【完結】同僚に婚約破棄された元保育士29歳無職家事手伝い、イケメンハイスペック男子を婚活でゲットして見返すはずが、可愛い娘持ちアパレル社長と契約結婚する事になりました

瑠衣彩花

第1話 短大時代からの婚約者が浮気相手を妊娠させたので、断罪しました

 私は、伊藤和美、27歳の保育士。

 毎日、可愛い子供達に囲まれて、楽しく仕事をしている。


 自分で言うのも何だが、実家は資産家のお嬢様、見た目も美人。

 黒髪ロングな清楚系で、スタイル抜群と言われている。

 学生時代から、多数の男の子に追いかけられていた。


 その中で、私が選んだのは、同じサークルだった高身長イケメンの山本直人君。

 今は同じ認定こども園で、同僚として働いている。


 彼とは、交際7年目、そろそろ結婚の話も出ていて、正式なプロポーズはされていないが、婚約関係と言ってもいいと思う。

 既に、お互いの両親には紹介済みだ。

 寿退社も近いと思っている。

 もちろん、結婚したら専業主婦になって、彼と自分の子供に尽くすつもり。

 家事は、やった事がないが、保育士の私なら、すぐにマスター出来るだろう。


「ごめん、大事な話があるんだ。仕事が終わったら、いつもの喫茶店に来てくれ」


 昼休みに確認すると、彼からスマホにメッセージが入っていた。

 内容からして、これはいよいよプロポーズだろう。


 仕事が終わると、私は、うきうきしながら、足早に喫茶店に向かう。


「|直(なお)!お待たせ!」


 喫茶店の扉を開け、中に居た彼に声をかける。

 彼は、同僚で後輩の清水友里と一緒に並んで、席に座っている。


「え?」


 面子からして、今日はプロポーズではなさそうだ。

 私は、がっくりしながら、仕方なしに彼等と対面で座る。

 なんで、友里が並んで座っているのか疑問だ。

 そこに座るのは、私のはずだろう。


「すまん、和美!!子供が出来た!」


 彼が、テーブルに頭を擦り付けるようにして謝ってきた。


「は?まだ、出来てませんけど」


 思わず私は、そう答える。

 自分の事だと思ったのだ。


「すいません、和美先輩。私、直人さんの子供を妊娠したんです」


 ハンカチを口に当て、友里が、すまなそうに言う。


「彼女、もう妊娠6カ月で中絶は出来ないんだ。俺が責任を取らなきゃいけない。悪いが別れてくれ和美!」


 直人は、相変わらず頭を下げたまま懇願してくる。


「…」


 私は、完全に固まった。

 脳がフリーズしている。


「ど、どうしてこんな事に?私じゃ不満だったの?見た目も、家柄も私の方が、ずっといいはずよ」


 納得いかない私は、無駄な事と知りつつ、そう呟いた。


「だって和美は、お嬢様で金使いも荒いし、俺の収入で専業主婦なんてとても無理だ。今までは、うちの親に助けて貰ってたが、生活費全部面倒見る事は出来ない。それと違って、友里は結婚して子供が出来ても一緒に働いてくれると言ってる。とても庶民的でいい子なんだ」


 直人が、顔を上げて本音を言った。


「何!?何それ?一度のあやまちで子供が出来たんじゃなくて、完全に本気じゃない!そんな事、もっと早く言いなさいよ!27歳の女を捨てるなんて、廃棄物処理法違反よ!私の青春を返して!」


 私は、思わず叫んだ。

 幸いな事に、喫茶店に他の客はいなかった。

 喫茶店のマスターだけが、心配そうに、こちらを見ている。


「いや、それは和美の事も愛してたから…だって、可愛いし美人だし」


 直人は、しどろもどろになりながら言う。


「だから、二股かけてたって言うの?結婚する気はなかったって、それもうヤリモクじゃん!私は、初めても、私が一番綺麗だった時も、何もかも捧げたって言うのに!私が、いつ贅沢させろって言った?あなたと結婚出来るなら、貧乏も覚悟してたのに!」


 私は、思わず、彼の服の襟を掴んで揺さぶった。

 元々、体育会系で、子供の世話もしている私は、力には自信がある。


「やめて下さい和美先輩!全部私が悪いんです!」


 友里が、私の腕に抱きついて止める。


「はぁ?悪かろうが何だろうが、幸せになるのは、あんたでしょう?いい子ぶるんじゃないわよ!」


 私は、そう叫んだ。


「絶対、許さん!あんた達、今から園長室に行くわよ!」


 私は、スマホから園長にメッセージを飛ばすと、二人を連れて認定こども園に戻る。




「これは、どういう事ですか直人君。まさか、和美さんを捨てたわけじゃありませんよね」


 園長室で、50代の女性園長、吉村さんが怒り顔で待っていた。

 その雰囲気に、二人が固まる。


「いえ、そういうわけではないのですが、友里さんとの間に子供が出来てしまいまして」


 直人が、こわごわ答える。


「今まで知らせてなかったんだけど、園長は私のお母さんと高校時代から親友なの。私もあなたも縁故採用だったのよ。私が持ってきた就職話だったけど、あなたに縁故だって知られたくなくて言ってなかったの」


 私は、冷たい目で、直人に知らせる。


「和美さんを悲しませた責任、取ってもらいますよ。うちの園は、園内恋愛禁止。これは重大な違反ね。あなたと和美さんは、入る前からの関係だったから特別だったのよ」


 園長が、直人と友里に遠回しに退職を求める。


「分かりました。すぐに、退職届を出させていただきます」


 直人と友里は、渋々退職を受け入れる。

 二人は、すぐに園を辞めて、去っていった。


 私の気も、少しは晴れた。

 少しも可哀想という気にならなかった。

 何で、あんな見た目だけの低収入男に夢中だったのか分からない。

 これからは、もっと上を見て生きていこうと思う。




 働きづらくなった私も、しばらくして園を辞めた。


「ほらみなさい、私なら、もっと凄い男性も選び放題なんだから」


 私は自分の部屋のベッドの上で、マッチングアプリの画面を見て、ニヤついた。

 私のプロフィール画面には、大量のいいねがついている。

 その中には、年収1000万を越え、長身高学歴のハイスぺ男性も沢山いた。


 やっぱり私は、短大卒保育士なんかと結婚する器ではない。

 もっといい男を見つけて、見返してやるのだ。


 それから、私はハイスぺ男性達と、何人も交際した。




「あー何で?何で結婚出来ないの?こんなに人気があるのに!どいつもこいつもヘタレばかりね!」


 私は29歳になっていた。

 実家のリビング、両親の前で思わず愚痴を言う。

 相変わらず、マッチングアプリでの私の人気は、とても高い。

 どの男性でも選び放題だ。

 しかし、いくらハイスぺ男性と交際を続けても、プロポーズしてくる人がいない。


「本当に結婚したいなら、そんな遊びじゃなくて、ちゃんとした結婚相談所に行ったらどうだ?」


 お父さんが、私に言ってきた。


「えー、でも料金高いしさ。マッチングアプリなら安いし、いつも奢ってもらえるし」


 私は、今、お小遣いだけで暮らす無職家事手伝いだ。

 結婚相談所の料金で躊躇する。


「そんなものは、お父さんが出してやるぞ。心配せず登録しなさい。着いて行ってあげるから」


 お父さんが、そう言うので、一度行ってみる事にした。

 もう私も29歳、ハイスぺ男性に相手をして貰えるのも、後少しかもしれない。

 私は、焦っていた。




「はあ、希望は、同年代より下5歳まで、年収1200万円以上、有名私大か国立大学卒、ドクターか経営者もしくは有名企業幹部、身長180cm以上、痩せ型、優しくて話の合う男性ですか」


 私と父は、結婚相談所の面談室に来た。

 前では、若くて気難しそうなスーツを着た男性カウンセラーが、パソコンを見ながら応対している。


「はい、この子に釣り合うのは、これくらいの男性だと思いまして。見た目は娘の希望ですが、年収と学歴、職業は譲れません」


 お父さんが、笑顔で伝える。


「残念ですが、紹介出来る男性がいませんので、入会は許可出来ません。お帰り下さい」


 男性カウンセラーは、大きな溜息をついて言った。


「はぁ?あなたプロでしょう。私の娘にふさわしい男性を紹介しなさいよ。私の娘に文句があるとでも。こんなに美人で若くて、私もそれなりの資産家です。釣り合うのは、これくらいで普通でしょう」


 お父さんが、テーブルを、ばんと叩いて抗議する。


「いえ、残念ながら全然釣り合いません。今は、そういう高収入な男性は、女性にも高い能力を求めます。お嬢様は短大卒で無職ですよね?なら、お相手も短大卒の無職男性でいいですか?同年代で年収1200万なんて、ほぼうちの相談所にはいません。その方達も、もっとスペックの高い女性を求めておいでです。お嬢様では、とてもとても」


 男性カウンセラーは、そう説明してくる。


「でも、私は昔から超モテる美人ですよ。今でもマッチングアプリで人気抜群なんだから!今言ったようなハイスペック男性とも、いくらでも交際出来るんです。それに、男性は、女性を食べさせて当然でしょう。ましてや高収入の男性なら、女性に働かせるなんて考えないはず。私も好きな仕事ならするけど、女性が年収や学歴は気にしないでいいでしょう?」


 私は、そう言って抗議した。


「はあ。では、そのハイスペック男性達からプロポーズを受けた事は?ないなら、あなたは遊び相手にしかならないって事です。そういう男性達は、もっと若くて優秀な女性にプロポーズするでしょうね」


 男性カウンセラーが、そう言う。


「…」


 私は、反論出来ずに黙る。


「お嬢様で同年代希望なら、四大卒ならどこでもOK、身長165cm以上、体重不問、年収250万以上が、丁度いい相手です」


 男性カウンセラーは、パソコンを叩いてリストを表示させる。

 どいつも不細工な男性ばかりだ。


「年収250万だって?そんな男に娘をやれるか!ふざけるな!」


 お父さんが激昂する。


「見た目で生活するわけじゃなし、妥協するべきですよ。年収は共働きならば、充分庶民以上の生活が出来ます。まずは、就職活動してから、もう一度来て下さい。うちは、遊び目的で男性を紹介しているわけじゃないので。彼等なら、真剣にお嬢さんを愛してくれると思いますよ」


 男性カウンセラーは、そう言って突っぱねた。


「話にならん!」


 お父さんは、席を立とうとする。


「ちょっとどうしたの?涼介君!」


 面談室のドアが開いて、眼鏡でポニーテールの綺麗な人が入ってくる。

 私より少し年上だろうか、紺いスーツが決まっている。


「お客様、大変失礼いたしました。ここからは、私が応対させていただきます。カウンセラーの長谷川真由美と申します」


 男性カウンセラーを退席させ、席に着いた女性カウンセラーが深々と礼をする。


「さっきの方では話にならなくて、私の希望の男性を紹介いただけますか?」


 私は、こわごわ女性カウンセラーに言った。


「もちろん、可能でございます。現在、この地方に53人の条件に合う男性登録者がおります」


 女性カウンセラーの説明に、私はパッっと前が明るくなる気がした。


「ただし、そういう男性を希望する女性が、5563人おります。お嬢様より若い方も沢山おりますし、美人で可愛い方も沢山います。どんどん成婚して退所されますので、競争は激しいですよ」


 女性カウンセラーが笑顔で言う。


「私は、見た目には自信があるんです。美容にも投資してますし、ジムに行くのもかかしません。昔からモテてしょうがないんです。5人くらいから同時にストーカーされた事もあります。妥協は必要ありませんよね?」


 私は、アピールする。


「それは凄い!では、希望がありますね。まずは、相手に申し込んで、見合いが成立するかどうかです。妥協は、成立しなかった時で構いません。まずはチャレンジですよ!」


 女性カウンセラーの長谷川さんの力強い言葉に、私は勇気を貰う。


「お父さん、私、この結婚相談所に登録するわ!何だか、すぐに成婚出来る気がしてきた」


 私は、お父さんにおねだりして、正式に婚活を開始する事になった。

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