第20話 しっとりして見える
「栞ちゃん、そろそろ始まるけど…ここで休んでる?」
カナくんの、かっこいい声がする…
気がする…
んー…
「…あれ?ここ、どこ…?」
「練習場だよ。ここはそのベンチだね。栞ちゃん、ぐったりしてたから横になってもらってたんだ」
「うー…?」
これは…わたし、寝てた?
たぶん寝てたかも?
なんか、おでこ、重いなぁ…
「一応、ひえぴた貼ってたから」
ぺりぺりっと音がして。
おでこが軽くなる。
「ふわーありがとー…カナくん…」
カナくんを、見て。
ん…?
「それ…手に持ってるのなに?」
ひえぴたじゃない、白いなにか。
「ああ、これはティッシュだよ。さっき汚れを拭くのに使って」
「ふーん…?」
なんか、しっとりして見えるけど…
水でもこぼしたのかな?
「栞ちゃん、どうする?休んでる?」
「んー、大丈夫。いく!」
頭を振ってみる。
うん、だいじょぶそう。
寝てちょっとはスッキリした。
そうだ…
会わなくては、なんだった。
お金のなんとかさんに。
☆
カナくんに連れられて。
ペコリと。
おじぎして、練習場の応接室に入る。
入ったんだけど…
「時間もちょうどいいわね。さっそく始めます。進行は私、杵築が担当します」
なんか人、おおくない?
わたしがわかるの、カナくんと。
杵築さん、監督、伊藤さん、ギリ佐藤さん。
くらいなんですけども…?
「議題は、最近うちで話題のスポーツフードね。そちらのカナタくんが考案の。あらためて説明いいかしら?カナタくん」
他にもわらわらと…大人ばっかり。
そのみんなが、カナくんを見てる。
すごい。
わたしの場違い感、すごくない?
いても大丈夫なのこれ、カナくん。
「はい。みなさん、よろしくおねがいします…栞ちゃん、スマホで録音しといてね。あとで2人と共有できるように」
「うひゃっ!う、うん。わかった…」
急に耳元は!ダメでしょ!
ビックリしちゃったよ。
もー…
そういうのはお家でしてほしい。
今度、ぜひお願いしたい。
ていうか、録音って言った…?
なにを?
でも、カナくんの言うことだ。
ポチっとしておこう。
ぜんぶ撮っておけばオッケーでしょ。
☆
わたしは座って。
カナくんは立って。
みんな、カナくんの話しを聞いてる。
ふー…
よかった。
だれもわたしを見てない。
少し、落ち着いてきた。
いま話してるのはあれ。
献立の作り方の、詳しい内容。
わたしも説明されたやつ。
途中までは。
メディカルさん、とやらが質問始めたら。
2人とも宇宙人になった。
まったくなに言ってるかわからない。
たぶん専門用語とか、そういうの。
みんなも、わかってないと思う。
監督はなんかうんうんしてるけど。
それ、かっこつけてるだけでしょ?監督。
ぜったいわかってないよね。
でもあらためて、すごいなー。
これって、カナくんが必要だから。
みんな聞いてるんだよね?
みんな、大人なのに。
ずっとお兄ちゃんの面倒みてきたからって。
カナくん、独学だって言ってたのになー。
宇宙人と会話できる独学ってなに?
意味がわからないよ。
あと、幻かと思ってたけど…
視界の隅で動く着ぐるみ。
たぶん、実在してるよね?
たまに動いてるし。
一言もしゃべらないけど。
怖い。見ないでおこ。
んー…
わたしにできることは。
なさそうな感じ、だ。
うん、なさそう。
いや、一応録音という仕事は果たしてる。
だったら、かっこいいカナくんを。
ずーっと見てればいいかな。
☆
「それで、ただカナタ先輩みてただけ…?」
「はい…」
「紹介してくれるって言ってた人と、話してない?」
「はい…なんか、気づいたら解散になってて…」
日曜日、旅館で。
さっそく怒られてる。
ユリちゃんと朝香に。
「しおちゃーん…?真面目にやらないなら、手伝うのやめちゃうよ~?」
「は、反省してるので…その、なにとぞ…」
でも…弁明させてもらえるのなら。
あれは、しょうがないと思う。
先生の話しがわからなくて。
眠くなっちゃう、午後の授業。
それと同じ。
寝なかっただけ、えらいかもしれない。
カナくんが横にいたから耐えられた。
うんうん。
さすがカナくん…
かっこよかったなー。
「…カナ先輩、なんか言ってた?そのあと」
そのあと…?
…あのあとは、お家に帰って。
「カナくんの部屋に突撃したら…今日は疲れたでしょ、早く寝ようねって。それで、寝かしつけられた」
じっさい、疲れてたのかも。
気づいたら朝だったから。
寝たの、夕方だったのに。
でも、スマホが充電ケーブルに刺さってて。
こういうとこカナくんだなぁ…
って、朝から嬉しくなりましたね!
「「…」」
「あ、そうだ、スマホ。スマホに録音入ってる」
「…カナ先輩がそうしろって言ったの?」
「うん、あとで2人と共有できるようにって」
「はぁ…とりあえずそれ、聞こっか」
☆
「ぶっ飛んでるね、カナ先輩」
「途中から異世界になってるって~」
「でしょー?意味わかんないよね?」
録音を聞き終える。
あらためて聞いても、途中から宇宙だ。
「私はある程度わかったけど…半分もわからなかった…」
「さすが医者の卵だね~」
朝香のお父さんはお医者さんをやってる。
うちみたいな田舎だと。
みんなお世話になってる、と、思う。
カナくんの独学の1つがここ。
朝香とカナくんが怪しいのも、そこだ。
3人で話し合ってたの、よく見たし。
いや、大らかだよ、わたし。
大らかになるんだ。
「医者を目指してるわけじゃないけどね。それより栞、スマホ貸して」
「なに?はい」
大らかなわたしはスマホを手渡す。
「カナ先輩に電話するから…どれ?見当たらないけど」
「旦那様はーと」
将来の、がつくけどね。
こういの憧れてたんだよね。
えへへー。
「しおちゃん、えっぐ…」
「そうかなー?ユリちゃんだって結婚するってなったら、彼氏とかの名前、変えそうなイメージあるよ」
「…あ、カナ先輩。朝香です。いま、大丈夫ですか?はい」
「えぇ~ないない。そういう恥ずかしいことできないって~。そもそもそれ彼氏に見られたら、普通ドン引きされない?」
「カナくんは嬉しいって言ってくれたけどねー。ユリちゃんもそういう彼氏みつけなよー」
「突然のマウント…しおちゃん、顔がおもしろいからやめなさい」
「カナくんみたいな特別な人、他にはいない気もするね?」
「わかった、わかったから…のろけはもういいから…」
顔がおもしろいって、なによ。
失礼だなー。
あれ…朝香が遠ざかってく。
なに、カナくんと密談?
…でも、わたしは大らかだから。
見逃してあげよう。
感謝するんだよ、朝香。
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