第8話 すごく、優しい
翌朝。
今日は水族館、の予定だけど…
いろいろと、衝撃的、だった。
カナくんの話しは。
わたしはあれから旅館に行ってない。
怖かったのもあるし。
両親のことを思い出して。
動けなくなりそうだったから。
いつか復活させるって言うのも。
ほんとうにボンヤリのいつか、だった。
それをカナくんは…
あんなに具体的に、考えてくれたなんて。
うれしすぎ。
かっこよすぎ…
はー…カナくん、やばー…
はっ!
トリップしてる場合じゃない。
開かなきゃ、会議を。
お兄ちゃんが出る前に、早く!
☆
「緊急家族会議ー!」
朝ごはんを食べる2人に言い放つ。
お兄ちゃんはいつも通り、うげって顔だ。
話しを聞く姿勢を見せながらも。
スマホを懸命に弄ってるのが、カナくん。
この不慣れな感じ、かわいいね!
「なんだよ、朝っぱらから」
「お兄ちゃんにはいろいろ言いたいことあるけど。とりあえず、高校やめてサッカーに専念して!わかった?」
「あー…?いいのか?」
「いいんじゃない?」
「よし、決定!お兄ちゃんのタスクは、できるだけ早くJ1に上がって、お金を稼ぐこと!そのお金をできるだけお家にいれること!わかった?」
「それでいいか?」
「いいと思うよ」
「よし、決定!あとわたし、高校行かずに経営の勉強するから!いい?」
「…どうなんだ?」
「栞ちゃんが決めたことなら」
「よし、あとは…カナくん、水族館は延期でいい?ちょっとお魚さんに集中できそうにないし…」
「うん、また今度にしようか」
「あー…話しは終わりか?んじゃいってくるわ」
「「いってらっしゃい」」
どうでも良さそうに席を立つ兄を見送る。
うーん。
なんか、お兄ちゃん。
全部カナくんに確認してなかった?
気のせいかな。
「栞ちゃん、今日はどうするの?」
「あ、今日はお兄ちゃんの試合見に行って。そのあと、旅館行きたいんだけど…いい?」
「いいよ。ぼくも監督に確認したいことあったし。旅館に行くのは久しぶり?」
「うん…あれ以来、いってない。カナくん、いざというときは支えてね」
「任せてよ。でも、あまりのキレイさに、ビックリするんじゃないかな?」
「ほんとに!それはちょっと、楽しみかも…」
ほんとは、すごく不安だ。
でも、不安を和らげようとしてくれてる。
やっぱりカナくんは。
優しいな。すごく、優しい。
☆
「監督、チケットありがとうございました!」
「おう!こっちも分析助かってるからな!どうだった?スタジアムデートは」
「そういうの今はセクハラです。やめてください監督」
「栞ちゃん、そういうマジトーン…やめない?おじさん怖い」
「あはは。J3では天に拳を突き上げて注目を集めて。J2ではムリして両手に持ったカップのジュースを、転んで前のカップルにぶっかけてましたよ」
「言わないでーカナくん言わないでー!」
うぅ…
カナくんがいじわるだ。
全然、優しくない。
「ほんとにおっちょこちょいだな、栞ちゃんは!で、今日はどうしたんだ?」
「うぅ…カナくん。先に、いいよ」
「折り入って相談があります。少し、時間いいですか。監督」
「なんだ、まじめな話しか。いいぜ、あっちで聞こう」
え?そんなテンションのやつなの?
急に真面目にならないでよカナくん!
わ、わたし全然準備でできてないけど、心の。
ついていっていいのかな…?
☆
「なるほど、それが3人共通の夢ってやつか…」
「レオは1人だけ、野望を追ってますけどね」
カナくんが監督に伝えたことは。
旅館復活の話しだ。
わたしもちょろっと言うつもりだったけど。
カナくんはガツガツいくなー。
「まぁあいつはそんな感じだな!で、何を手伝ってほしいんだ?」
「とりあえず要望を言います。できるかどうかの検討は、あとで、でいいですか?」
「ああ、かまわん」
「1つ目、J1選手の食事状況が知りたいです。献立が手に入れば分析してフィードバックします」
ふむふむ。
スマホにメモを取っておこう。
「2つ目、スポンサードの話しを知りたいです。将来的にレオには旅館の広告塔になってもらう予定ですが、契約関係に詳しい方を紹介できますか?」
…お兄ちゃんが広告塔になったら。
温泉にマーライオンとか設置しそうだ。
大丈夫かな。
「3つ目、J1の選手を細かく分析したいので、できるだけ大量にビデオが欲しいのですが、どうでしょうか?」
びでおってなんだっけ。
たぶん、動画のことかな?
「しがない4軍の監督に頼むことでもないが、まぁいいだろう。できるだけのことはやってやる。それでいいか?」
「ありがとうございます。ご恩はきっとレオが返しますから」
「まぁあいつの才能にはおれも期待してるがな!カナタくんにも!で、栞ちゃんはなにかあるのか?」
「え?えーっと…だいたいのこと、カナくんが言っちゃいましたので。なんかあるかな?」
あったかな。
話すこと。
「よし、ないなら練習に戻るぞ!」
あ、あった。
「ありました、監督」
「なんだ?」
「ぜったいに、飲み会には行きませんから。誘わないでくださいね、わたしもカナくんも」
「お、おう…わかったよ。じゃ、じゃあ戻るぞ!」
そう言って。
監督は小走りで戻っていった。
「いろいろとお世話になろうとしてるのに、強気だね栞ちゃん」
「あの地獄には、さすがにもう行きたくないから」
おじさんたちは歯止めが効かないのだ。
カナくんをそんなところに行かせたくない。
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