第2話 やっちゃったー

大人たちに囲まれてるカナくん―—

カナタくんは、わたしたち兄妹の、恩人だ。


兄がサッカー続けられてるのもそうだし。

わたしの夢も、ずっと応援してくれてる。


お家では料理とか、ううん。

もはや家事全般やってくれてて…

これ以上、迷惑かけたくなかったのに。


のに!

ついに、バレちゃった。

わたしのミス…バカ。

お弁当、忘れるとか。

あー…やっちゃったー…



監督やコーチたちの説明が終わる。

カナくんはずっと、ふーんて顔だった。

それはそうだよ。

わたし、なんの説明もしてないし…


「なるほど、そんなことになってたんですね」


「ああ!おかげでこっちは大助かりなんだが…聞いてなかったのか?」


「栞ちゃんも乙女ですから。秘密の1つや2つありますよ」


「そ、そうだな…そうか?」


カナくんは、わたしにすっごく甘い。

いつでも、どんなときでも、かばってくれる。

でも、


「乙女は関係ないの。ほんと、迷惑かけたくなかっただけ…カナくん、ごめんね」


「そのままの口調でいてくれるなら、いいよ。敬語、気になってたし」


「え?そ、そうなの…?あ、ありがと…」


敬語…?

いつからだっけ?

お兄ちゃんが。

高校入ってモテだしてから?


いつも通りに接してたら…

周りから白い目で見られて。

それまでベッタリくっついてたカナくんにも。

くっつけなくなっちゃって。


いやいやいや!

いま、じゃない!

それはあと、あとでいい。


「だからずっと眠そうだったの?言ってくれたらよかったのに」


「…これ以上、負担かけるわけには、って思って…」


「選手全員を1人で見るのは厳しいよ。ぼくも手伝うから」


「うー…ありがとーカナくん…」


兄用の週間サッカー献立。

カナくん独自の栄養学配合。

兄の好み、成長度合い、筋肉量を元に。

なんかすごく考えられたメニュー。

らしい。

わたしには、よくわからない。


それを兄が自慢げにみせびらかしたせいで。

チーム内で大人気になってしまった。

今ではわたしが全員の取りまとめをしてる。

よくわからないのに。

取りまとめてる。


これもお兄ちゃんが活躍するから。

急に成長するから悪いんだ。

ねー、カナくん。


「いやぁ、伝説のカナタくんの助力を得られるとは!これはうちのチームも楽しみになってきたな!」


「伝説でもなんでもないですけど。だってぼく、一般人ですよ」


「レオを見てくれ!今日も2ゴールの活躍だ!それにチーム全員のスタッツも上がってる。データはウソをつかない…わかるだろ?カナタくん」


「わかりません。とりあえず、そのデータってやつ見てもいいですか?」


「ああ!栞ちゃん、タブレットを彼に!」


「はぁ…カナくん、見かた教えるから、そっちのベンチいこ」


さっきまで座ってたベンチを指さして。

同時に、歓声。

グラウンドを見れば。

お兄ちゃんが跳んでる。

あ、入る。


「おお!レオがまた決めたぞ!ナイスヘッド!!」


「レオ、これで3点取ったの?」


「そうだ!ハットトリックだ!おーいレオ!やったな!」


監督がグラウンドに駆けていく。

カナくんがじーっとこっちを見てる。

…3点、入っちゃった。


「…どんな面倒を頼まれるの?」


「…あとで話すね」


こんな場所じゃ、とても言えないし。

とりあえずお兄ちゃん。

ナイスゴール。



「なるほど。面倒なのは、みんなの好みがバラバラってとこか」


タブレットを見終えたカナくんが結論を出す。

そう。


「そーなの!そんなに細かくできないーって言ってるのに、みんな聞いてくれなくて。大人なのにワガママばっかりなんだよー…」


あれやだ、これやだって。

わたしが料理作るわけじゃないのに。

みんな注文、多すぎだよ…


「そういえば、あの人たち…高校生じゃないよね?レオ、なんでここにいるの?」


「…お兄ちゃんから、聞いてないの?」


「変わらずサッカーやってるのは知ってたけど。フツーに高校の部活じゃないの?」


話してなかったのお兄ちゃん…

そんな大事なこと。

しかもカナくんに。

…そういえば、


「前に聞かれたけどわたし。カナくんの高校のサッカー部なんて知らないよ?」


「そういうことか。じゃああの人たちは?」


「えっと、わかりやすく言うと、プロの予備とか、なりかけ、卵、みたいな?」


「へー。それって高校サッカーより上ってこと?」


「うん!こういうとこで結果を出し続けたら、そのうちJリーグのトップに出れるんだよ!」


「…これ、いつまでに作ればいいの?」


「いつまで…どうかな?かんとくー!これいつまでですかー!」


タブレットを掲げながら聞く。

遠くの方で、監督の手が上がった。


「あれは、4…?4日?」


「さすがに4日はないと思うよ、カナくん。4か月は長いから…4週間?」


「栞ちゃん、ぼく帰るね」


「えっ、帰っちゃうのカナくん…」


せっかくの一緒の時間なのに…


「これ、借りてっていい?早めに作ったほうが良さそうだから」


備品のタブレット…?

そうだ!


「かんとくー!かえりまーす!」


「え、いいの?」


「うん!だって終わってからだと、みんなに囲まれそうだし」


「あはは、そうかもね」


「それに、これのロック。わたしと監督の顔認証でしか開かないから」


「そうなんだ?」


「あとで、カナくんのも設定しよ!やってあげるね」


スマホすら持ってないカナくんは。

とにかく機械にうとい。

これを口実に、こっそり顔写真もゲットしよう。


「よろしくね。ぼくお昼持ってきてないから助かったよ」


「あー…ごめんね、お弁当」


「?家に帰ればお昼あるから、一緒に食べようか」


「うん!」


タブレットとお弁当を持っていざ!


「待って待って。お兄ちゃん観戦グッズ忘れてる」


「…ごめんなさい」


おっちょこちょいで。

ちょっと舞い上がってしまいました。


ていうか、お兄ちゃん観戦グッズ?

いつからこのバッグにそんな名前が…?

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