第21話 注意散漫、だったみたいだ

空けて日曜の練習場。

杵築さんたちと打ち合わせ中。

だったんだけど…


「それは…まずいね」


『やっぱり…私たちで共有してよかったの、最後の金融の話しだけですよね』


「そのつもりで録音を頼んだけど…なんか具合悪そうだったし。忘れてた可能性も…」


『先輩…栞のこと甘やかしすぎです。たまには厳しくしないと、どんどんダメになっちゃいますよ?』


「あはは、気を付けるよ」


『まったく。これからどうしたらいいですか?』


「ちょうど責任者の人たちといるから、こっちの心配はいらない。そっちのことは頼んだよ、朝香」


『はーい…先輩も、がんばってくださいね』


「ありがとう、それじゃ」


通話を切る。

ふぅ…

なるほど。

こうきたか、栞ちゃん。


「なんだ?面倒ごとか?栞ちゃんなんだって?」


「面倒…を、お掛けすることになりました。すいません」



昨日の会議の内容を。

第三者に通知してしまった件を話した。

フツーに守秘義務違反だ。


応接室には、杵築さん、監督代理、伊藤さん。

それとなぜか佐藤さんもいる。

今日はオフじゃなかったのだろうか。


「もうしわけありません。録音させた、ぼくの責任です」


「いやぁ、さすが栞ちゃんだな!あいかわらず、おっちょこちょいだ。でも別に構わんだろ?なあ、杵築」


「そうね、構うけど…具体的な話しや予算とかが出ていたわけじゃないし。別にいいわよカナタくん。今後、ないようにしてくれたら」


「ありがとうございます…栞ちゃんにはしっかり伝えておきます」


よかった…

大丈夫だとは思ってたけど。

大事にならなくて。


「あのカナタくんにベッタリくっついるコか。昨日もぽやーっとした顔でカナタくんを見てるとは思ったが…あれ、話し聞いてなかったのか?まったく?」


「すいません、なんか具合悪かったみたいで…」


佐藤さんの疑問ももっともだ。

起きてたようには見えたけど…

まさか1ミリも話しを聞いてないとは。

ぼくも予想してなかった。


「そういうコなのよ。すぐに私がカナタくんと結婚したいか疑ってくるし…とにかくカナタくん、カナタくん、なのよね。若いってすごいわ…」


「杵築も言われたのか?俺もカナタくんと結婚したいかを疑われたが…一体あれはなんだったんだ?どう見ても本気だったぞ」


これは、監督代理になった元監督。


「私は…言われませんでしたが?」


これは、伊藤さんだ。

50代の、男性で。


「俺も言われてないな。なにか、条件があるのか?カナタくん」


これは、佐藤さん…妻帯者…

ていうか、そこどうでもよくないですか?

話さなきゃダメなの…?



「なるほどね、確かに今は同性婚も珍しくないけど…」


「レオと結婚としてまでとはな。あいかわらず思い切りがいいな!カナタくんは!」


かいつまんでも理解されなかった。

監督代理にはある程度話してたけど。

一番、わかってなさそうでしたね?

結局、全部話すことになってしまった…

はぁ…


「すいませんが、ここだけの話しにしてください。さすがにレオの今後にも影響でそうですから…」


レオの人気がでれば。

いずれ誰かとそういった話しもきっと出る。

でも一緒に住んでるぼくが、となると。

さすがにスキャンダルだ。


「ふふ、昨日あれだけ堂々してたカナタくんが、これだけうろたえるのも、なんか面白いわね」


「俺は立派だと思うがな。それだけの覚悟を持って学校までやめて。レオや栞ちゃんを支えるなんて、そうそうできんぞ?」


「なるほど…昨日の話しはこのことだったのか。気になってたんだよカナタくん、あの旅館の話し」


「…佐藤さん、残ってましたっけ?」


昨日の会議終わり。

杵築さんと、監督代理に残ってもらって。

金融アドバイザーの方を交えて話した。

旅館の資産運用について。


2人に残ってもらった理由は。

ぼくらが未成年だからだ。

今後のいろんな契約の、後見人になってもらう。

その話しはもう済んでいる。


けど…佐藤さん、いたっけ?

記憶にない。


「椅子が足りなかったから、ドア横で立ってたんだ。みんなが出ていっても残ってたから気になってな」


「そう、でしたか…」


しまったな…

メディカルさんとの話しでヒートアップして。

いつヨダレを垂らさないかも心配で。

栞ちゃんを、横目で見張ってたから…

注意散漫、だったみたいだ。


「で、杵築監督や監督代理も、この件に噛んでるんですね?俺にも噛ませてくださいよ。地元振興、いいじゃないですか。俺の地元愛、知ってるでしょ?お2人とも」


「それは知ってるけど…噛んでる、という言いかたには語弊があるわね。でも…いいの?井岡」


「いいもなにもない。俺は元から手伝うつもりでいたからな!このポジションに今いるのだって、大部分はカナタくんの功績なんだ。恩は返すもんだろう?」


「そういう意味じゃないんだけど、まぁいいわ。私もお世話になってるし、今後もなるしね」


「それをいうなら私も、ですね。カナタくん。確認と、一つ提案があるんだが、いいかい?」


「え、ええ、なんですか?」


話しが勝手に進んでいくから困ってたけど。

流れを止めて、話しを振ってくれる。

さすがは伊藤さんだ。

栞ちゃんお気に入りの。


「金田から話しを聞いた。君の献立の前提は、医療だ。そうだね?」


「金田…先生と、お知合いなんですか?」


「君たちと同じ、幼なじみというやつだ。大学も医療を志すならこの辺は一つしかない。だから同期でもある」


金田先生は、医者で。

朝香のお父さんだ。

献立の作り方も、多大な影響を受けている。

でも、


「…医療、と言われても。病院食というつもりでは、なかったのですが」


「それは、そうだね。まるで違う。君の作る献立は、健康なレオくんを基準にしているから。いわば、アスリートにとっての食の医者だ。それが独創性と効果を生んでいる。と、私たちは考えている」


食の、医者…


「まぁ、私たち、と言われても俺にはよくわからんがな。実際に効果はでてるんだ。カナタくんの腕に疑問はないだろう?」


「でも昨日あなた、腕組みながらうんうん言ってたじゃない。わかってなかったの?あれで」


「なに言ってるかはさっぱりだ。カナタくんが褒められてるの見てたら、嬉しくなって、ついな」


「そういう親気取りみたいなポジション、嫌われるわよ?」


「な!そ、そんなことないよなカタナくん!ただでさえ、栞ちゃんには嫌われてそうのなのに!カナタくんにまで嫌われたらどうしたら!」


あはは。

別に嫌いになったりはしませんけど。

…ありがとうございます、監督代理。


栞ちゃんはきっと。

声の大きさを調整すれば大丈夫です。


伊藤さんへ向き直る。


「それで、提案というのは?」

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