第16話 ニートになった

卒業式を終えて。

わたしはニートになった。


みんなにはめちゃくちゃ心配されたけど。

カナくんも兄もニート!

みんなニートだから安心だよ!

って言ってから気づいた。


2人とも仕事してるよ。

やばいのわたしだけだった。



「はぁ…」


「栞、ため息ひどいよ?」


「現実が…重くて…わたしだけニート…」


帰り道、朝香にグチを聞いてもらってる。

優しいのにクールな、一番の友達だ。


「中学出てすぐ稼ぐのは立派だけど、あの2人元からフツーじゃないじゃん。気にしてもしょうがないって。お金のことは任せて、自分のことやりなよ」


「そーなんだけどさー」


お兄ちゃんの契約金は400万円だった。

半分を貯金に入れてもらって。

もう半分はサッカー関連に使うらしい。


年俸も400万円。

どれぐらい残せるかは、1年経費を見て。

ということになった。


ぜんぶカナくんが決めてくれた。

お兄ちゃんは、じゃあそれでって感じで。

やっぱりカナくんに丸投げしてない…?


「カナ先輩のこともよかったね。取られる前に婚約できて」


「それ!ほんとーによかったよー…ほんとーに!」


「まぁ一緒に住んでて他に負けたら、笑うけどね」


「ひど!それはないでしょー!」


「だいぶせき止めてあげたんだから、感謝してよ?」


「それ、は…してるけどさー…」


野生動物みたいな兄と違って。

落ち着いてて大人なカナくんはすごくモテた。

優しいし、笑顔もステキだし。

かっこいいし、甘やかしてくれるし。

モテしかないよね…


なんでか知らないけど。

カナくんの妹扱いされてたわたしは。

紹介を断るのに必死だった。

朝香もだいぶ手伝ってくれて。


カナくんの耳に入る前に。

大部分を消し炭にした。


「高校では大丈夫だったの?カナ先輩」


「実は高校ぜんぜん行ってなかったんだってカナくん」


「ええ…なんでよ」


「ん-…うちの旅館、あったじゃん?覚えてる?」


「ああ、あったね、懐かしい」


「わたしが昔、旅館復活させたいって言ったから…1人でずっと、旅館の手入れしててくれたの。中学から、ずっと。高校からお兄ちゃんの面倒で忙しくなったから、行かなくなったって」


「…それで高校までやめるとか。やっぱぶっ飛んでるねカナ先輩。栞、めちゃくちゃ愛されてんじゃん」


「ねー…やっぱカナくんはすごいよ」


カナくんは、特別だ。

お兄ちゃんだって、そう。

わたしには、何ができるんだろう。


高校いくのやめたのだって。

2人が懸命に頑張ってるのに。

わたしだけのんびり、学生なんてできない。

って思っただけだし…


「栞、今日はもう手伝いないんでしょ?」


「え?うん、そうだけど…」


「よし、じゃあユリも呼んで、ガールズトークしよ」



「えぇ…ちょっと高そうじゃない…?大丈夫…?」


「こういうときは美味しいものでリフレッシュだよ?しおちゃん」


「一理ある、けどさー…わたし、お金あんまりないよ?」


1000円くらいしかお財布にない。

ユリちゃん提案のお店はちょっと…

いや、だいぶお高そうな感じだ。


おな中の生徒いなさそーって遠目のとこきたけど。

ここはうちの旅館にけっこう近いし。

そっちの知り合いがいても気まずい…


「いいから行くよ。足りない分は出すから」


「そうそう!さ、食べるよ~」


うぅ…ぐいぐい押さないでぇ…



「お待たせしました。シェフのお任せ、です」


店員さんにおじぎして、ほっと息をつく。


「ギリ足りたー…」


ドリンクとケーキセットで1000円!

高い!高いよー!


でもこれ以外は超えちゃってたし。

1000円で済むのがあってよかった。

そう思うべき。

うん。


「足りない分出すって言ったのに」


「足りるならいいのーわたしは堅実なの!」


「ニートになっといて?ギャンブラーでしょ」


「うぐっ」


「あたしもびっくりしたけどさ~ま、カナタ先輩いるし?ならどうとでもなるよね?ほら食べよ食べよ~」


「…なんかユリちゃん冷たくない?」


「んん?カナタ先輩独占したのだれかな?あたしも狙ってたのに…」


「えっそうだったの!?」


知らなかった…

だってぜんぜんそんな素振りなかったし。


「ユリは彼氏いるでしょ。からかわないの」


「てへ」


「…」


はぁ…

スイーツ食べよ…



「それで?何に悩んでるんだっけ?カナタ先輩が相手してくれないとか?」


「カナくんは相手はしてくれてるよ…いや、そういう話しじゃなくて。ニートになってみたけど、何したらいいかなって…」


「あさちゃん、こいつ何言ってるの…?」


「わかる。私もちょっとイラっときた」


「ええ!?なんでよ!」


「だってさ~カナタ先輩と同棲してて?結婚の約束もしててだよ?」


「レオ先輩もカナ先輩も稼いでくれる」


「それでニートだどうしようって…しおちゃん、やばいよ?」


「あー…わかってる。わかるよ、そう言われたやばいよ。わたしのために2人がちゃんとしてくれてるのに…でもさー何したらいいか、何ができるかわかんないんだよー…」


うぅ…

スイーツが心にしみるぅ…


「栞、わたしのためにってどういう意味?」


「…え?」


「しおちゃん、別に働けないわけじゃないんでしょ?2人だけが稼いでくるの気になるならさ~しおちゃんも働いたらいいんじゃない?」


「あー…」


そういえば。

ちゃんと話してなかったっけ。


うーん…

カナくんからは、お金のこと。

信頼できる人にだけ明かすように。

って言われてるんだけど…


いいかな?

この2人なら。

いいよね、カナくん。

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