story10 御花畑




ポッポッ


空の瓶に水を入れる度、奇妙な音が鳴る。

「よし...っ」

湖に入ったらつま先の痛みもなくなったし、体全体がエネルギーで溢れていた。

効果はそれだけじゃなかった。

走っていてもスタミナが回復し続けるもの、

そして脳が活性化して、よく頭が回るようになる、という素晴らしいものだった。

そしてわたしは、汚花畑へ全力疾走で急いだ。





花畑はまだ腐った生臭い匂いで漂っていた。

後から思ったけれど、"汚染されたものを治す"力を持つ湖だけど、

匂いまでは消せるのか......不安だった。


ポッ


治癒の水を、花の中心に一滴たらしてみる。

「え......わぉ!」

____汚花畑は、その花と共に徐々に色どりが鮮やかになってきた。

だけど、まだ花畑全体には効果が来ていない。

これじゃ、この瓶だけで花畑全体を戻せるか曖昧だよ......。

「彼女に...気持ちいところで眠ってほしいのに...」


ピ...ク


私の声に反応したかのように、彼女が一瞬、動いた気がした。

すぐさま、治癒の水を垂らそうと瓶を傾ける。

......でもこれが、私の勘違いだったら?

今思えば、私は輸送センターから逃げてきたんだ。

もう追手が来てもおかしくない状況。

彼女に大量の治癒の水を使ってしまったら...

また治癒の湖まで取りに行かなければならなくなる。

その間に追手が私を捕まえたら、これまでの努力が水の泡になってしまう。

「...だから、_____。」







___わたしは、彼女の口に、治癒の水をいっぱいに流し込んだ。


ゴックン...


という音と同時に、彼女の瞳が色を取り戻した。

「やった...やったあああああ‼」

涙があふれ出る。

「 あ り が と ... 」

彼女も涙目になっていた。

やっぱり、私の判断は間違ってなかったんだ...っ‼

汚花畑は、彼女と一緒に完全なる色とりどりの美しい花畑になっていた。

ちゃんと、匂いも消えている。

「やったぁぁぁあああああっ‼」

私はもう一度、心の底から叫んだ。



「 追 手 が 迫 っ て い る 状 況 で 、 な ん で 私 を 助 け た の ? 」

「特に、深い意味はないけど...人を助ける、

私にとって当たり前のことをしただけだよ」


その発言に、彼女が懐かしいような目つきで私を見つめ続けた。




「綺麗だね...」

「 こ こ は " 御花畑おはなばたけ" っ て な ず け る よ 。 感 謝 の 気 持 ち を 込 め て 」

「あなたは、これからどうするの?」


「 あ た し は 、 先に 我 が 家 へ 戻 る よ 。 」


すると彼女が途端に浮いた。


チリ...チリ...


そして、塵となって崩れてゆく。

仕方なくわたしは彼女の瞳だけを見つめた。

もう、帰っちゃうのは…寂しいけれど。

ん?

帰れる?…我が家、に!?


「あなたは‼ここから帰れるの!?」


彼女は、そのことについては反応しなかった。

何か言えない秘密があるのかな……。

でも、彼女が我が家に戻る前に、わたしが送らなきゃだよね!


「またどこかで会えたら...!」


「 そ う だ ね 。 現 世 で 会 お う ‼ 」


彼女が涙目になる。


「ばいばい...‼」


そして彼女は、跡形もなく消えてしまった。

____わたしが死んだ理由...わかったかも。


わたしは、今みたいに不幸で死んでしまった人を...助ける。

それが。


  

    " 蓬 莱 輪 廻 の 使 命 な ん だ と 思 う "











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