story16 輪廻死す!?



この人が……新たに助けを求めている人。

そう思うと、彼の記憶の中で見た光景が、脳内で何度も何度も再生された。

降りしきる吹雪の中、ホワイトアウトで遭難したのであろう光景、誰かしらを呼ぶ焦った声色……。


「ふぅ……」


そう静かに息を吐く。

脳内に記憶を維持し続けるというのは、そう簡単ではない。

人間の記憶維持の平均は、だいたい10~20秒。長くても記憶に残りずらいものは30分程で消える。

だけれど、私は3万人に一人しかいない〝記憶維持〟の特殊能力の凡人なので、記憶だけには自信があるんです。

〝サヴァン症候群〟っていう記憶維持能力が激的に高くなる病、というものが存在するのだが、病院で確かめても、そういう症状ではなかったそうだ。


グルルルル


突如、鼓膜に鳴り響く耳障りな音と同時に、みぞおちが潰されたかのような激しい痛みが押し寄せてきた。


「い"ッ……ま……」


息ができない程苦しく、倒れこむように全身の力が抜けた。

やばいやばいやばい死ぬ‼

今になっては冷や汗は出ず、胸の鼓動は徐々にゆっくりとなっていった。

心では感じてる焦りも、激痛によってかき消された。


誰かいる!?ねぇ助けて……!


もう体に感覚がなかった。

振り絞ったたったほんの少しの力で、指だけを動かす。


コツン


優雅な足音が聞こえた。

腕を遠くに、もっと奥に………。

届いて―――――…!

私は、まだ死ねないのに………。

















ピ――――――ッ












「 や っ と 目 を 覚 ま し た ね 」


優しい春風のようなアルトが、私の耳に入り込むように聞こえた。

先ほどの耳障りな音の後に聞くと、温泉につかったかと思うくらい、体全体が温められる様に癒される声だった。

そっと目を開けるべく、顔の中心から少し上……まぶたの部分に力をこめ、のろまと言われても仕方がないような鈍さでまぶたを上へ上へ持ち上げた。

まぶたを少し持ち上げた時点で、私は何故か嬉しみを感じていた。

久しぶりの感覚。ずっと眠り続けていたのだろう、視界が少しぼやけている。

夢……夢だった……。

戻……戻れた……!


「生……生きてるッ‼」


興奮と感激のあまり、ボロボロと止まらない涙で仰向けに寝かされていたベットを濡らしてしまう。


「生きてたよ……私‼」


ねえ‼と、アルトの声の主、氷河に向かってそう叫ぶ。


「 ま あ ま あ 落 ち 着 い て 。 疲 れ て る ん だ ろ う し 」


呆れ気味な声を出す氷河。


「でもでも………」


そう言う氷河に向き直る………って、え?

紺色のズボンに、紺色のパーカー。そして紺色のマスク。

氷河のパーカー………ちょっと濃くなってる?


「私達、会ったことあるよ……ね?」


とてつもない聞き方をしたけど、癒されるアルトの声から、確かに氷河だとわかる。

パーカーの色は………寝すぎでぼやけてるだけだな。


「 あ る よ ? 」


やっぱり。

そう言ったにもかかわらず、はぁと安心でため息が出る。


「あのね私、探したい人がいるんだ」


私の事情………使命を知らない氷河に、真剣な眼差しでそう伝える。

〝探したい人〟とは、まさしく夢に出てきたあの人物である。

自分のことは鏡などがなければ自分で見ることができないので、顔や体の特徴は言えない。


「凛とした声……。少年くらいの若さ。妹か弟がいる。肌は………雪のせいであまりわからないけど、白い方だったよ」


「あ、あと顔と地面の高さからして、だいたいの身長はわかるかも………」


特徴を次々と氷河に伝える。

すると、不思議と氷河がふっと微笑んだ。

ってか、今気づいたけど……。


「探すなんて氷河、一言も言ってなかったよね!?勝手に探す前提で言ってごめん!」


頭を90度、直角に下げて謝る。

我ながら、今のは相当失礼だったと思う。


「い い よ 大 丈 夫 。 僕 も 探 す 前 提 で 聞 い て た か ら 」


顔を上げて、と言う氷河。

氷河は優しいから許してくれたけど、私だったらちょっとムカッてきちゃうかも。

そういう氷河の大人の対応も学ばなきゃだね、私。


「えっと……じゃあ、もう探す、ってことでいいかな?」


疑心暗鬼になった私は、もう一度確かめるように、氷河に尋ねる。


「 わ か っ た 。 じ ゃ あ 、 ま た 後 で 」


そういうと、すぐに駆けだしてしまった。

氷河を数秒見つめていた私は、はっと我に返ると、氷河と反対方面へ駆け出すのであった――――――…。










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輪廻転生少女 * 仮面の兎 @Serena_0015

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