第6話 スンッてなる

J3スタジアムにとうちゃーく!

意図せずカナくんとデート!

嬉しい。監督には感謝しかない。

でもこれ、チケット代。


「カナくん、中高生1000円って安い?」


「水族館とか映画館くらいの値段なんだね。もっと高いと思ってた」


「J2とかJ1になったら、もっと上がるのかな?」


「うーん…あとで一緒に調べてみようか」


「うん!」


「よしよし」


水族館とか映画館もいいなぁ…

カナくんがスマホをゲットしたら、ふふふ。

いろいろ楽しみになってきちゃったな。

頭よしよしも嬉しいし!



「なんていうか、ガラガラだね…」


「人気ないのかな、プロでも。席ってどうなってるの?」


「えっと、あのへんなら、どこでもいいみたい」


スマホのチケット画面を見ながら。

ピッチの真横を指さす。


ちなみにゴール裏は500円。

ワンコかー…

収益的にはどうなんだろう?

すごいガラガラだし。

うーん、J3じゃダメそうだ。


「栞ちゃん。録画したいから、ちょっと遠めでいい?」


「いいよー。わたし、カナくんにくっついてていい?」


「いいけど。なんか久しぶりだね、そのノリ」


「えっへへー。ようやく帰ってこれた感あるね!」


「楽しそうなのはいいんだけど、転ばないようにね」


「うー…はい…」


そこまで子どもじゃないって言おうとして。

ドア、ぶつかってた。

つい昨日、やっちゃってた。

気を付けなきゃ、わたし。



「さっきレオたちの試合少しみたけど、あんまり変わらないね」


「そう?動きはなんか、キビキビっとしてる気がするよ!」


「体格とか、筋肉の付き方がね。へーそうか…動きは差があるのか…」


「ふむふむ」


普段はぽやーっとしてる感じのカナくんだけど。

こうやって真剣なときは。

ちょっと男らしくなる。

正直、好き。


わたしと話してるときと口調?も変わるし。

これがギャップ萌えってやつだ。

うんうん。


お兄ちゃんは大してかわんねぇって言うけど。

カナくんのこと雑に扱いすぎだよね。

こんなによくしてもらってるのに。

失礼だよ。


「栞ちゃん、監督にJ2も取れるか聞いてみてくれる?」


「はーい!」


ほら、こうやってどんどん先に行く。

うかうかしてると置いてかれるよ?

見捨てられても知らないから。

わたしも気を付けないとだけど。

いや、ほんとに危機感ある。

あ、


「どっちにしても来週かな。レオたちのと見比べて、修正していきたい」


「うん。いま監督からチケットきたけど、来週の土曜、13時だって!」


「早いね…ちなみにそれ、いくらなの?」


「中高生は1200円…やっぱり、安いね」


「J1まで上がらないと、選手は稼げないのか…?」


「お兄ちゃんの野望は遠そうだー」


「レオはJ1が目標なの?」


「んーん。めちゃくちゃ稼げる選手になる!が目標だってー」


「さすがレオ、アバウトだ」


「ねー、カナくんいなかったら、どうにもならないよ…」


「そうかな?案外1人でもなんとかしそうだけど」


「ぜーったいムリ!いまごろ足折ってるか、激太りしてるよ、ぜったい」


「兄の信頼度、低いね。栞ちゃん…」


「そこはほら、兄妹だから?分かり合えてますのでー」


「レオ、かわいそ…」


カナくんは、なぜかお兄ちゃんの評価が高い。

でも、わたしはそうは思わない。

カナくんがいなかったら。

そもそもサッカー続けれてないし。

そうだよ!

もっとカナくんに感謝すべきでしょ!

お兄ちゃんは。

そういえば、


「カナくん、日曜日はどうするの?」


「栞ちゃん、水族館いきたいの?」


「いいの!いくいく!やったー!」


「声が大きいよ、おさえておさえて」


「あっ、ごごごめんなさい…」


ひー周りからめっちゃ見られてる!

誘ってくれるって思わなかったら、つい。

また舞い上がってしまった…


ぺこぺこと頭を下げながら。

あれ!

土曜日がスタジアムデートで!

日曜日が水族館デート!

んー連続とか!嬉しいなー!


「栞ちゃん…拳を天に突き上げるのやめようか。すごい目立ってる」


「はっ!」


慌てて腰を下ろす。

カナくん、みなさん。

ごめんなさい…



スタジアムからの帰り道。

カナくんにひっつきながら歩く。


昔からカナくんの横には兄がいて。

ずっとブロックの被害にあっていた。

なんて意地の悪い兄。


だから、わたしの定位置はいつも背後。

カナくんの腰に腕を回して。

ズリズリ。ズーリズリ。


「栞ちゃんも大きくなったし、そろそろそれやめない?」


動きづらそうなカナくん。

でもやめない。


「腕組んだり手繋いだりすると、どこからともなくお兄ちゃん飛んでくるんだもん」


「あれはレオなりに嫉妬してたんだよ。ほら、もう結婚の許しも得たしさ。大丈夫だって」


「わー!なんかそれ、あらためて言われるの。はずかしいってー!」


結婚、っていうか!

年齢があれだから、婚約?だけど。

夢じゃないのが嬉しい!


場所を変えて、腕に抱きつく。

カナくんの、左を取る。

いい、いいよこれ。

すごく恋人っぽい!


辺りをうかがう。

…お兄ちゃんは、よし。こないな?


「…そういえば監督、チームみんなで祝福したいって言ってたよ」


「あ、そういうのは大丈夫です。いらないです」


スンッてなる。

どうせあの人たち、お酒飲みたいだけだし。

すごく臭いから、ほんとにいや。


いい匂いのするカナくんで上書きして。

はぁー…

そろそろこれからのことも考えないとね。

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