第17話 努力したから
「手伝ってもらって悪いね、2人とも。そろそろ休憩にしようか。はい、飲み物」
「ふ~どもです先輩。なかなか運動になっていいですよこれ。それに、先輩に会いたくてきたので~」
「そこ!くっつこうとしないで!カナくん!そいつ彼氏いるからね!離れて!離れてよー!」
「カナ先輩。私はいないんで、いいですか?」
「ダメに決まってるでしょ!朝香の冗談わかりづらいんだからやめて!」
「あはは…」
週明けの日曜日。
ぼくと栞ちゃんは旅館の伐採に来ていた。
ユリちゃんと朝香を連れて。
懐かしいノリだけど、ちょっと姦しい。
☆
「いや〜レオ先輩もうプロとかすごいですよね?ビックリしました…」
「それにはぼくも驚いたよ。てっきり高校でサッカーやってると思ってたから」
「わたしはカナくんに言ってないことに驚きだったよ…そんな大事なこと忘れる?ふつう」
「レオ先輩もぶっ飛んでるからね」
たしかに、ぶっ飛んでいた。
昨日の試合でもレオはゴールを決めた。
初めてのフルタイム出場で2得点。
味方のゴールにも絡む活躍で。
またもお立ち台。
栞ちゃんをグロッキーにした。
ケガ明けの佐藤さんはベンチ外。
交代選手としても登録されていなかった。
どうやら大事を取ったみたいだけど…
その件で、連絡が来ている。
「カナタ先輩が仕事してるのは確かに~ってなるんですけどね。ぜんぜん違和感ないです」
「そうかな?まぁぼくのはバイトみたいなものだし。みんなは高校入ってバイトとかしないの?」
「…しおちゃん!」
「栞」
「え?う…うん…」
え、なにそのノリ…
栞ちゃんが見たことない顔してる…
お通じがよくないと叫んでいたときより酷い。
「カナくん、あ、あのね!わたしたち!クラファンやりたいの!」
クラファン。
クラブファン活動の略称だ。
レオの応援部隊にでもなるのかな。
「いいんじゃない?」
「えっ!いいの?まだぜんぜん詳しく話してないけど…」
「栞ちゃんがやりたいなら」
ブラコンとしては。
いささか我慢できないのかもしれない。
あれだけ客席はガラガラだし。
応援に熱を入れたい、というのも理解できる。
…栞ちゃんの体力のなさは。
きっと2人がカバーするのだろう。
「え!えへへ、それはその、嬉しいんだけど…えっと…?」
「栞、しっかりして」
「う…はい。その…お金のこと、2人には話したの。でね?カナくんの大切なお金も、あてにしたい、と言うか…なんだけど…」
なるほどこれは…
クラウドファンディングのほうだな。
☆
ぼくの出せる3000万円。
栞ちゃんたちの貯蓄から出せる1000万円。
旅館再建に5000万円。
必要な金額は、差し引き1000万円ほどになる。
「この撮影してるのも?」
伐採風景を録画してるのは知っていた。
何に使うのかと思ったけど。
「それはユリちゃんの提案で」
「こうやって、努力を見せるのが大事らしいんですよ~応援者のひとに継続してみてもらうのにも一役?買うって?」
「カナ先輩、そのあたりは私も調べました」
なら、大丈夫かな。
朝香はそのへん、しっかりしてるし。
ぼくはうなづく。
「それでね、カナくん。これは、わたしたちだけでやりたいの。旅館のこと、清掃とかも、ぜんぶ。カナくんには、カナくんのやることに、集中して欲しい、と思って…ダメ、かな?」
「栞ちゃんがそうしたいなら、いいよ。ありがとう」
ぼくの役目は、2人のワガママを聞くことだ。
それはこの先も変わらない。
その、フォローもだ。
「えへへ。こっちこそありがとね、カナくん。わたし、頑張るから!」
「うん、応援してるよ。ただ金銭的なことは、専門家に相談したほうがいいから。前に監督から紹介してもらった金融アドバイザーの方に、話しを通しておくね」
「あ、ありがとカナくん!」
「…気軽に3000万出せるのえぐいよね、あさちゃん」
「やっぱカナ先輩ぶっ飛んでる」
☆
「よかったの?2人と帰らなくて」
「いいのーあの2人も…やっぱ怪しいし…ちょっと距離置きたいし…」
「明日から一緒にやるのに?」
「そっ!そうだけどー…そうじゃなくてー…」
旅館からの帰路。
ぶうぶう言う栞ちゃんと2人だ。
ユリちゃんと朝香は置き去りにした。
栞ちゃんが。
「でも、ぼくなんてそんなモテないんだけどな…」
在学中、そんなイベントは全くなかった。
レオのほうがモテてた気がする。
別にいいんだけど。
「努力…わたしたち、努力したから…」
努力?
ああ…
「そういえば、呼び出されたことは何回かあったっけ」
「やっぱり…あったんじゃん」
「でもどれも、栞ちゃんと付き合ってるんですか?って言われただけだよ」
「…カナくん。言われてそのあと…なんて答えたの?」
「うーん、どうだったかな?」
付き合ってないけど。
いつかはそうなれたらいい、なんて
今考えると、だいぶ恥ずかしいセリフだ。
「もう!」
ぼくからでは、踏み出せなかった。
前までの、あの関係を壊したら。
どうなるかわからなかったから。
だから、夫婦になると言ってくれて。
嬉しかったんだよなぁ…
「…ありがとね、栞ちゃん」
「んん?よくわかならいけど、こっちこそ!」
まぁこっちも。
レオに悪い虫は払わせてたから。
今となってはあいこだね。
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