第21話 注意散漫、だったみたいだ
空けて日曜の練習場。
杵築さんたちと打ち合わせ中。
だったんだけど…
「それは…まずいね」
『やっぱり…私たちで共有してよかったの、最後の金融の話しだけですよね』
「そのつもりで録音を頼んだけど…なんか具合悪そうだったし。忘れてた可能性も…」
『先輩…栞のこと甘やかしすぎです。たまには厳しくしないと、どんどんダメになっちゃいますよ?』
「あはは、気を付けるよ」
『まったく。これからどうしたらいいですか?』
「ちょうど責任者の人たちといるから、こっちの心配はいらない。そっちのことは頼んだよ、朝香」
『はーい…先輩も、がんばってくださいね』
「ありがとう、それじゃ」
通話を切る。
ふぅ…
なるほど。
こうきたか、栞ちゃん。
「なんだ?面倒ごとか?栞ちゃんなんだって?」
「面倒…を、お掛けすることになりました。すいません」
☆
昨日の会議の内容を。
第三者に通知してしまった件を話した。
フツーに守秘義務違反だ。
応接室には、杵築さん、監督代理、伊藤さん。
それとなぜか佐藤さんもいる。
今日はオフじゃなかったのだろうか。
「もうしわけありません。録音させた、ぼくの責任です」
「いやぁ、さすが栞ちゃんだな!あいかわらず、おっちょこちょいだ。でも別に構わんだろ?なあ、杵築」
「そうね、構うけど…具体的な話しや予算とかが出ていたわけじゃないし。別にいいわよカナタくん。今後、ないようにしてくれたら」
「ありがとうございます…栞ちゃんにはしっかり伝えておきます」
よかった…
大丈夫だとは思ってたけど。
大事にならなくて。
「あのカナタくんにベッタリくっついるコか。昨日もぽやーっとした顔でカナタくんを見てるとは思ったが…あれ、話し聞いてなかったのか?まったく?」
「すいません、なんか具合悪かったみたいで…」
佐藤さんの疑問ももっともだ。
起きてたようには見えたけど…
まさか1ミリも話しを聞いてないとは。
ぼくも予想してなかった。
「そういうコなのよ。すぐに私がカナタくんと結婚したいか疑ってくるし…とにかくカナタくん、カナタくん、なのよね。若いってすごいわ…」
「杵築も言われたのか?俺もカナタくんと結婚したいかを疑われたが…一体あれはなんだったんだ?どう見ても本気だったぞ」
これは、監督代理になった元監督。
「私は…言われませんでしたが?」
これは、伊藤さんだ。
50代の、男性で。
「俺も言われてないな。なにか、条件があるのか?カナタくん」
これは、佐藤さん…妻帯者…
ていうか、そこどうでもよくないですか?
話さなきゃダメなの…?
☆
「なるほどね、確かに今は同性婚も珍しくないけど…」
「レオと結婚としてまでとはな。あいかわらず思い切りがいいな!カナタくんは!」
かいつまんでも理解されなかった。
監督代理にはある程度話してたけど。
一番、わかってなさそうでしたね?
結局、全部話すことになってしまった…
はぁ…
「すいませんが、ここだけの話しにしてください。さすがにレオの今後にも影響でそうですから…」
レオの人気がでれば。
いずれ誰かとそういった話しもきっと出る。
でも一緒に住んでるぼくが、となると。
さすがにスキャンダルだ。
「ふふ、昨日あれだけ堂々してたカナタくんが、これだけうろたえるのも、なんか面白いわね」
「俺は立派だと思うがな。それだけの覚悟を持って学校までやめて。レオや栞ちゃんを支えるなんて、そうそうできんぞ?」
「なるほど…昨日の話しはこのことだったのか。気になってたんだよカナタくん、あの旅館の話し」
「…佐藤さん、残ってましたっけ?」
昨日の会議終わり。
杵築さんと、監督代理に残ってもらって。
金融アドバイザーの方を交えて話した。
旅館の資産運用について。
2人に残ってもらった理由は。
ぼくらが未成年だからだ。
今後のいろんな契約の、後見人になってもらう。
その話しはもう済んでいる。
けど…佐藤さん、いたっけ?
記憶にない。
「椅子が足りなかったから、ドア横で立ってたんだ。みんなが出ていっても残ってたから気になってな」
「そう、でしたか…」
しまったな…
メディカルさんとの話しでヒートアップして。
いつヨダレを垂らさないかも心配で。
栞ちゃんを、横目で見張ってたから…
注意散漫、だったみたいだ。
「で、杵築監督や監督代理も、この件に噛んでるんですね?俺にも噛ませてくださいよ。地元振興、いいじゃないですか。俺の地元愛、知ってるでしょ?お2人とも」
「それは知ってるけど…噛んでる、という言いかたには語弊があるわね。でも…いいの?井岡」
「いいもなにもない。俺は元から手伝うつもりでいたからな!このポジションに今いるのだって、大部分はカナタくんの功績なんだ。恩は返すもんだろう?」
「そういう意味じゃないんだけど、まぁいいわ。私もお世話になってるし、今後もなるしね」
「それをいうなら私も、ですね。カナタくん。確認と、一つ提案があるんだが、いいかい?」
「え、ええ、なんですか?」
話しが勝手に進んでいくから困ってたけど。
流れを止めて、話しを振ってくれる。
さすがは伊藤さんだ。
栞ちゃんお気に入りの。
「金田から話しを聞いた。君の献立の前提は、医療だ。そうだね?」
「金田…先生と、お知合いなんですか?」
「君たちと同じ、幼なじみというやつだ。大学も医療を志すならこの辺は一つしかない。だから同期でもある」
金田先生は、医者で。
朝香のお父さんだ。
献立の作り方も、多大な影響を受けている。
でも、
「…医療、と言われても。病院食というつもりでは、なかったのですが」
「それは、そうだね。まるで違う。君の作る献立は、健康なレオくんを基準にしているから。いわば、アスリートにとっての食の医者だ。それが独創性と効果を生んでいる。と、私たちは考えている」
食の、医者…
「まぁ、私たち、と言われても俺にはよくわからんがな。実際に効果はでてるんだ。カナタくんの腕に疑問はないだろう?」
「でも昨日あなた、腕組みながらうんうん言ってたじゃない。わかってなかったの?あれで」
「なに言ってるかはさっぱりだ。カナタくんが褒められてるの見てたら、嬉しくなって、ついな」
「そういう親気取りみたいなポジション、嫌われるわよ?」
「な!そ、そんなことないよなカタナくん!ただでさえ、栞ちゃんには嫌われてそうのなのに!カナタくんにまで嫌われたらどうしたら!」
あはは。
別に嫌いになったりはしませんけど。
…ありがとうございます、監督代理。
栞ちゃんはきっと。
声の大きさを調整すれば大丈夫です。
伊藤さんへ向き直る。
「それで、提案というのは?」
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