第18話 甘えたいよぉ
今日からカナくんと別れて行動だ。
ちょっと、いや、だいぶ寂しい。
お家に帰ればカナくんいるんけどさ…
最近ずっと一緒だったからこう、ね?
でも頑張らないと。
やるって決めたんだし。
カナくんのためにも。
カナくんだけに負担かけないように!
わたしも、頑張ろう…!
☆
旅館を外から撮って、館内へ。
ユリちゃんと朝香は学校。
だから、とりあえず…
1人で動画を撮る準備する。
やれって言われたから、2人に。
館内の掃除しながら、カメラを、操作して。
「はいどーもー…栞です…ってこれじゃちゅーばーでしょ」
挨拶、挨拶ってどうするんだっけ?
こういうときの挨拶は?
えぇ…わかんないよ。
掃除しながら挨拶することある?
今日はこのホコリを叩いていきます、とか?
うーん…
最初の一歩目で、つまづいちゃった。
そもそもクラファンの動画に。
わたしみたいな子ども出てこないし。
みんなちゃんとした大人だった。
参考動画とかほしい。
うぅ…
カナくん…カナくんに聞く?
ダメダメ!
こんなすぐ頼ったらダメでしょ。
朝香に聞こう。
聞かないとダメだ。
こういうのは朝香が詳しい。
うん。
そうだ。
2人がくるまで。
部屋のカドでも磨いてよう…
☆
「カナ先輩いないとほんとにダメダメだね」
「いてもダメ説あるよね?」
「ごめんなさいごめんなさい…」
ごめんなさい…
あれから2人がくるまで。
執拗にカドを攻め続けた。
その仕上がりには満足してます。
でも、呆れられてる。
すごく。すーっごく。
わかるよ?
だってわたしも呆れてるから。
自分に。
挨拶もろくにできないなんて…
「挨拶なんてなんでもいいでしょ。旅館名と自分の名前とこれからすること言っとけば」
「そ、それなんでもよくないじゃん!しかもすごく大事なことじゃんー!」
「それくらい考えておきなよ」
「あっ、は、はい…その通り、です…」
「ほら~漫才してないでとっととやろうよ?」
「う…はい、ごめんなさい…」
うぅ…
ここには冷たいやつらしかいない…
カナくんに甘えたい…
甘えたいよぉ…
☆
「ふぅ~つっかれたぁ~…しばらくは、外が続くの?」
「うー…うん、旅館の全景撮れないし、先に外やって…外観アップして、それから露天掃除して、って感じで…いかがですか、朝香先生」
「いいんじゃない?」
「ねー…前から思ってたけど朝香、それカナくんのまねだよね?そうだよね?」
「カナ先輩が私のまねたんじゃない?」
「朝香が先に言い始めた…?」
…?
果たして、そうだろうか…
記憶を…
…??
「あさちゃん、またムダに時間~」
「栞、私がまねした」
「…」
朝香の冗談、ほんとにわかんない!
けど、なーんかカナくんのこと…
好きそうなんだよなー…
警戒だ。
警戒しないと。
「しおちゃん、そんなジットリした目で見なくても、だれも取ったりしないって。それに結婚するんでしょ?もっと大らかになりなよ~」
そうだった。
わたし結婚するんだ。
「朝香、許すよ」
「ユリ、かえろっか」
「そだね…ちょっとポンコツすぎるし。しおちゃん、それ修理してからきて?」
「ごめんーごめんってー!がんばる、がんばるからー!」
カナくんがいないと足りなくて。
不安になっちゃうだけだからー!
☆
「ありがとう、ございました…」
「ふむ~よろしい。毎回これくらいキッチリ働こうね?」
「はい、がんばります…」
うぅ…
日も暮れて…
今日の作業も、終わりです…
お手伝い、ありがとうございました。
「栞、クラファンいつからはじめるの?」
「えー…えーっと…カナくんが紹介してくれた人と会うのが土曜で…それから内容をみんなで確認して、からかな?」
「カナ先輩はそれ、同席しないんだよね?土曜の」
「カナくん?たぶん?」
するとも、しないとも言ってなかったけど。
「…そ、栞、ちゃんと話し合いのメモとっとくんだよ」
「はい、先生」
カナくんの手を煩わせないよう。
しっかりやります。
カナくんの、手を…
あーにぎにぎ、したい。
したくなってきたなー。
☆
ダッシュで帰ってきたけど。
カナくんは、打ち合わせ中みたいだ。
だれと?
んー…
杵築さん?
ならいいかな。
こっそり膝の上に潜り込む。
おじゃましまーす…
「おかえり、栞ちゃん」
「…ただいま、カナくん。気にしないで」
わたしはわたしで好きにやるから。
『あら、珍しくいないと思ったらお出かけだったの?おかえりなさい』
「…ただいまです。わたしのことは気にしないでください」
心配しないでください杵築さん。
監視しようとか、思ってませんから。
これからは大らかになりますので、わたし。
『そ、そう?じゃあ…佐藤選手からも打診があった件、土曜に進めさせてもらうわ。試合後に時間、いいかしら?』
フリーの左手をたぐりよせる。
握手してみたり。
開かせて指を曲げたり、伸ばしたり。
恋人繋ぎ、してみたり。
うーん。
なんでこんなに楽しいんだろ。
カナくんの手、すごいなぁ…
マジックハンド…
「はい、構わないです。けど…栞ちゃん、土曜は何時から?」
はーすべすべ…いい…
極上の…土曜?
「えっとー…土曜?試合は…13時、だよ?」
「旅館の件の打ち合わせのほうだよ、栞ちゃん」
「あー…16時に、練習場、だよ?」
カナくんの手をグッパーする。
ずっと無抵抗なのも、なんか面白い。
…なんでも言いなりのカナくん、か。
ちょっと上がってしまうな?
「じゃあ、まとめてしまってもいいですか?杵築さん。そのほうがよさそうですし」
『そうね、じゃあ井岡も呼んでおくわ。試合は2人とも見に来るんでしょ?車で練習場まで送るから、よかったら残ってて。じゃあまた』
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます」
通話が切れる。
えっと…?
うん…
とりあえず、いいや。
いまは、カナくんに甘えたい。
右手もたぐりよせながら。
でも、1個だけ。
「カナくん…井岡って、だれ?女?」
「元監督だよ、栞ちゃん」
なるほど、たしかに井岡っぽさある、かも?
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