第17話 努力したから

「手伝ってもらって悪いね、2人とも。そろそろ休憩にしようか。はい、飲み物」


「ふ~どもです先輩。なかなか運動になっていいですよこれ。それに、先輩に会いたくてきたので~」


「そこ!くっつこうとしないで!カナくん!そいつ彼氏いるからね!離れて!離れてよー!」


「カナ先輩。私はいないんで、いいですか?」


「ダメに決まってるでしょ!朝香の冗談わかりづらいんだからやめて!」


「あはは…」


週明けの日曜日。

ぼくと栞ちゃんは旅館の伐採に来ていた。

ユリちゃんと朝香を連れて。

懐かしいノリだけど、ちょっと姦しい。



「いや〜レオ先輩もうプロとかすごいですよね?ビックリしました…」


「それにはぼくも驚いたよ。てっきり高校でサッカーやってると思ってたから」


「わたしはカナくんに言ってないことに驚きだったよ…そんな大事なこと忘れる?ふつう」


「レオ先輩もぶっ飛んでるからね」


たしかに、ぶっ飛んでいた。

昨日の試合でもレオはゴールを決めた。

初めてのフルタイム出場で2得点。

味方のゴールにも絡む活躍で。

またもお立ち台。

栞ちゃんをグロッキーにした。


ケガ明けの佐藤さんはベンチ外。

交代選手としても登録されていなかった。

どうやら大事を取ったみたいだけど…

その件で、連絡が来ている。


「カナタ先輩が仕事してるのは確かに~ってなるんですけどね。ぜんぜん違和感ないです」


「そうかな?まぁぼくのはバイトみたいなものだし。みんなは高校入ってバイトとかしないの?」


「…しおちゃん!」


「栞」


「え?う…うん…」


え、なにそのノリ…

栞ちゃんが見たことない顔してる…

お通じがよくないと叫んでいたときより酷い。


「カナくん、あ、あのね!わたしたち!クラファンやりたいの!」


クラファン。

クラブファン活動の略称だ。

レオの応援部隊にでもなるのかな。


「いいんじゃない?」


「えっ!いいの?まだぜんぜん詳しく話してないけど…」


「栞ちゃんがやりたいなら」


ブラコンとしては。

いささか我慢できないのかもしれない。

あれだけ客席はガラガラだし。

応援に熱を入れたい、というのも理解できる。


…栞ちゃんの体力のなさは。

きっと2人がカバーするのだろう。


「え!えへへ、それはその、嬉しいんだけど…えっと…?」


「栞、しっかりして」


「う…はい。その…お金のこと、2人には話したの。でね?カナくんの大切なお金も、あてにしたい、と言うか…なんだけど…」


なるほどこれは…

クラウドファンディングのほうだな。



ぼくの出せる3000万円。

栞ちゃんたちの貯蓄から出せる1000万円。

旅館再建に5000万円。

必要な金額は、差し引き1000万円ほどになる。


「この撮影してるのも?」


伐採風景を録画してるのは知っていた。

何に使うのかと思ったけど。


「それはユリちゃんの提案で」


「こうやって、努力を見せるのが大事らしいんですよ~応援者のひとに継続してみてもらうのにも一役?買うって?」


「カナ先輩、そのあたりは私も調べました」


なら、大丈夫かな。

朝香はそのへん、しっかりしてるし。

ぼくはうなづく。


「それでね、カナくん。これは、わたしたちだけでやりたいの。旅館のこと、清掃とかも、ぜんぶ。カナくんには、カナくんのやることに、集中して欲しい、と思って…ダメ、かな?」


「栞ちゃんがそうしたいなら、いいよ。ありがとう」


ぼくの役目は、2人のワガママを聞くことだ。

それはこの先も変わらない。

その、フォローもだ。


「えへへ。こっちこそありがとね、カナくん。わたし、頑張るから!」


「うん、応援してるよ。ただ金銭的なことは、専門家に相談したほうがいいから。前に監督から紹介してもらった金融アドバイザーの方に、話しを通しておくね」


「あ、ありがとカナくん!」


「…気軽に3000万出せるのえぐいよね、あさちゃん」


「やっぱカナ先輩ぶっ飛んでる」



「よかったの?2人と帰らなくて」


「いいのーあの2人も…やっぱ怪しいし…ちょっと距離置きたいし…」


「明日から一緒にやるのに?」


「そっ!そうだけどー…そうじゃなくてー…」


旅館からの帰路。

ぶうぶう言う栞ちゃんと2人だ。

ユリちゃんと朝香は置き去りにした。

栞ちゃんが。


「でも、ぼくなんてそんなモテないんだけどな…」


在学中、そんなイベントは全くなかった。

レオのほうがモテてた気がする。

別にいいんだけど。


「努力…わたしたち、努力したから…」


努力?

ああ…


「そういえば、呼び出されたことは何回かあったっけ」


「やっぱり…あったんじゃん」


「でもどれも、栞ちゃんと付き合ってるんですか?って言われただけだよ」


「…カナくん。言われてそのあと…なんて答えたの?」


「うーん、どうだったかな?」


付き合ってないけど。

いつかはそうなれたらいい、なんて

今考えると、だいぶ恥ずかしいセリフだ。


「もう!」


ぼくからでは、踏み出せなかった。

前までの、あの関係を壊したら。

どうなるかわからなかったから。

だから、夫婦になると言ってくれて。

嬉しかったんだよなぁ…


「…ありがとね、栞ちゃん」


「んん?よくわかならいけど、こっちこそ!」


まぁこっちも。

レオに悪い虫は払わせてたから。

今となってはあいこだね。

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