第5話 ごーごー

今日も試合があるらしいレオと。

一緒にグラウンドへ向かっている。

栞ちゃんは部屋だ。

恥ずかしすぎて死ぬ、と言って。

出てこなかった。


「これで引きこもりになったらどうする?」


「あいつがんなこと気にするか?どうせ耐え切れなくなって、すぐ出てくるって」


「そうだといいけど」


栞ちゃんも、多感なお年頃というやつだ。

これで引きこもりになったとしたら。

責任の一端はぼくにある。

帰ったらなにか手を打たないと。


「んなことよりそろそろアプデしたいな。身長上がって違和感あんだよなぁ…」


「前に計測したときから10cm?さすがに献立も見直そうか」


「ああ、頼むわ!」


「そういえばレオ、春になにかあるの?」


「春?あぁ…J3に上がれるかどうかの、選抜があんな」


「なるほど。じゃあそこを目標にアップデートしていこうか」


ぼくがこうして出向いているのは。

レオの実際の動きを録画するためだ。



「カナタくん!よく来てくれたね。結婚おめでとう!それで、献立のほう、詳しく説明してもらえるのか!?」


「どうもです。そのつもりで来ました。っていうか、呼んだの監督じゃないんですか?」


レオに朝聞いたときは、そう言ってたけど。


「いやーみんなでお祝いしようと思ったんだが…栞ちゃん、引きこもってるんだって?」


「レオが言うには、すぐ出てくるそうですけど」


「ああ…ほんとだな」


監督の示す手の先。

栞ちゃんが懸命に走っていた。


ほんとだ…

ほんとにすぐ出てきたね、栞ちゃん。



「考えてみたら…カナくんとの時間…ムダに…し…」


のっけから栞ちゃんは限界だった。

膝に手をついて、息も絶え絶え。


「いいから休んでなよ。先にぼく、みんなに献立の説明するから」


「う…はい…ちょっと、ベンチ…休む…」


ベンチに仰向けで横たわる栞ちゃん。

くたばりかけで、ぜいぜいしてるの。

懐かしい。

昔もこんな感じだったなぁ…


ぼくらに懸命についてきては。

よくグロッキーになっていた。

まぁ元気なのはレオだけで。

ぼくもだいたいグロッキー派だけど。


「よし!じゃあいいか?カナタくん、説明頼むぞ!」


「わかりました」



集めてもらったみんなに。

栞ちゃんに説明したことを繰り返す。


「そんな感じです。さっきレオと話してて思ったんですけど、成長期の人って骨の影響か、筋肉の付き方がだいぶ変わるみたいですね?」


スポーツドクターのおじさんに聞く。


「あ、ああ…その通りだが。まさかそれも考えてメニューを?」


「いえ、今のところレオのだけ考えてます。でも、このチームにもレオ以外に2人いますよね、成長期の方。もし、違和感を感じたら、えっと…すいません、ぼくスマホ持ってないんですけど、監督」


「いまどき珍しいな?わかった、チームの備品を1つ貸し出す!使い方は栞ちゃんにでも教わってくれ」


「助かります。では、そちらに連絡もらって、個別に相談していくということで、どうですか?」


「いやぁテキパキしてて実にいいな!みんなもそれでいいか?わかんないことあったら連絡するってことで。じゃあ、散れ!」


散っていく選手たちを眺めながら。

気になってたことを聞く。


「監督、春にJ3選抜があるって聞きましたけど、ターゲットはそこですよね」


「…なんでわかったんだ?」


「レオには中学に上がるころから献立作ってるんですけど、ハッキリとした効果が出るのって、最低でも3か月はかかるんです」


「だから急いで作ってくれたのか、ありがたいな。で、3か月後は冬だから、それが明けてから、か…栞ちゃん、お前の旦那さん、えらい賢いぞ!」


腕だけあげてサムズアップ作ってるけど。

あんまりムリしないで、栞ちゃん。



試合が始まってすぐ、レオが点を取った。

復活した栞ちゃんも。

横でガッツポーズを披露している。


「栞ちゃん、相手って弱いの?」


「んー同じくらい、かな?お兄ちゃん、ほんと最近調子いいから」


「へー。J3ってこれより上?レオはどうなの?」


「J3はーわたしも見たことないから…でも、ここの人たちみんな、J3目指してるのは確かだよ?」


「…見てみたいな」


「なにを?J3?」


「目標がどれくらいのレベルなのか、知っておきたい」


「わかった。かんとくー!J3ペアチケットくださーい!」


「栞ちゃん、頼みかた雑じゃない…?」


ピロンとスマホの通知が鳴る。

栞ちゃんのだ。


「ほら、監督から。おお!今日これからのチケットくれたよ!いこ!カナくん!」


「今から?行動力えぐいね」


「プロの試合もだいたい土日だから、今日を逃したら1週間後!」


「なるほど。じゃあお言葉に甘えて。いこっか、栞ちゃん」


「ごーごー!」


栞ちゃんに背中を押されながら。

一応、監督に頭を下げて。

よし、ごーごーだ。

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