第2話 年収500万が高収入ですって?

 後日、私は父に費用を払ってもらい、結婚相談所フィアンセに入会した。

 業界中堅で、カウンセラーの手厚いサポートと、婚活パーティーやサークル活動など、お見合い以外の出会いも用意されているのが売りの結婚相談所だった。


「さて、いよいよ婚活開始ですね!20代は貴重な武器。伊藤さんは29歳なので今が勝負です。はりきっていきましょう」


 女性カウンセラーの長谷川さんが、私を元気づける。

 なんか、パワー貰えるな、この人。


「はい!では、さっそく年収1200万円以上のイケメンとのマッチングお願いします」


 私は、鼻息荒くそう言った。


「もちろん、最大限お申し込みさせていただきますが、まずは婚活パーティーに参加してみませんか?」


 長谷川さんは、私に婚活パーティーを勧めてくる。


「この結婚相談所主催のパーティーですので、参加者全員、身分は明らかで安全です。今回は、男性は高収入で30代まで、女性20代までというパーティーを企画しております。まさに、伊藤さんのニーズにぴったりかと」


 長谷川さんが、パーティーの説明をする。


「あーでも、私、出来れば同じ年代の方がいいんです。おじさんは、ちょっと…」


 私は、難色を示す。


「+5歳、いや+2,3歳くらいなら許容範囲に入りませんか?」


 長谷川さんが、言う。


「はあ、まあ+2,3歳くらいなら」


 私は、渋々了承した。


「初めてのお見合いは、色々やらかしてしまって、せっかくの良縁を無駄にする方が多いんです。こういう場で、慣れておくのも大事ですよ。交際相手が見つからなくても、いい経験になるものです」


 長谷川さんが、まず婚活パーティーに参加する意義を話した。

 確かに、いきなり見合いは怖いかもしれない。


「はい、では考えてみます。どんな形式のパーティーなんでしょう?」


 私は、参加する事にして、パーティーの形式を聞いた。


「はい、まず回転寿司形式で3分づつ男性全員と1対1の面談。狙いの方を決めていただいて、フリータイムで、お話しいただきます。後日、気に入った方にマッチングを申し込んでいただく形式なので、会場で恥ずかしい思いをする事もありません」


 長谷川さんの説明を聞く限り私でも大丈夫そうだ。

 合コンノリは、ひさしぶり。

 絶対、高収入イケメン彼氏をゲットするぞ!


「分かりました。頑張ってみます!」


 私は、気合いを入れた。


「では、申し込みますね。まずは、何でも学びですので、リラックスしていきましょう」


 長谷川さんは、そう言って笑った。




 婚活パーティー当日、私は普段は絶対に着ないピンクのセットアップを新調してパーティーに参加した。

 でも、これが男子受けがいいんでしょ?

 開催されるホテルのロビーで、時間を待つ。

 周囲に参加者っぽい人達が集まっている。


 参加者の半分以上の女の子が可愛いくて美人だ!

 結婚相談所に入る女の子達が、こんなに可愛いとは思っていなかった。

 売れ残りか、不細工で焦ってる子ばかりじゃなかったの?

 お洒落な子ばかりで、アイドルグループにいてもおかしくない子もいる。


 この子、頭小さくてスタイルがいい。

 あの子なんてアナウンサーみたい。




 それに比べて、男性陣は、ぱっとしない。

 30代後半のおじさんが多い。

 中にはイケメンもいるが、平均身長が低かった。


 私は、数少ない若い長身イケメンに目をつける。

 確かに競争率は高そうだ。


 練習とはいえ、せっかく高いお金を払って参加したのだ。

 絶対にゲットしないと!

 今回の婚活パーティーは、高収入の男性が集まるので、女性の参加費も高かった。

 まあ、お父さんが出したんだけど。


「あら、和美じゃない!」


 その時、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、そこには高校生の時の同級生、鈴木香織がいた。

 彼女とは、短大時代まで交遊があった。


「あ、香織ちゃん」


 私は、意外な出会いに驚いた。

 彼女は、高校生の頃は学校一の美少女と呼ばれていた。

 長身の美人で、まるでモデルの様だ。

 私も男子人気には自信があったが、彼女には勝てない。


 彼女は、看護学校に進んで、看護師になっているはず。


 彼女は、グレーのスーツを恰好良く着こなしていて、スタイルも変わっていない。


「あなた、確か短大時代にテニスサークルの一番イケメンをゲットして、就職先も一緒だったじゃない。なんで、こんなところにいるの?もう、結婚してるのかと思ってたわ」


 香織ちゃんが、私に言う。


「あいつ、浮気相手を妊娠させて職場辞めたわ…」


 私は、暗い顔で呟く。


「あー、それは駄目な事、聞いちゃったかな。これからはまた、同じ結婚相談所で仲良く頑張りましょうね。そういえば美奈ちゃんも、同じ結婚相談所よ」


 香織ちゃんの後ろから、地味な顔をした暗そうな女性が顔を出した。


「ひさしぶり、伊藤さん」


 そこには、クラスでも地味な存在だった美奈ちゃんがいた。

 彼女は、相変わらず背が低く、スタイルも顔も何もかも平凡だ。

 学生時代は、私と香織ちゃんの後ろを金魚のフンの様についてまわっていた。


「お久しぶり、美奈ちゃん」


 私は、笑顔で答える。

 この子は、ライバルにはならなそうね。

 でも、香織ちゃんは強敵だ。




 時間になり会場に入った私達は、いくつか用意された長いテーブルに男女対面で座る。


「今日は、結婚相談所フィアンセ主催の婚活パーティーに、ご参加下さってありがとうございます。今回は、年収500万以上の高収入30代男性と、20代女性を集めた婚活パーティーです。男性で、30~34歳の年収500万を越えている男性は3%以下、35~39歳で7%以下です。また、20代の婚活女性は、男性に大人気。この高いニーズを持った方々をマッチングする企画でございます」


 前で、結婚相談所の女性スタッフが挨拶を始める。


 はあ?年収500万以上が高収入?

 妻を専業主婦にして、子供二人生まれたら、どうやって生活するわけ?

 私は子供は全員、小学校から私立に入れたいの!

 このマッチングアプリで男性に大人気の私が、好きでもない年収500万の男に人生捧げるなんて、まっぴらご免よ!


 私は、内心怒った。

 しかし、500万は最低ライン。

 もっと高収入の男性も参加しているはず。

 これは、厳選しないと。

 私の美貌なら大丈夫なはずだわ。


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