第14話 冗談じゃないじゃん
応接室で杵築さんから説明を聞きながら。
カナくんは持参したペンと…紙?
なんか細かくレイアウトされた用紙?
を取り出して作業を始めた。
前のからアップデートされてるぅ…
「急ぎとのことなので、すいません。少し不格好になってしまいますが、作業しながら続きをお聞きします」
がんばれ、カナくん。
わたしの役目は出来上がった資料を整えて。
タブレットにアップすること。
したがいまして。
今はやることないんですけど。
何してたらいいですか?
杵築さん。
あれ、なんか驚いてる。
「杵築さん、どうかしました?」
「いえ、それ…話しながらできるの?」
カナくんのほうを指さして言う。
なんで?
「カナくんはできますけど?」
「そ、そう…?じゃあ、やりながら聞いてもらうけど…」
タブレットをシャッシャしながら。
カナくんは、すでに献立を書き始めてる。
いま見てるのはJ3のタブレットかな。
「J3のほうを先に済ませます。数人で終わりますから」
うちの選手たちの分は。
すでにデータとして収まってるみたいだ。
カナくんなら、残りは秒。
さすがにそれは言いすぎだけど。
「え、ええ。じゃあ…確認したかったのは、その献立の考え方。うちのスタッフたちにもやらせてみたけど、1年間まるで効果がでなかった。その理由は…考えつく?」
「えっと…うちの監督から聞きましたけど、J2はプレーの強度が違うそうですね?選手たちの身体的な能力がJ3と同じでも、戦術的な速さの違いで、プレー中の考える時間が削れられると」
いつのまに、そんな話しを?
知らないところでコソコソと…
カナくんと連絡とらないでほしいな。
監督。
「ええ、それは…その通りね。それが?」
「動画を見てて気づいたんですが…ボールに対するアプローチや、選手へのコンタクトが速くなると、選手同士が強くぶつかりあうケースが多いように思います。それがJ3との大きな違いで」
カナくんから渡された紙を。
整えてデータに取り込んで共有へ入れる。
このへんは、わたしも慣れたものだ。
杵築さんは…
喋りながらも手が止まらないカナくんを。
ヘンな顔で見てる。
失礼ですよ、杵築さん!
「…」
「打撲や捻挫、ケガが増えますよね?その状態で、通常の献立を使用しても、傷んだ部位の回復は早くならないんです。これはレオのを作ってて実際に気づいたことです。あいつ、痛みをこらえたままプレーするから…それから、ぼくの作る献立は、回復力とケガをしにくくする方面を強くしました。J3の方々は、ほとんどみなさん大人だったので、より強く、という感じです」
うーん。
スラスラしゃべるカナくん、かっこいい。
こういうの、理知的っていうんでしょ。
どう?杵築さん。
かっこよくない?理知カナくん。
データを取り込みながら。
杵築さんをチラチラみる。
無反応…ですね?
寝てるとか?
「…」
「ケガや痛みを我慢したまま、思考できる時間の短い、強度の高い環境でプレーし続ける。それがスタッツの上がらない一番の原因かな、と思ったのですが…」
カナくんが手を止める。
J3はこれで、終わりのようだ。
おつかれさま、カナくん!
でも、杵築さんは帰ってこないままだ。
目の前で手をフリフリする。
「杵築さーん?大丈夫ですかー?」
「はっ!ご、ごめんなさい。大丈夫よ…なんというか…驚いてしまって」
そうかな。
カナくんはいつもカッコいいと思うけど。
そんなに驚くこと?
まさか。
まさかまさか、
「杵築さんもカナくんと結婚したいとか、言い出さないですよね?」
「え、ええっ?なんの話し、かしら…?」
「栞ちゃん、そのネタはもういいから…」
わかんないよ!
みんな怪しいんだから!
カナくんにJ2のタブレットを渡しながらも。
わたしは警戒を解かなかった。
だって杵築さん。
結婚指輪してないんだもん。
☆
「これで終わりですね、栞ちゃんあとはお願い」
「はーい!」
休憩を挟んで、J2みんなの献立も終わった。
データを取り込みながら考える。
これで晴れて、自由…なのかな?
このあと、どうするか聞いてない。
どうするの?
カナくん。
「えっと、これからぼくたち、どうしたらいいですか?」
「ええと…今日は、説明とかに1日かかると思ってたのよ…それで、データを作ってもらって、そのうち今後の話しをする予定で…」
「早くできたのは杵築さんのおかげですよ。助かりました。まさか全選手のデータが揃ってるとは思わなかったので」
「ああ…それはレオくんのを貰ったときに、みんなに書かせたのよ。うちのスタッフにも参考にさせたかったし。それにしたって…来てもらって1日で終わるなんて、思わないじゃない?」
「献立が決まらないと、色々大変でしょうから。早々にできてよかったです」
「これは…たしかに…結婚したくなるわね…」
「杵築さん!聞こえてますからね!ぜったい!ダメですからね!」
ほら、これだから!
ぜーったいダメだから!
カナくんを隠すように抱きしめる。
「あはは。栞ちゃん、さすがに冗談だから」
「…」
この沈黙は2人のものだ。
わたしと、杵築さんの。
ほら、冗談じゃないじゃん…
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