第5話 ごーごー
今日も試合があるらしいレオと。
一緒にグラウンドへ向かっている。
栞ちゃんは部屋だ。
恥ずかしすぎて死ぬ、と言って。
出てこなかった。
「これで引きこもりになったらどうする?」
「あいつがんなこと気にするか?どうせ耐え切れなくなって、すぐ出てくるって」
「そうだといいけど」
栞ちゃんも、多感なお年頃というやつだ。
これで引きこもりになったとしたら。
責任の一端はぼくにある。
帰ったらなにか手を打たないと。
「んなことよりそろそろアプデしたいな。身長上がって違和感あんだよなぁ…」
「前に計測したときから10cm?さすがに献立も見直そうか」
「ああ、頼むわ!」
「そういえばレオ、春になにかあるの?」
「春?あぁ…J3に上がれるかどうかの、選抜があんな」
「なるほど。じゃあそこを目標にアップデートしていこうか」
ぼくがこうして出向いているのは。
レオの実際の動きを録画するためだ。
☆
「カナタくん!よく来てくれたね。結婚おめでとう!それで、献立のほう、詳しく説明してもらえるのか!?」
「どうもです。そのつもりで来ました。っていうか、呼んだの監督じゃないんですか?」
レオに朝聞いたときは、そう言ってたけど。
「いやーみんなでお祝いしようと思ったんだが…栞ちゃん、引きこもってるんだって?」
「レオが言うには、すぐ出てくるそうですけど」
「ああ…ほんとだな」
監督の示す手の先。
栞ちゃんが懸命に走っていた。
ほんとだ…
ほんとにすぐ出てきたね、栞ちゃん。
☆
「考えてみたら…カナくんとの時間…ムダに…し…」
のっけから栞ちゃんは限界だった。
膝に手をついて、息も絶え絶え。
「いいから休んでなよ。先にぼく、みんなに献立の説明するから」
「う…はい…ちょっと、ベンチ…休む…」
ベンチに仰向けで横たわる栞ちゃん。
くたばりかけで、ぜいぜいしてるの。
懐かしい。
昔もこんな感じだったなぁ…
ぼくらに懸命についてきては。
よくグロッキーになっていた。
まぁ元気なのはレオだけで。
ぼくもだいたいグロッキー派だけど。
「よし!じゃあいいか?カナタくん、説明頼むぞ!」
「わかりました」
☆
集めてもらったみんなに。
栞ちゃんに説明したことを繰り返す。
「そんな感じです。さっきレオと話してて思ったんですけど、成長期の人って骨の影響か、筋肉の付き方がだいぶ変わるみたいですね?」
スポーツドクターのおじさんに聞く。
「あ、ああ…その通りだが。まさかそれも考えてメニューを?」
「いえ、今のところレオのだけ考えてます。でも、このチームにもレオ以外に2人いますよね、成長期の方。もし、違和感を感じたら、えっと…すいません、ぼくスマホ持ってないんですけど、監督」
「いまどき珍しいな?わかった、チームの備品を1つ貸し出す!使い方は栞ちゃんにでも教わってくれ」
「助かります。では、そちらに連絡もらって、個別に相談していくということで、どうですか?」
「いやぁテキパキしてて実にいいな!みんなもそれでいいか?わかんないことあったら連絡するってことで。じゃあ、散れ!」
散っていく選手たちを眺めながら。
気になってたことを聞く。
「監督、春にJ3選抜があるって聞きましたけど、ターゲットはそこですよね」
「…なんでわかったんだ?」
「レオには中学に上がるころから献立作ってるんですけど、ハッキリとした効果が出るのって、最低でも3か月はかかるんです」
「だから急いで作ってくれたのか、ありがたいな。で、3か月後は冬だから、それが明けてから、か…栞ちゃん、お前の旦那さん、えらい賢いぞ!」
腕だけあげてサムズアップ作ってるけど。
あんまりムリしないで、栞ちゃん。
☆
試合が始まってすぐ、レオが点を取った。
復活した栞ちゃんも。
横でガッツポーズを披露している。
「栞ちゃん、相手って弱いの?」
「んー同じくらい、かな?お兄ちゃん、ほんと最近調子いいから」
「へー。J3ってこれより上?レオはどうなの?」
「J3はーわたしも見たことないから…でも、ここの人たちみんな、J3目指してるのは確かだよ?」
「…見てみたいな」
「なにを?J3?」
「目標がどれくらいのレベルなのか、知っておきたい」
「わかった。かんとくー!J3ペアチケットくださーい!」
「栞ちゃん、頼みかた雑じゃない…?」
ピロンとスマホの通知が鳴る。
栞ちゃんのだ。
「ほら、監督から。おお!今日これからのチケットくれたよ!いこ!カナくん!」
「今から?行動力えぐいね」
「プロの試合もだいたい土日だから、今日を逃したら1週間後!」
「なるほど。じゃあお言葉に甘えて。いこっか、栞ちゃん」
「ごーごー!」
栞ちゃんに背中を押されながら。
一応、監督に頭を下げて。
よし、ごーごーだ。
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