第22話 ゆっくりでお願いします

朝香には。

めちゃくちゃ怒られた。

甘えてばかりいないで、しっかりしろって。


ユリちゃんは。

めっちゃ笑ってたけど。

謝るなら正座でしょ~。


って言われて。

どっちもその通りだと思ったから。


わたしは、正座してる。

玄関で、カナくんの帰りを待ってる。



「ごめんなさい」


ドアが開いた瞬間。

頭を下げる。

誠心誠意、謝る。


「また何かやらかしたのか?ったく懲りねえな」


「…お兄ちゃん、おかえり。違うから、お兄ちゃんにじゃないから」


違う人だった。

リテイク、リテイクしたい。


「カナタにだろ。あんま迷惑かけるんじゃねぇよ…あいつにだって限界あるだろ」


「ないから。カナくんに限界なんてない。無限だよ、カナくんは」


いずれは世界を背負う日がくるかもしれない。

いや、宇宙すらワンチャンあるかも?

あれだけ宇宙っぽさあるんだし。

それぐらいの人材だから、カナくんは。


「そういう意味じゃねえよ。はぁ…」


頭をガリガリかくお兄ちゃんを見送る。

しっしっ。

わたしが待ってるのはカナくんなの。

お兄ちゃんはゆっくり休んでて。


…それにしても、カナくん遅いな。

足、しびれてきた。



「おわっ。栞ちゃん、どうしたの…?」


「…ごめんなさい」


今度こそのカナくんに。

誠心誠意、謝る。

足、しびれちゃって。

正座とかもうムリだったから。

普通に座ってて…ごめんなさい。


「えっと…?」


「朝香から聞いたけど、あの、録音のやつ…ダメだったんでしょ?聞かせちゃ」


「ああ…あれはぼくのミスだし、謝ったら許してもらえたから。気にしないで、栞ちゃん」


そう言って、撫でてくれる。

カナくんが。

優しい。

泣いた。


「うぅ~またわたしやっちゃったかと思ったぁ~」


「やっちゃってはいたけどね。大事にはならなかったから」


「うぅ~…」


そうだ…

やっちゃってはいたんだ。

ほんと、反省しないと…

ごめんね、カナくん…


「まぁ、別のほうが大事になっちゃいそうだけど…」


別の…?

まだなにかあるの?


「…それ、わたし死ぬやつ?」


聞いたら、もうしわけなくて。

死にたくなるやつ。

ちがう?


「あはは、そういうんじゃないから。大丈夫だよ、栞ちゃん」


「よかったぁ~よかったよぉ~」


カナくんに。

甘えに甘えて。

…また朝香に怒られそう。



ご飯を食べて。

ようやく足のしびれも取れて。


「伊藤さんからの…提案?」


「うん、今すぐどうって話しじゃないけどね。旅館をスタートさせるときに、なにをウリにしていくかって」


「へー…?」


うちの旅館の、ウリ…

スッと指さす。

カナくんを。


「いや、どっちかっていうと、栞ちゃんがウリにならないと」


「わたしが…?どう…?」


こう見えて、お母さんと一緒に…

接客のまねごとはしてた。

けど、それぐらいしかしてない。

気がします、けど…?


「大事になるかも、っていうのはその話し。今日は、杵築さん、監督代理、伊藤さん、佐藤さんと打ち合わせになったんだけどね」


…佐藤さん?

ギリ佐藤さんの人?

お兄ちゃんと交代で戦う選手の。


わたしはうなづく。

たぶん、ギリで合ってる。


「朝香からの電話のあと、まぁ…いろいろ話すことになって。みんなで、地域振興しようって決まったんだ」


「…いろいろ?」


朝香の電話はあれ。

わたしがやらかしたやつ。

そこから…

いろいろと、ちいきしんこーが繋がらない…


「うーん。やっぱ話さないとダメかぁ…長くなるから、ハーブディーでもいれようかな」


「あ、はい…あ、いや、わたしいれる。いれるからカナくん座ってて」


「そう?ありがとう、栞ちゃん」


少しでも役に立とう。

立たなくては。

って、うぐぅ…!

…た、立てない!

立てなかった。

わたし。

だって、正座してたから…


「あし、しびれちゃった…ごめん…カナくん」



カナくんのいれてくれたハーブディーを。

チビチビ飲みながら話しを聞いた。


うーん…

ギリ死ぬやつじゃん…

またわたしが原因で。

結婚を疑いまくったから、って…


でも!

でもでも、


「安心して、カナくん。これからはわたし、大らかになるから」


もうそのへんは、大丈夫だから。

ちょっと不安だけど。

なんとかするから…

たぶん。


「ぼくも朝香にあんまり甘やかすなって言われたよ。だから、今後は2人で気を付けていこうね」


「う、うん…」


なんか、もう甘い気がするけど。

声もすっごく優しいし。

でも、言わないでおこう。

優しいカナくん、大好きだし。


「で、地域振興の話しだけど。みんなの目標は、ガラガラのスタジアムを満席にすることになったよ」


「ふむふむ」


たしかに、今のスタジアムは閑古鳥。

わたしの声援が一番目立ってる。

というか…なにかしたら、みんなで見てくる。

あれは、ちょっとイヤ。


「スタジアムと旅館が近いから、満席になればお客さんも増えるんじゃないか、っていう予想だね」


「ふむ!」


日帰りでも、お泊りでも。

増えそうな感じする!

サッカー見るの、すごく疲れるし。

わたしも温泉で疲れを癒したい。

うんうん、いいのでは?


「それを、クラファンのリターンに盛り込むのはどうか?っていうのが杵築さん。サッカー観戦の割引と、旅館を利用したら観戦が割引される。相互割引ってやつだね」


「ふむ…?」


クラファンの…ふむ。

割引、杵築さん。


「これだけだと地域振興にならないからって、佐藤さんからの提案が…この町の施設全体の優待。まぁ割引みたいな、お得に利用できるよっていうサービスかな。これは実際に全てのお店を回って、オッケーをもらってこなきゃいけない」


「ふむ…」


サービス…ふむ。

オッケー、佐藤さん。


「最後に監督代理が、『それを全部、栞ちゃんにやらせよう!』って言って。みんなもそうだね、ってなったんだけど。どう?栞ちゃん」


どう…?

どうといわれても…

わたしが、なにやるって?

監督。


クラファンの話しも。

まだぜんぜん…なんだけど。

えっと。

とりあえず、


「…みんなと相談するね。ちょっと待ってて」


「うん、焦らなくていいからね。時間をかけて慎重に考えてみて」


「わかった、わたし頑張ってみるね」


優しくうなづいてくれる。

カナくんの表情は、期待だ。

たぶん。

わたしならできると思ってくれてる。

だったら、頑張らなきゃ!


「それと、ユリちゃんと朝香も臨時スタッフにしたから。タブレットあとで渡すけど、見せて大丈夫だからね」


「あ、はい…お手数を、お掛けします…」


さすがはカナくん、準備がいい…


「旅館フォルダも作ってあって…クラファンに限らず、チーム全体で意見や提案がそこに入るようになったから、それもみんなで確認しておいてね」


「旅館フォルダ…?チーム…全体で?」


話しが、難しい。

難しくなってきちゃった。

いや、元からあんまり理解はしてない。

ひえぴた貼りたい。

おでこ、熱い気がするし…


「あはは。今日の話しは、そのフォルダの中にまとめてあるから大丈夫だよ。チーム全体で共有する話しも、みたらわかると思う。みんなでよく話し合ってみて」


「う、うん…ゆ、ゆっくり。ゆっくりでお願いします…」


「そうだね、今日は休んで。また明日からにしようか」


「うん!」


カナくんに飛びついて。

考える…

みんな、大人はみんな。

こんな難しいことを考えてるんだ。

すごいなぁ…カナくんって。


わたしもできるようになるの?

ううん、ならないと。

ならないとダメだ。


でも今日はちょっと、カナくんで…

充電してから…

それからにしよう…

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