第12話 うれしくって、つい
みんなの昇格が決まった翌日。
わたしとカナくんは。
さっそく監督と打ち合わせだ。
昨日は連絡つかなかった監督と!
「今後について、お願いします」
話すのはカナくん任せ。
タブレットを取り上げられたわたしは。
しかたなくカナくんにくっついてる。
うーん、お肌ぷにぷにで気持ちいい…
『…まずJ3の話しから行くが。功績が認められて、内々にJ3トレーナーの通知が来ている。育てる選手がいなくなった、ってのもあるが。4軍は一時的に解体だ。J3に吸収される。他のスタッフもな』
「それは…おめでたいことなんですか?」
『キャリアアップ、という意味ではそうだな。まぁ我々もこう見えて会社勤めだ。上の方針には逆らえない。春の人事でJ3から出ていくスタッフも多数いるだろう』
「めちゃくちゃ逆らってそうなのに…ね、カナくん」
『おい、聞こえてるぞ栞ちゃん』
慌てて隠れる。
カナくんの背中に。
耳のいいおじさんめ。
「えっと…じゃあ、完全に繰り上がりということですか?そこからJ2を目指すと」
『そうだ。J3以上はほら、以前チケットで見に行っただろう?ああいったスタジアムでの正式なリーグ戦がある。そこでスカウトされるか、スタッフからの推薦で上がっていくわけだな。他チームからの引き抜きも当然ある』
「J2も同じですか?」
『ああ。待遇は全く違うし、スカウトの目も多くなるが…やることは同じだ。上に行くために、試合で結果を出せばいい』
ふむふむ。
お兄ちゃんの試合か。
これは応援しに行かないと。
でも、そんなすぐには出れないよね?
うちの選手たちも1年以上、頑張った結果だし。
それにしても、
「…監督ーどれだけ騒いだんですか。すごく声、荒れてますけど?」
『あまりに嬉しくてつい、な。これもカナタくんのおかげだ。ありがとう!ごほっおえっ』
「ムリして大声出さなくてもいいんじゃないかなー…いつもうるさいくらいだし、ねー、カナくん」
『げほっ栞ちゃん…だから聞こえているぞ…ごほっ』
「今のは聞かせるために言いましたー。監督、いっつも声大きすぎですよ?」
少しはこっちの耳をいたわってほしい。
監督はノド、いたわったほうがいいけど。
「あはは。こちらこそ、お世話になりました。それで、みんなの食事はどうなるんですか?」
『まったく…食事か、食事は外で食うやつも多いんだが、J3以上は練習場の食堂から提供が行われる。J2はそれに加えて寮も完備されるが…レオはどうするんだ?』
「骨折…激太り…」
お兄ちゃんの不摂生が今から目に浮かぶ…
「そうですね…強制ではないのでしたら、このままで。面倒も見やすいですし」
『そうか。よし、もう疑問はなくなったか?』
「ええ、ぼくは。栞ちゃんは?」
わたし?
疑問、疑問かー。
あ、そうだ。
「お兄ちゃんって、いつ試合にでれるとか、わかります?」
『あー普段ならわからん、と言いたいところだが…J2はフォワードのケガ人も多いそうだ。早々にチャンスが与えられるだろうな』
「おー!」
それは!いいことなのでは!
あんな大きなスタジアムで試合かー
お兄ちゃんも立派になったな…
お客さん、ガラガラだったけど。
兄はカナくんが育てた!
うーん、いつか言ってみたい。
ねーカナくん。
『レオがベンチ入りしたらチケットを回す。応援にいってやってくれ』
「ええ!もー監督!いっつもそれぐらい気がきいたら、お嫁さんももらえるのにー」
『好きで独身やってんだ!ほっといてくれ!げほっ…がはっ…』
「栞ちゃん…?」
「ご、ごめんなさい監督…うれしくって、つい…」
やば、カナくんちょっと怒ってる?
ような気がする…
怒ったとこみたことないけど。
ごめんなさいごめんなさい…
『まぁ、いいがな…ごほん。じゃぁ、あらためてこちらの話しをさせてもらうが』
あ、カナくん頭なでてくれる。
怒ってなかった?
ない?
よかったー!
よしよし嬉しい!
えへへー。
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