第19話 徹底マークされていた
週末の土曜日。
レオにとっては3試合目のJ2戦。
栞ちゃんのボルテージはすでに最高潮だ。
「ズルじゃん!あんなの!どうしろっていうの!ねえカナくん!」
「…そうだね。とりあえず座ろう、栞ちゃん。めちゃくちゃ目立ってるからね」
席を立ちピッチを指さし。
身振り手振りも大振りでわんわんと。
その気持ちもわかるんだけど。
周囲からの視線がすごいから…
☆
前半20分過ぎ。
レオへの対策がもうされたのか。
つねに2人のマークが張り付く展開。
今までのようにボールが入らない。
入っても、挟まれてカットされる。
瞬発力を生かすスペースも…
どうやら効果的に潰されている。
「うー…1対2はズルでしょ…たまに3になるし!お兄ちゃんめっちゃ突っ込んでくけどアホなの!カナくん、お兄ちゃんこれどうなの?ムリそう?」
「大丈夫だよ、レオはクレバーだから」
世界のフォワード動画集は、ぼくも見た。
2人のマークをかわせる選手もいたし。
かわさずに打開する方法も無数にあった。
今レオは、試しているところだろう。
自身の能力、味方の能力、相手の能力を。
世界と、比較しながら。
「くればー…?」
「冷静に頭を使ってプレーできるってことだよ、栞ちゃん」
「えぇ…お兄ちゃんと、真逆じゃない…?」
「相手もそう思ってるかもね」
苦笑しながら、杵築さんを見て。
うなづきを返される。
さぁ、ここからだ。
「ねぇ、カナくん。いま杵築さんとアイコンタクトしてなかった?」
「よく気づいたね…ここからだよ、レオをよく見てて」
「…わかったけど、なーんか仲良くなってない?」
「杵築さんも、レオを信頼してるってだけ。ほら、動いたよ」
レオがボールを受け取りに。
いつもの位置からやや下がる。
ゴールから遠ざかるレオに。
マークの2人がついて行こうか迷った、瞬間。
反転、スプリント。
「おわぁっ!お兄ちゃんっ!抜け出した!」
「こうしてみると、えぐい速さだね」
2人のマークが横から縦にズレる。
パスは頭上から。
マークが奥に1人残ってる。
オフサイドは、ない。
「えっ!?は、はいった…?え?すご、なにいまの…」
「これだけキレイに決まるの、きっと練習でもやってる形なんだよ」
「ほえー…」
パスのタイミングもピタリだった。
トラップからのシュート、その迷いのなさ。
杵築さんを見る。
こっちに向かってガッツポーズしていた。
「…カナくん?」
「杵築さんの狙い通りってことだね。マークが厳しくなるの、よんでたってことだよ」
「むー…」
やましいことは何もないのに。
そんなに圧をかけないでほしいな。
栞ちゃん。
その後は、中央のマークがさらに厳しくなり。
レオを囮にサイドから点を取って。
最終スコアは2-0。
レオは今日も無事、結果を出した。
☆
「やあ、ようやく話すことができるなカナタくん」
「おつかれさまです。ケガは大丈夫なんですか?」
練習場へ向かうバスの中。
佐藤さんとの初会話だ。
ちなみに、あいだに栞ちゃんを挟む。
ぼくは窓側に押し込められ。
徹底マークされていた。
「おかげさまでケガは早々に治ったよ。監督に言われて、トレーニング強度を上げてるところだ。聞いてるか?数値の上がり方に、みんなビックリしてるって」
そう言って苦笑する佐藤さんのことは。
杵築さんから聞いている。
レオがいなければ。
J2チーム、最後のフォワードだ。
責任感も強く、キャプテン。
無理を押してでも試合に出るタイプ。
数値のほうは知らないけど。
「そんなに早くですか?まだ3週間も経ってないですけど」
「どうやら不摂生…うちでの食事じゃ、栄養が足りなかったみたいでな」
確かに元が…言いかたは悪いけど。
栄養不足スタートで、どうなるかは知らない。
実際は、不足というよりは偏りだろうか。
「貴重なデータ、ありがとうございます…と言っていいのかわかりませんが」
「いいんだいいんだ。こっちはもう調子なんて上がらんだろと思いながらやってきたから。可能性がでてきたんだ、感謝してるぜ?カナタくん」
「可能性?…トップリーグのですか?」
「ああ。頼もしい後輩も入ったことだし、他の選手たちがケガから戻ってきたら、もう一度奮起してみるさ」
佐藤さんは28歳だ。
年齢的にフィジカル上限に達している。
あとは、
「どれだけ下降させずに維持させるかも、考えないといけないのか…」
「お、考えてくれるのか?今日の議題でも上がると思うが…将来的にトップでも採用されたらありがたいな。トップは年齢層が高めだから」
「あ、いえ…さすがに全く考えてなかったので」
レオをベースに作ってきたから。
衰えを防ぐ、という発想はなかった。
「まぁ、それは後でいい。それよりレオだ。どんな育て方をしたらああなるんだ?仲間内でも話題の種だぞ」
「お兄ちゃんは…カナくんが育てました…」
言ってやった。
みたいな顔でピースしてるけど。
グロッキーな栞ちゃんの顔色は青い。
「栞ちゃん…ムリして喋らなくていいよ。それに、レオは勝手に育ったんですよ。ぼくはご飯しか与えてなくて…」
「いや、そのご飯…献立がな。トップでも話題になってるんだ。今日はそっちのメディカルスタッフもくる。期待してるぜ、カナタくん」
「トップの、メディカルが」
いずれ知己を得たいと思っていた。
J1のメディカルスタッフ。
これは…チャンスだ。
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