第4話 始めての見合い申し込み

婚活パーティー後、その足で私は通っている結婚相談所支部へ向かった。

 すぐに、横井さんに見合いを申し込みたかったのだ。

 手ごたえは充分、最後に自然な上にインパクトのあるボディタッチも残してきた。

 マッチングアプリでは、ここまでやればみんな私に夢中になった。


「あら?申し込みは1人で良かったのかしら。複数人申し込めますよ」


 支部の面談室で、女性カウンセラーの長谷川さんが首をかしげる。


「いいえ、横井さん一択でお願いします。他に魅力的な男性もいませんでしたし、かなり手ごたえを感じましたので大丈夫です。きっとマッチング出来ると思います!」


 私は、自信満々で言う。


「そうですか、では大丈夫ですね。早速、申し込みましょう」


 長谷川さんは、明るい笑顔で了承してくれた。




 数日後、私は返事が早く知りたくて、連絡も無いのに支部へ行った。

 面談室で、結果を聞く。


「で、どうでした結果は?」


 私は、前のめりになりつつ長谷川さんに聞いた。


「残念ですがマッチングしませんでした」


 長谷川さんから、出た言葉は予想外だった。


「ええええ」


 私は、体から力が抜けるのを感じた。


「でも、まだまだ良縁はございますので、めげずに申し込みましょう!伊藤様のニーズに合った方をリストアップしますね」


 長谷川さんは、さっと流して次の話を始める。


「はああああ」


 私は、立ち直れず、大きく息を吐いた。


「ちょっと、いいですか?長谷川さん、こういう迷惑な会員には、はっきり言った方がいいですよ」


 面談室のドアを開け、最初に会った涼助という若い男性カウンセラーが中に入ってくる。


「何ですって!?」


 私は、怒りながら振り向く。


「横井さんが断った理由は、変な女性会員にベタベタ触られて不快、ああいう会員はパーティーに参加させないでほしい。僕も家事くらいは出来る。家事をあんなに自慢する意味が分からない。無職なのに高価なブランド品ばかり身に付けていて金使いが不安。まだ、ありますけど、聞きますか?」


 涼助が、持っていた紙を読み上げる。


「ちょっと涼助君!会員様に、お断りの理由を全部伝える必要はないのよ。言わない方がいい事もあるの!」


 長谷川さんが、涼助に怒った。


「こういう迷惑な人には、言った方がいいんですよ。でないと、この人、パーティー出禁になります。本人の為ですよ」


 涼助は、冷たく言い放つ。


「ううう」


 言い返せず顔が真っ赤になる。

 この私が、痴女みたいに思われたって事?

 10代にも見えるって言われる美人でスタイル抜群の私が抱きついたら、普通は喜ぶでしょ。

 あの横井って男、よっぽどの堅物なんじゃないの?


「それに、女性会員からも苦情が出ています。人気の男性会員に抱きついて、アピールが下品。話に強引に割り込まれて不快だった、などなど。大人なのに、よくこんな真似が出来ますね。結婚相談所は、マッチングアプリじゃないんですよ。真面目に結婚相手を探す場所です。色目を使ってどうこうする場所じゃない」


 涼助は、そう続ける。


「ちょっと涼助君!それ以上言ったら許しませんよ。出ていきなさい!」


 長谷川さんが、初めて大きな声で涼助を叱った。


「うす…」


 涼助は、軽く頭を下げると出ていった。


「すいません…」


 私は、頭を下げたまま謝る。


「気にしないで下さいね。お見合いは慣れですから。誰でも最初は、やらかすものだって言ったでしょう。次は、頑張りましょうね」


 長谷川さんは、笑顔で慰めてくれた。


「そういえば、男性から申し込みがあったんですよ。さすが伊藤様、高収入のイケメンですよ!身長175cm、体重68kg、海外の有名大学卒業。年収800万、IT系のエンジニアです。少し、伊藤さんの条件には届きませんが、充分良縁かと思います。年収も、まだまだ伸びる方です。一度、この方で経験を積まれては?」


 長谷川さんは、キーボードを叩き、その男性の顔とプロフィールを表示させる。

 確かに、結構イケメンだ。

 俳優とは言わないが、イケメン芸人くらいのルックスはある。

 身長は足りないが、年収の将来性はありそうだ。


「分かりました、この方とお会いします」


 確かに何事も経験だ。

 まずは、お見合いしてみないと始まらない。

 私は、OKした。




 お見合い当日、私は気合いを入れて振袖を着る。

 両親に買ってもらった300万の着物。

 美しい私の和装を見れば、男性はイチコロのはずだ。


「はじめまして」


 約束していたホテルの喫茶店で、席に座っている見合い相手を見つけ、挨拶する。

 すると、途端に見合い相手の男性の顔が、ひきつりだす。


「あ、あの、横の方はどなたで?」


 見合い相手は、そう言った。


「父です。お見合いと言えば、まず父にどんな方か見て貰わないと。若い者同士の話は、それからで」


 私は、笑顔で答える。

 横には、スーツ姿のお父さんが立っていた。


「帰らせて頂きます!」


 見合い相手の男性は、伝票を持つと、足早に去ってしまった。


「なんだ、直前で逃げ出すとは気の小さい奴だな。あんな男はやめておきなさい和美」


 お父さんは、そう言った。


「そうね、あんなんじゃ駄目だわ」


 私も、同意する。




 次の日、私は支部に呼び出された。


「駄目じゃないですか、お見合いに別の人を連れてきちゃ!規約違反ですよ。読まなかったんですか?」


 長谷川さんが、初めて私に文句を言った。


「でも、最初の見合いは両親や仲人さんが同席するのが常識でしょう?」


 私は、反論する。


「いつの話ですか。今時、そんな見合いは結婚相談所ではやりません。今度からは、必ず1人で行って下さいね。そうじゃないと、退会処分になります」


 長谷川さんは、そう言って念を押す。


「はい。そういうところはマッチングアプリと一緒なんですね。あの涼助って人が、硬い事言うから…」


 私は、言い訳しながら渋々了承した。


「後、着物はお勧めしません。顔合わせの後、意気投合すれば、そのままデートしていただいて構いませんので、動きにくい恰好はやめた方がいいです」


 長谷川さんが、続けて言う。


「それは、いきなり、そういう事になったりする場合もあるって事ですか?着物を自分で着直せませんし」


 私は、そう聞き返す。


「駄目です!成婚退会まで、肉体関係は一切禁止。破れば退会処分の上、その時点で成婚料と違約金をいただきます!」


 長谷川さんは、絶対駄目だと言った。


 温厚な長谷川さんを怒らせてしまった。

 これからは気をつけよう。

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