死んでからは。

うちでも一緒になった。

特に疑問にも思わなかった。

元々、兄弟みたいなもんだったから。

妹はあまりの嬉しさに漏らしてたが。


近所のサッカークラブに通いだして。

おれはサッカーに打ち込んだ。

純粋に面白かったから。

それを毎日のようにカナタに話して。


帰ってくる言葉は決まって。

とにかく、頭を使えだった。


そのころのカナタはとにかく。

ストーカー被害に頭を悩ませてたからな。

妹からの。

1日中、追い回されてた。



中学にあがるころ。

何の因果か、うちの両親も事故死した。

多めの財産を残されたカナタと違って。

おれたち2人が進学して行くには。

心もとない金額だった。


おれのサッカーは、ここで終わり。

在学中はバイトして、卒業したら就職して。

つまんない人生の始まりかぁ…

と思ってたんだが。


妹が泣き喚いた。

どうしても旅館だけは残したいと。

もちろん、泣きつかれたのはカナタだ。


そこからは、あっという間。

気づいたら、旅館は残ってるし。

名義がおれになってるし。

妹は前にも増して、ストーカーだ。


カナタは少し金を出しただけ。

やってくれたのは弁護士さんたちで?

家事もやるし、妹の面倒もみるから。

サッカーもどうか続けてくれ、って。


どういうことか。

おれにはまったく理解できなかった。


ただ、サッカーを続けられること。

それだけを考えればいいってことを。

カナタに何度も言われて理解した。


妹が何度もドヤってくるのには。

心底イラっとしたが。



それからも頭を使い続けて。

気づけば、ここまできてる。


おれは今も、サッカーのことだけでいい。

それ以外の全ては、カナタがやってくれてる。


とにかく。

とにかくだ。

カナタは、おれたちの、恩人だ。


だから、毎度。

妹の行動には呆れるしかない。

何度、迷惑かけたら気が済むんだ?あいつは。


中3あたりから慣れない敬語使い始めて。

急に距離を置かれたカナタが寂しそうだったから。


プロの、といっても予備軍ではあるが。

そこで結果を。

ハットトリックという結果を出したら。

妹を引き取ってくれと頼んだ。

それがカナタの望みで。

妹の望みであるのも明らかだったからだ。


だが、今にして思えば。

手伝ってやる必要なかったか?

距離を取ってたほうがマシな気がする。


カナタにとっては迷惑に。

妹は加速度的にポンコツになってる…



カナタ監修となったタブレットを手に取る。

理路整然としているチームのタブレット。

その中でも、ひときわ強い異物感。

『栞の旅館』フォルダをタップする。


どうやら。

そろそろクラファンの開始らしい。


妹のことだ、必ず失敗する。

カナタに泣きつくとこまで想像がつく。


それでも捨てられることはないだろう。

あんなんでも相思相愛だ。

まぁ、栞は栞で、頑張ってくれ。

おれはおれで、やることをやる。


ただ、たった1000万でいいのには驚いた。

てっきり建て直しに数億掛かると思ってた。

それを稼ぐ覚悟も持ってたんだが。

どうせカナタのことだ。

いつのもようになんとかしたのだろう。


あいかわらず、わけのわからないやつだ。

ほんとうに、すごいやつだ、あいつは。

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