第6話 遂にきた!お相手は御曹司イケメンドクター

 結婚相談所フィアンセの支部から、希望の高スぺ男性への申し込みにOKの返事があったと連絡が入り、私は喜び勇んで向かった。


「伊藤様、さすがです。申し込んだ中から、1件マッチングOKのお返事がありました。これだけ高スペックだと、競争率は100倍以上。よほどの女性でないとOKされません!」


 支部に入るなり、女性カウンセラーの長谷川さんが、10件申し込んだ中から1件、OKの返事があったと説明する。


「は?本当に1件ですか?」


 私は、思わず聞き返す。

 最低でも5件以上はOKが貰えると思っていたのだ。

 なんなら8割はOKだと思っていた。

 マッチングアプリなら、同程度の男性に申し込めば、それくらいは会ってくれる。

 詐欺や詐称も多いけど。


「1件でもOKの返事があるのは、凄い事ですよ」


 長谷川さんは、そう言う。


「そんなの納得出来ない。こんなに若くて美人の私が、なんで9割もフラれるんですか?今まで、そんな事は経験した事ないわ!」


 私は、半泣きで言った。

 こんなに屈辱的な事は、初めてだ。


「は?あなたが、高スぺ男性と釣り合わないからに決まってるでしょ」


 通りかかった涼助が、そうつっこみを入れてきた。


「はあ?あなた、いちいち失礼よ!私は、高校、短大といつも男子に追いかけまわされていた。今だってマッチングアプリじゃ選び放題!つまり、私は超高スペック女子なの!」


 私は、そう主張する。


「そんなの、見た目しか見てないヤリモクばっかりでしょ。伊藤さん、あなた高スペックの婚活女性をどう考えてるんですか?」


 涼助が呆れて言った。


「まず女は美しさ!私は充分美容に投資してるわ。エステにヘアトリートメントサロン。ジムにも当然通っている。おかげでスタイルは学生の時のまま。10代と間違われる肌を保ってる。つまり実質10代よ!」


 私は、自信満々で答える。


「アラサーが、何言ってるんですが、見た目の年齢聞かれたら、誰でも失礼が無いように若く言うでしょ。僕には、歳なりにしか見えませんよ」


 涼助が、全否定する。


「そして何より専業主婦になれる事。自分の全てを旦那様の為に捧げる準備が出来てるわ。家事を全部こなし、旦那様に癒しを与えます。そして、家のお金を全て管理して、旦那様にお金の心配はさせません。贅沢はせず貯金して、旦那様には見合ったお小遣いを用意出来ます。そして、おばさんは駄目だけど、29歳という人生経験も充分積んだ結婚適齢期も魅力なはず。若すぎるのは駄目ね」


 私は、自分の考える理想の主婦像を話した。


「全部意味が無い。今は男性も家事が出来て当たり前なんですよ。自立していて、家計はそれぞれ管理する女性が好まれます。何で年収1000万越えの男が、お小遣い制にされるんですか。そして、結婚する男性が女性に求める最大の価値は若い事。子供を作るのが結婚の最大の目的だからです。そうじゃなきゃ、恋人のままで充分なんですよ。誰がリスクの高い高齢出産の女性を貰いたがりますか?」


 涼助は、そう言って全て否定する。


「あなた、何も分かってないわね。さては独身でしょ!だから、そんな事言うんだわ」


 私は、怒った。


「いいえ既婚です。うちのカウンセラーは全員既婚と決まってるんですよ。結婚の為のサポートをするんですから、当然ですよ。そして、僕が担当すると成婚率が高いと評判なんです」


 涼助は、そう答える。


「うううう」


 私は涙目になった。

 こいつもワンチャン、私が好きだから突っかかってくるのかと思ってた。

 こういうタイプは、気になる女子にきつい事を言うでしょ。

 ちょっと、いい男だから気になってたのに。

 なんだよ、既婚かよ!

 単に失礼なだけだったのか。


「もう、やめなさい涼助君。伊藤さんは29歳。結婚相談所の中では、まだまだ若いわ。充分、高スぺ男性を狙えます。ただ、もうすぐ30代。そうなれば、人気は大きく落ちます。今が頑張り時ですよ!」


 長谷川さんが、私達の喧嘩を止めに入る。

 私の頭の中に、香織ちゃんと美奈ちゃんの事が浮かぶ。

 だから、二人共急いでたのか。


 実質10代の私なら、まだまだ余裕と思ってた。


「そういう男性は、大抵もっと若くて可愛い子が持っていきますけどね。最近の子は、高スぺなら年齢差も気にしない、分かってる子が増えましたし。少し条件を下げれば、まだまだ良縁が狙えるのに勿体ない」


 涼助が、そう言った。

 ふん!誰が妥協するもんですか。

 私に釣り合う男じゃなきゃ駄目なんだから。


「とにかく、面談室で詳しいお相手の話をしましょう」


 長谷川さんは、私を面談室へ連れていった。




「今回マッチングした方は、33歳、身長180cm、有名私立大学医学部卒業。年収1200万、お父様の病院と大学病院を掛け持ちで働いておいでです。お父様の病院は個人病院ですが、一応は御曹司ドクターですね。このくらいの方が、気を使わず生活出来て人気があります」


 長谷川さんが、説明する。

 私が選んだだけあって、結婚に丁度いい相手だ。

 ルックスもイケメンで優しそうで、私に充分釣り合う。


「希望は家庭的な方だそうで、家事手伝い、元保育士の伊藤様にピッタリのお相手かと」


 長谷川さんの説明を聞いて、私はやる気が出てきた。


「今度こそ、失敗しないように頑張ります!」


 私は、小さくガッツポーズをする。




「伊藤さんですか?佐々木です。よろしく」


 ピンクのセットアップを着て、いつものホテルの喫茶店で待っていた私に、お相手のドクターが声を掛けてきた。

 顔は思ったよりは、少し落ちるかな。

 でも、充分かっこよくて、優しそうな笑みを浮かべている。


「はい、伊藤です。よろしくお願いします」


 私は、普段から3オクターブくらい高い声で返事をした。

 今までの経験を活かして、何としても彼をゲットしないと!


「伊藤さんの、ご趣味は?」


 ドクターの佐々木さんが、定番の趣味の話から始める。


「お料理を少々、特にお菓子作りが得意です。後は、学生時代にテニスサークルに入ってまして、今でもたまに」


 お料理なんて、ちっともしていない。

 直人と別れてから、テニスも嫌になってしまった。

 しかし、いい印象を与える為には嘘も必要だ。


「そうなんですか。実は、僕も料理が結構好きなんです。大学時代は一人暮らしをしておりまして。それに、大学時代にテニスサークルだったのも同じですね」


 佐々木さんが、優しい笑顔で答える。

 よしっ!共通の趣味きたー!

 私達は、共通の趣味の話で盛り上がった。


「じゃあ、最寄り駅まで車で送りますよ。着くまで、お話ししたいですね。よろしいですか?」


 2時間ほど話し込んで、彼がそう言った。


「ええ、よろこんで」


 私は満面の笑みで答える。

 何なら自宅まできて、私の両親に挨拶してもらってもいいわ!

 でも、いきなりそれを言うのは、まずいわよね。




 ホテルの駐車場に二人で降りる。

 そこに置かれていた彼の車は、高級外車だった。

 うちの両親も同じメーカーの車に乗っている。

 しかし、目の前にあったのは、それより上の一番いいグレードのモデルだった。


 きゃあ、素敵!

 直人も親に買ってもらった高級車に乗っていたが、ずっと安物だった。


「どうぞ」


 彼が助手席側のドアを開けてくれる。

 紳士的!


 車に乗り込むと、シートがまるでソファーだ。

 同じメーカーなのに、うちの車と全然違う。

 ドアを閉めると恐ろしく静かで、スピーカーから綺麗な音でクラシックが流れ、心地よい感覚で全身が包まれる。

 これが、最高グレードの高級外車なの?


 走り出しても、車が大きいせいか、ほとんど揺れない。

 私は、最高の気分で、彼との会話を楽しんだ。




「はあああ、佐々木さん素敵。やっと運命の人に巡り合ったわ」


 私は、車を降りてから自宅に向かって歩きながら呟いた。

 もちろん、すぐに長谷川さんに交際OKの申し込みをする。

 彼が私を気にいってくれるか心配だが、今日は失敗は無かったはず。

 話しも、とても楽しかった。


 私は、ひさしぶりに恋する気分を楽しんでいた。

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