第4話 おやすみなさい

カナくんにダメダメなとこ見せて。

自分の部屋に引きこもった。

兄のノックもムシしたのに。

監督からの通話が鳴りやまない!


そーだよねー…

カナくんの写真。

何十枚ってアップされてるんだもん。

そりゃビックリするよね…

はぁ…しかたない。


「監督ー…わたしいま傷ついてるんです。そっとしといてください」


『その件は大丈夫だ!レオがちゃんと誤解を解いて帰ったからな』


「兄が…?」


珍しいこともあるものだ。

猪突猛進のフォワードタイプな兄が。

そんな気を、回す…?


『カナタくんが好きすぎてヤバイんだろう?だから許してやってくれと言ってたぞ!』


「…」


なにを、してくれちゃってるの!

あのバカ兄が…!


『まぁカナタくんを前にしたときのあの乙女な感じを見れば、誰でも気づく。だから気にするな!それより、献立の件だ!』


「乙女な感じ?…してた?わたし。してました…?」


『してたしてた。それより献立の件だ。すごいぞあれは!よくたった数時間であれだけのものを作れたな?しかも全員分!カナタくんは天才なのか?』


「それは…天才、ですけど…ちょっと、いいですか?それより、乙女のほうが…問題、でして…」


『なにも問題ないじゃないか。レオは出会った当初から、栞ちゃんが好き好きオーラだしてたって言ってたぞ?つまり、そのときからずっと乙女してたってことだろう。いまさらだ!で、献立の件なんだが』


「おやすみなさい」


スマホの電源をオフにする。


ふー…

どうしよ。

どうしよ!?



しばらくゴロゴロしたけど。

何も、思いつきませんでした。


思えば、どうせ面倒をこれから頼むんだし。

乙女しててもしてなくても。

あんまり関係ない気がしてきた。


そうだよ!

そうに違いない。

だからこの勢いのまま。

カナくんの部屋をノックする。


「どうぞー」


「おじゃまします…カナくん、面倒のことだけど」


ドアを閉めて、切り出す。

緊張する前に、言い切ってしまおう。


「将来、この旅館を復活させるときに、大旦那になって欲しいの」


「いいけど、それが面倒だったの?」


「えっ?」


「え?」


あれ…?

なんか、軽くない…?

ちゃんと伝わってる?

大丈夫?


「その…カナくんが大旦那で、わたしが女将で、つまり、その。将来、ふ、夫婦になる、ってこと、なんだけど…」


や、やばい。

意識したら、頭が。

へんになりそう…


「ああ、そういうことか…栞ちゃん」


「な、なん、ですか…?」


「旅館のトップって1人なんだよ。大旦那か、女将、どっちかしかなれない」


「…?!」


そうなの!?

えっと…スマホ…ない!

あぁ、電源切ったまま置いてきちゃった!


「検索しなくても、そうだよ。それで、面倒っていうのは、大旦那のことでいいの?栞ちゃんは女将やらなくて」


「お、女将はわたしが…やる…やらないと…だから」


だって、これはお母さんとの約束だし。

どっちかしかなれないなら、わたし。

わたしがやらないとだから…


「本当のお願いごとは、夫婦のほう?」


「本当の…お願いごと…?」


「栞ちゃんがいいなら、ぼくもいいよ。ありがとう、これからよろしくね」


「え?えっと、え…はい…よろしく?おねがい、します…」


「今日はもう遅いし休んだら?ずっと酷い顔してたし」


「あ、うん…休み、ます。休む。おやすみなさい…」



…えっ!?

あれ?わたしの部屋!?

帰ってきてる。

あれ?さっき、まさか。

なんか、受け入れてもらえた?

すごくさらっとしてたけど、いけた?


えー…

か、確認するのこわっ!

明日になったら、なんのこと?

とか言われそうでこわっ!


もー…カナくんテンションが!

いつも通り過ぎてわかんないよ!

でもいつでもあんな感じだ!

すごいなーカナくん…

結婚、の話しなのに…


ふ、不安だ。

不安になってきた。

なんかいろいろ…

聞き間違いとか?あったかもしれないし。

そうだ。

お兄ちゃんに確認させよう。

今日されたことを考えたら。

これぐらい許されない?


いや、でもそれもわたしのミスからだ…

うー…カナくん…

どうして結婚してくれるの?

わたしこんなポンコツなのに…



もんもんとしてたら寝てた。

みたい。

気づいたら、朝で。

スマホの電源を入れたら。

兄からのメッセージ。


祝とクラッカーの絵文字、だけ。


もー!雑!雑だよ!お兄ちゃん!

ちゃんと文字にして!

妹の不安とか、わからないの!


スマホを放り投げようとして気づく。

通知が…凄いことになってる?

そのどれもが。

おめでとうとか、祝っぽい絵文字で。

サッカーの、グループから…


「なんでそうやってすぐバラすの!お兄ちゃん!!」

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