第2話 やっちゃったー
大人たちに囲まれてるカナくん―—
カナタくんは、わたしたち兄妹の、恩人だ。
兄がサッカー続けられてるのもそうだし。
わたしの夢も、ずっと応援してくれてる。
お家では料理とか、ううん。
もはや家事全般やってくれてて…
これ以上、迷惑かけたくなかったのに。
のに!
ついに、バレちゃった。
わたしのミス…バカ。
お弁当、忘れるとか。
あー…やっちゃったー…
☆
監督やコーチたちの説明が終わる。
カナくんはずっと、ふーんて顔だった。
それはそうだよ。
わたし、なんの説明もしてないし…
「なるほど、そんなことになってたんですね」
「ああ!おかげでこっちは大助かりなんだが…聞いてなかったのか?」
「栞ちゃんも乙女ですから。秘密の1つや2つありますよ」
「そ、そうだな…そうか?」
カナくんは、わたしにすっごく甘い。
いつでも、どんなときでも、かばってくれる。
でも、
「乙女は関係ないの。ほんと、迷惑かけたくなかっただけ…カナくん、ごめんね」
「そのままの口調でいてくれるなら、いいよ。敬語、気になってたし」
「え?そ、そうなの…?あ、ありがと…」
敬語…?
いつからだっけ?
お兄ちゃんが。
高校入ってモテだしてから?
いつも通りに接してたら…
周りから白い目で見られて。
それまでベッタリくっついてたカナくんにも。
くっつけなくなっちゃって。
いやいやいや!
いま、じゃない!
それはあと、あとでいい。
「だからずっと眠そうだったの?言ってくれたらよかったのに」
「…これ以上、負担かけるわけには、って思って…」
「選手全員を1人で見るのは厳しいよ。ぼくも手伝うから」
「うー…ありがとーカナくん…」
兄用の週間サッカー献立。
カナくん独自の栄養学配合。
兄の好み、成長度合い、筋肉量を元に。
なんかすごく考えられたメニュー。
らしい。
わたしには、よくわからない。
それを兄が自慢げにみせびらかしたせいで。
チーム内で大人気になってしまった。
今ではわたしが全員の取りまとめをしてる。
よくわからないのに。
取りまとめてる。
これもお兄ちゃんが活躍するから。
急に成長するから悪いんだ。
ねー、カナくん。
「いやぁ、伝説のカナタくんの助力を得られるとは!これはうちのチームも楽しみになってきたな!」
「伝説でもなんでもないですけど。だってぼく、一般人ですよ」
「レオを見てくれ!今日も2ゴールの活躍だ!それにチーム全員のスタッツも上がってる。データはウソをつかない…わかるだろ?カナタくん」
「わかりません。とりあえず、そのデータってやつ見てもいいですか?」
「ああ!栞ちゃん、タブレットを彼に!」
「はぁ…カナくん、見かた教えるから、そっちのベンチいこ」
さっきまで座ってたベンチを指さして。
同時に、歓声。
グラウンドを見れば。
お兄ちゃんが跳んでる。
あ、入る。
「おお!レオがまた決めたぞ!ナイスヘッド!!」
「レオ、これで3点取ったの?」
「そうだ!ハットトリックだ!おーいレオ!やったな!」
監督がグラウンドに駆けていく。
カナくんがじーっとこっちを見てる。
…3点、入っちゃった。
「…どんな面倒を頼まれるの?」
「…あとで話すね」
こんな場所じゃ、とても言えないし。
とりあえずお兄ちゃん。
ナイスゴール。
☆
「なるほど。面倒なのは、みんなの好みがバラバラってとこか」
タブレットを見終えたカナくんが結論を出す。
そう。
「そーなの!そんなに細かくできないーって言ってるのに、みんな聞いてくれなくて。大人なのにワガママばっかりなんだよー…」
あれやだ、これやだって。
わたしが料理作るわけじゃないのに。
みんな注文、多すぎだよ…
「そういえば、あの人たち…高校生じゃないよね?レオ、なんでここにいるの?」
「…お兄ちゃんから、聞いてないの?」
「変わらずサッカーやってるのは知ってたけど。フツーに高校の部活じゃないの?」
話してなかったのお兄ちゃん…
そんな大事なこと。
しかもカナくんに。
…そういえば、
「前に聞かれたけどわたし。カナくんの高校のサッカー部なんて知らないよ?」
「そういうことか。じゃああの人たちは?」
「えっと、わかりやすく言うと、プロの予備とか、なりかけ、卵、みたいな?」
「へー。それって高校サッカーより上ってこと?」
「うん!こういうとこで結果を出し続けたら、そのうちJリーグのトップに出れるんだよ!」
「…これ、いつまでに作ればいいの?」
「いつまで…どうかな?かんとくー!これいつまでですかー!」
タブレットを掲げながら聞く。
遠くの方で、監督の手が上がった。
「あれは、4…?4日?」
「さすがに4日はないと思うよ、カナくん。4か月は長いから…4週間?」
「栞ちゃん、ぼく帰るね」
「えっ、帰っちゃうのカナくん…」
せっかくの一緒の時間なのに…
「これ、借りてっていい?早めに作ったほうが良さそうだから」
備品のタブレット…?
そうだ!
「かんとくー!かえりまーす!」
「え、いいの?」
「うん!だって終わってからだと、みんなに囲まれそうだし」
「あはは、そうかもね」
「それに、これのロック。わたしと監督の顔認証でしか開かないから」
「そうなんだ?」
「あとで、カナくんのも設定しよ!やってあげるね」
スマホすら持ってないカナくんは。
とにかく機械にうとい。
これを口実に、こっそり顔写真もゲットしよう。
「よろしくね。ぼくお昼持ってきてないから助かったよ」
「あー…ごめんね、お弁当」
「?家に帰ればお昼あるから、一緒に食べようか」
「うん!」
タブレットとお弁当を持っていざ!
「待って待って。お兄ちゃん観戦グッズ忘れてる」
「…ごめんなさい」
おっちょこちょいで。
ちょっと舞い上がってしまいました。
ていうか、お兄ちゃん観戦グッズ?
いつからこのバッグにそんな名前が…?
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