第8話 すごく、優しい

翌朝。

今日は水族館、の予定だけど…

いろいろと、衝撃的、だった。

カナくんの話しは。


わたしはあれから旅館に行ってない。

怖かったのもあるし。

両親のことを思い出して。

動けなくなりそうだったから。


いつか復活させるって言うのも。

ほんとうにボンヤリのいつか、だった。


それをカナくんは…

あんなに具体的に、考えてくれたなんて。

うれしすぎ。

かっこよすぎ…


はー…カナくん、やばー…


はっ!

トリップしてる場合じゃない。


開かなきゃ、会議を。

お兄ちゃんが出る前に、早く!



「緊急家族会議ー!」


朝ごはんを食べる2人に言い放つ。

お兄ちゃんはいつも通り、うげって顔だ。


話しを聞く姿勢を見せながらも。

スマホを懸命に弄ってるのが、カナくん。

この不慣れな感じ、かわいいね!


「なんだよ、朝っぱらから」


「お兄ちゃんにはいろいろ言いたいことあるけど。とりあえず、高校やめてサッカーに専念して!わかった?」


「あー…?いいのか?」


「いいんじゃない?」


「よし、決定!お兄ちゃんのタスクは、できるだけ早くJ1に上がって、お金を稼ぐこと!そのお金をできるだけお家にいれること!わかった?」


「それでいいか?」


「いいと思うよ」


「よし、決定!あとわたし、高校行かずに経営の勉強するから!いい?」


「…どうなんだ?」


「栞ちゃんが決めたことなら」


「よし、あとは…カナくん、水族館は延期でいい?ちょっとお魚さんに集中できそうにないし…」


「うん、また今度にしようか」


「あー…話しは終わりか?んじゃいってくるわ」


「「いってらっしゃい」」


どうでも良さそうに席を立つ兄を見送る。

うーん。

なんか、お兄ちゃん。

全部カナくんに確認してなかった?

気のせいかな。


「栞ちゃん、今日はどうするの?」


「あ、今日はお兄ちゃんの試合見に行って。そのあと、旅館行きたいんだけど…いい?」


「いいよ。ぼくも監督に確認したいことあったし。旅館に行くのは久しぶり?」


「うん…あれ以来、いってない。カナくん、いざというときは支えてね」


「任せてよ。でも、あまりのキレイさに、ビックリするんじゃないかな?」


「ほんとに!それはちょっと、楽しみかも…」


ほんとは、すごく不安だ。

でも、不安を和らげようとしてくれてる。

やっぱりカナくんは。

優しいな。すごく、優しい。



「監督、チケットありがとうございました!」


「おう!こっちも分析助かってるからな!どうだった?スタジアムデートは」


「そういうの今はセクハラです。やめてください監督」


「栞ちゃん、そういうマジトーン…やめない?おじさん怖い」


「あはは。J3では天に拳を突き上げて注目を集めて。J2ではムリして両手に持ったカップのジュースを、転んで前のカップルにぶっかけてましたよ」


「言わないでーカナくん言わないでー!」


うぅ…

カナくんがいじわるだ。

全然、優しくない。


「ほんとにおっちょこちょいだな、栞ちゃんは!で、今日はどうしたんだ?」


「うぅ…カナくん。先に、いいよ」


「折り入って相談があります。少し、時間いいですか。監督」


「なんだ、まじめな話しか。いいぜ、あっちで聞こう」


え?そんなテンションのやつなの?

急に真面目にならないでよカナくん!

わ、わたし全然準備でできてないけど、心の。

ついていっていいのかな…?



「なるほど、それが3人共通の夢ってやつか…」


「レオは1人だけ、野望を追ってますけどね」


カナくんが監督に伝えたことは。

旅館復活の話しだ。

わたしもちょろっと言うつもりだったけど。

カナくんはガツガツいくなー。


「まぁあいつはそんな感じだな!で、何を手伝ってほしいんだ?」


「とりあえず要望を言います。できるかどうかの検討は、あとで、でいいですか?」


「ああ、かまわん」


「1つ目、J1選手の食事状況が知りたいです。献立が手に入れば分析してフィードバックします」


ふむふむ。

スマホにメモを取っておこう。


「2つ目、スポンサードの話しを知りたいです。将来的にレオには旅館の広告塔になってもらう予定ですが、契約関係に詳しい方を紹介できますか?」


…お兄ちゃんが広告塔になったら。

温泉にマーライオンとか設置しそうだ。

大丈夫かな。


「3つ目、J1の選手を細かく分析したいので、できるだけ大量にビデオが欲しいのですが、どうでしょうか?」


びでおってなんだっけ。

たぶん、動画のことかな?


「しがない4軍の監督に頼むことでもないが、まぁいいだろう。できるだけのことはやってやる。それでいいか?」


「ありがとうございます。ご恩はきっとレオが返しますから」


「まぁあいつの才能にはおれも期待してるがな!カナタくんにも!で、栞ちゃんはなにかあるのか?」


「え?えーっと…だいたいのこと、カナくんが言っちゃいましたので。なんかあるかな?」


あったかな。

話すこと。


「よし、ないなら練習に戻るぞ!」


あ、あった。


「ありました、監督」


「なんだ?」


「ぜったいに、飲み会には行きませんから。誘わないでくださいね、わたしもカナくんも」


「お、おう…わかったよ。じゃ、じゃあ戻るぞ!」


そう言って。

監督は小走りで戻っていった。


「いろいろとお世話になろうとしてるのに、強気だね栞ちゃん」


「あの地獄には、さすがにもう行きたくないから」


おじさんたちは歯止めが効かないのだ。

カナくんをそんなところに行かせたくない。

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