第3話 むいてないよ
家に戻り、手早くご飯を終え。
タブレットを向けられながら考える。
4週間、1か月以内に欲しいってことは。
今が9月、10月から改善を始めて…
冬休みを挟んで、半年後の春あたり。
そこに、成果を披露する場があるのかな。
効果が出るまでには時間がかかるし。
早めにやったほうがいいだろう。
それより、
「栞ちゃん、なんか楽しそうだね」
「えっ?そそそそそんなことないよ?はーい、顔ぐりぐりしてー。顔ぐりぐりー」
「ぐりぐりするとどうなるの?」
「えっと、なんか、いろんな角度から撮らないと、ロック解除できないみたいで…」
「じゃあ、さっきまでのはなんだったの?ぐりぐりしなかったけど」
「…そ、それはほら。正面も大事だから!すごく!大事で!正面だから!」
「そうなんだ」
栞ちゃん。
スマホとかにうといぼくでも。
さすがに、撮影音は知ってるから。
すごい連射してたのも。
いま、それが鳴ってないのも。
ごまかすの、へただなぁ…
☆
選手それぞれのデータを見る。
年齢、身長、体重、筋肉量、能力。
抱えてるケガに…味の好き嫌い。
「これを、成長が終わってるかどうかでまず分けて」
「ふむふむ」
「筋肉は付きやすい、付きにくいがあるから、能力と比較しながら、栄養成分を割り振る」
「…ふむふむ」
「体重も見ながらね。成長期の人は、カロリー的なの多めでもいいから、成長を助長させる配分で」
「…ふむ」
「ケガ持ちの人は、その部位の筋肉量と回復力を上げる構成がいいかな」
「…よかったー、適当にやらなくて。こんな複雑なのわたしムリ!」
「あはは。ぼくだって、これが合ってるかわからないよ。レオのために色々調べたけど、他の人にも合うのかは」
「ダメでも監督のせいにしよ?カナくん悪くないし」
「んーそのへんは経過を見ながらだね。さあ、できた。これがベースの4グループだ」
選手は全部で14名。
成長終わりのケガあり、なし。
成長期のケガあり、なし。
「は、はやい…でもこれ、なんで紙に書いてるの?」
「文字の打ち方、わからないから」
タブレットをタンタンしながら答える。
レオの献立も、元は紙だし。
「あーそうだった、ね…カナくん、それも今度教えようか?」
「撮った写真を見る方法、先に知りたいかな?」
「…いじわるいう」
「あはは。今教えてほしいのは、サッカーのポジションごとの役割なんだけど、いい?」
「…いいけど、何に必要なの?」
「役割によって、こなす運動が違うよね、たぶん。だから、必要な筋肉の…特に育てたい部位も、変わってくるんじゃないかって」
「カナくん、天才なの?」
「いやいや、レオが前に言ってたんだ。おれフォワードだからシュート力と瞬発力あげてえ、って。他のポジションだと、違うってことでしょ?」
「はー…すごー…」
そう言って。
栞ちゃんは遠くへ行ってしまった。
目の前で手を振っても反応がない。
これは、寝た…のか?
目は空いてるけど。
しかたないな。
ヨダレがこぼれだす前に。
目の覚めるハーブティーでも淹れてこよう。
☆
「よし、とりあえずこれでいいかな」
復帰した栞ちゃんからの情報をまとめて。
最後に好き嫌いから、献立を当て直した。
選手1人1人に、1週間分の献立。
レオに作ったのと、同じものだ。
「カナくん、おつかれさま!まさか1日で終わっちゃうなんて」
「栞ちゃんのヘルプもあったから。助かったよ」
「もーカナくん…嬉しいからやめて」
「素直なのかそうじゃないのか…」
「ふふん、カナくん。わたしミステリアス目指してるから」
「むいてないよ」
栞ちゃんは、さっきので言うと。
猪突猛進のフォワードタイプだ。
魅力は、ミステリアスとかじゃない。
純粋で、まっすぐなところ。
「ど、どこがっ?」
「カナくん、って言いすぎなところとか」
たぶん、ひさびさで嬉しくて。
つい名前を連呼しちゃうのかな?
わかるわかる。
「えっ?そんなに言ってた?…ほんとに?」
「さ、それ。タブレットで撮って。監督たちと共有するんでしょ」
「あ、うん。共有…共有!しまった!」
「どうしたの?」
慌ててタブレットをシャッシャしてるけど。
まだ写真、撮ってないよね?
「カナくんの写真…共有…やばい!みんなにダウンロードされてる!」
「やっぱり撮ってたんだ。ぼくの写真」
がっくりとうなだれる栞ちゃんが。
めそめそとこっちに向かってくる。
「うぅ…カナくん…ごめんーなぐさめてぇ…」
「はいはい」
「うぅー…ごめんなさいぃ…」
くっついてくる栞ちゃんを抱えて。
背中を優しくさすってあげる。
最近はめっきりなかったけど。
昔はよくこうしていた。
親がいないって、やっぱり寂しいから。
栞ちゃんにとって。
レオやぼくは、兄であり、親みたいなものだ。
それにしても、
「ぼくを盗撮した画像を自分のミスでバラまいたのに、ぼくに慰められるっておもしろいね」
「いじわるしないでー…」
「あはは」
でも最近は栞ちゃんも大人っぽくなった。
そろそろ気を付けてもらいたいな。
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