第15話 点とれ~

「お兄ちゃん、活躍するといいね!」


「杵築さん、ベンチって言ってなかったっけ…?」


「でもほら、なーんか勝手に出てきそうじゃない?お兄ちゃんの性格だと。大丈夫かなぁ…」


さすがにそこまではしないよ…

ああ見えてレオはクレバーなタイプだし。

ちゃんと杵築さんの言うことも聞くだろう。


週末の土曜日。

ぼくたちはスタジアムに来ていた。

J2の試合、レオがベンチに入ったからだ。


スタッフカードで無料、らしいけど。

監督…元監督から、チケットをもらっている。

あれ…?


「そういえば、監督の名前…栞ちゃん、知ってる?」


「知らない!監督は監督だしー」


ぼくらは未だに元監督の名前を知らない。

あとで聞いておかないと。



「お兄ちゃんの名前呼ばれたけど…大丈夫かな?」


「うん、大事ないといいね」


後半開始早々。

データでも打撲を抱えていた佐藤さんが。

接触後に、うずくまってしまった。


立って歩けてるし。

おそらく軽傷だろうけど…

あとで杵築さんに提案しないとな。


「お、でてきたよ。お兄ちゃん。おにいちゃーん!」


全身でここにいるよアピールする栞ちゃん。

さすがのブラコンぶりがかわいい。


「そのままフォワードのポジションみたいだね」


「点とれ~点とれ~!」


ゲームのスコアは0-0。

急な出場だけど、栞ちゃんの祈りは届くだろうか。



「うーん、すごいな…」


「…」


栞ちゃんは応援疲れでグロッキーだ。

45分間、全力で叫び続けたから。


その甲斐あってか、レオは3点取って。

スコアは3-2。


間違いなく、レオは今日のヒーローだ。

お立ち台でインタビューを受けている。


特に緊張した素振りもなく。

受け答えもちゃんと敬語だ。

レオ、成長したなぁ…



「杵築さん、おめでとうございます」


スタッフ用連絡通路で。

ルンルンの杵築さんを捕まえる。


「ありがとう!レオくん、すごかったわ!やっぱり本物ね彼は!」


うんうんと誇らしげにうなづく栞ちゃん。

いつもそれくらい素直に接したらいいのに。

それは置いといて、


「少し、お聞きしたいことがありまして」


「ええ、なにかしら?」


「佐藤さんのケガ、どうでしたか?」


「ああ、軽傷よ。打撲したところを強く打っただけだから…1週間もしないで練習に復帰できると思うわ。心配してくれてありがとう」


「いえ。以前、伊藤さん…4軍スポーツドクターの方と話し合ったのですが。練習不可になるケガを負ったときは、回復スピード全振りの献立がいいだろう、とのことだったので」


「え?もしかして、あるの?その献立も」


「はい、4軍では幸い使いませんでしたが、念のため作ってあります。ただ、こちらは3食1週間のループを治るまで確実に続けてほしいんです」


それぐらいの計算で作っている。

効果は、まだ保証できないけど。


神妙な顔でこちらを見つめる杵築さん。

うーん。

さすがに全食ずっとは厳しいだろうか。


ずいっと手を広げて前に出る栞ちゃん。

なになに。


「杵築さん!わたしとカナくん結婚してますからね!ダメですからね!」


「あ、いえ、そうじゃないのよ。カナタくんの提案を考えていたの。佐藤選手は家庭もあるから…どうしたらいいかなって」


「ほっ」


ほっじゃないよ…まったく。


「そのあたりのことはお任せします。両方のタブレットに専用の献立を送っておきます。ただ、続けないと効果が出ない、と思いますので」


「…わかったわ。ちょっとみんなと相談しないといけないし。ありがとう、カナタくん」


「いえいえ。あと、一つお願いがあるんですけど、いいですか?」


「ええ、なに?」


「すいませんが…監督、元監督の名前を教えてください」


「え?」



「お兄ちゃん今日帰ってこないってー」


「残念だね、お祝いしたかったのに」


家に戻って、今日のことを話し合う。

レオはたぶん、連れまわされているのかな。

勝利の立役者だし。


「別にいいけどねーカナくん独り占めできるしー」


「家にいてもレオぜんぜん関わってこないけどね」


「気分だよ!気分の問題ー!」


「はいはい」


栞ちゃんはちょっと寂しげだ。

レオのかわりにたくさん甘やかそう。

胸に収めて、頭をなでる。


「んー…」


気持ちよさそうに。

猫のように丸まる。


「そういえばさっきの。結婚してますからは、面白かったね」


「えーだってー杵築さん目が怪しいんだもん」


「さすがにぼくとは結婚したがらないと思うよ?だいぶ歳も違うし」


杵築さんはたぶん、40代前後。

どんなに目が怪しくても。

未成年は選ばないんじゃないかな。


「カナくん甘いよ?恋に年齢なんて、関係ないんだからね」


「そうかな?」


さすがに想像できないけど…


「わたしがカナくんと結婚したいって思ったの、6歳だし」


「それは…ずいぶん早いね、ぼくも7歳か」


「わたし、お父さんとお母さんみたいな関係が好きだったから」


旅館の板前長と、女将さん。

ぼくは板前長から料理を教わってて。

栞ちゃんは、お母さんのマネをして。

でも、


「ぼく、板前長になるつもりないけど、いいの?」


「うん、それはもういいの。だって、わたしが好きなの、カナくんだし!カナくんが向いてるの、ぜったいマネージャーだもん」


「ありがと栞ちゃん」


頬に頭突きしてくるの痛いけど。

これも栞ちゃんの愛情表現だ。

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