第5話 J国クーデターの危機

空想近未来小説


 オレのところにとんでもない情報が入ってきた。

 J国の防衛幹部がクーデターを企てているというのだ。まるで5・15か2・26だ。どのくらいの規模の人数が関与しているかわからないが、その調査と妨害の指令がやってきた。民主国家が確立したJ国で軍事クーデターが起きるとは思えなかったが、WPKCの情報は正確だ。そこで、J国内のメンバーを召集した。

 サカイ 防衛省(事務官)    35才

 イマイ 防衛省(武官2尉)   33才

 タヤマ 発明家         32才

 アケミ 情報処理担当      28才

 ジン  銃器のプロ       26才

 カトウ 格闘技のプロ      25才

情報はサカイからもたらされたものだ。防衛省内の数人の職員がクーデターメンバーから誘いがあったという。

 具体的な話はなかったが、

「今の政府をどう思ってる?」

とか

「政府のだれが悪だと思うか?」

という質問をされたというのである。そういう質問を結構な数の職員にしていて、それに反応した人が勉強会に誘われたというのだ。サカイは反応しなかったので、勉強会に誘われなかったが、イマイはサカイの話を聞いていたので、反応を示し、今週の土曜日、勉強会に参加することになっている。

 そこでの話がどのようなものなのかを知りたいということで、まずはイマイの情報待ちということになった。

 サカイは、その間、勉強会にどの程度の職員が参加しているかをさぐることになった。

 タヤマは、勉強会に持参させる隠しカメラと隠しマイクを用意した。金属探知機にひっかからないように、指輪に仕込んだ。電波をとばすと、ばれる可能性があるので、録音が主で、録画はわずかな時間ならできるものだ。

 アケミは、SNS等で勉強会のことがでていないか片っ端から調べている。

 ジンとカトウの出番はまだなので、二人でトレーニングの日々だった。

 

 土曜日の夜、とんでもないニュースが入った。イマイが交通事故にあって死んだというのだ。サカイが詳しいことを調べてきた。

「同僚2人と酒を飲み、泥酔したイマイが交差点で信号待ちをしている時、大型トレーラーが左折してきたところ、ふらついたイマイが倒れ込み、トレーラーの後輪にひかれて死んだとのこと。まるで自分からとびこんだ状況だったというが、大型トレーラーの内輪差は激しいので、ぎりぎりのところを通過していたのだということだ」

この話を聞いて、オレは疑問に思った。WPKCの隊員が泥酔するほど飲酒することはない。いつ危険な状況に陥るかわからないので、自分自身を失うようなことはしないのだ。おそらく、同僚の2人に無理やり飲まされ、大型トレーラーが来た時に、押し出されたと見た方が自然だと思った。トレーラーの後方のことなので、ドライブレコーダーには映っていない。

「サカイさん、同僚2人の動きをさぐってください。クーデターメンバーかもしれません。ところで例の指輪は?」

「ありませんでした。おそらくあの指輪が録音機器だとばれたのでは?」

「だろうな。タヤマさんが悔やむな」


 月曜日、サカイを除く5人が集まった。サカイは、クーデターメンバーからマークされている可能性がある。単独で行動することにした。

「タヤマさん、イマイさんが亡くなり気を落としていませんか?」

「あの指輪がひっかかるとは・・自信作だったのですが・・敵は手ごわいですね」

「次の手を考えなければなりません。アケミ、何か情報はないか?」

「ひとつだけあります。勉強会の次に懇親会というのがあるそうです。どうやら勉強会で見込みがあると思われたメンバーを誘い込む会のようです」

「すると、その懇親会にもぐりこむか、場所を特定できれば盗聴できるな」

「場所が分かれば、盗聴器をしかけられるぞ。それも探知機にかからないやつな」

タヤマは自信まんまんだ。

「探知機は電波を発信する機器に反応する。私が作る盗聴器は一時録音をして、探知機がない時に発信する探知機感応型です」

「探知機を探知する盗聴器か。ややこしい機器だね」

と言うと、

「だから探知機感応型盗聴器と言います。本当は特許をとりたいぐらいですが、表には出せない機器なので裏社会で広まるかもしれません」

「それは困るな。WPKCで買い取ってもらおう」

「それでは、アケミは懇親会の情報を集めてくれ。ジンとカトウは出番に備え、車両の手配だ。情報収集のためのバンと脱出用のスポーツタイプを用意してくれ」

「OK」


 土曜日、また勉強会が開催された。前回よりも人数は増えたようだが、サカイがマークしている2人は参加しなかった。自重しているのか、中心メンバーだから懇親会に出るからだろうか。

 翌、日曜日サカイがマークしている2人の内の一人があるレストランに入っていった。貸し切りだ。そこに20人ほどが入っていく。オレは何気ないふりをして、隠しカメラで撮影し、そのデータをアケミに送った。

 翌日には、その20人のメンバーが割り出せた。

 中心は堀越一尉(40才)と思われた。私立大学出身のたたきあげだ。防衛大出身のエリート集団の中にあって、異質の存在で知られている。オレは堀越に接触する機会をねらった。家族は九州にいる。別居生活が長いらしい。クーデターを考えて家族を遠ざけているのかもしれない。

 そこで、堀越と同じマンションに引っ越すことにした。運よく堀越の隣の部屋に入ることができた。そこを仮の対策本部にすることにし、壁越しに例の盗聴器をしかけた。堀越が部屋にもどってくることは3日に一度ぐらいだった。どうやらホテルを転々としているらしい。しかし、1週間後に次の懇親会の場所が特定できる情報を得ることができた。

 ジンとカトウにそのレストランに事前に例の盗聴器をしかけるように依頼した。コンセントとかの目立つところではなく、目立たぬところへ設置をしなければならない。敵は探知機を使って探索をするのが明白だからだ。

 二人は、エアコンの吹き出し口と、置時計の陰に置いた。まるで時計の一部かのようだ。

 日曜日、懇親会が始まった。

「皆さん、いよいよ決行日が決まりました。来週の日曜日の夜9時決行です」

「して相手は?」

「総理の木下、副総理の相川、財務大臣黒川、金融大臣斎藤、国土交通大臣渡辺の5人だ」

「いずれも例の宗教団体がらみの政治家ですね」

「そうだ。反日の宗教団体と癒着している政治家は排除しなければならない。それも企業から裏金を受け取っていることも明白だ。こんな政治家に日本をゆだねるわけにはいかない」

「そうだ。それで決行隊の人選は?」

「うむ、そこでくじ引きで決めようと思う。それでよいか?」

「思いは皆同じ。異論はない」

「決行隊10人。サポート10人。決行隊は自決だがよろしいか」

「身をもって日本に尽くす。それが我ら防衛武官の勤め。ところで、その後の政府は大丈夫か?」

「その点は先生がうまくやってくれる。すぐに臨時政府を立ちあげることになっている」

 その後、くじ引きが行われ、決行隊10人とサポート隊10人が決まった。堀越はくじびきには参加していない。まとめ役ということで例の先生とのつながりがあるということだ。

 懇親会が終わってから、オレたちはこの話を聞くことができた。懇親会中はずっと探知機が作動していたようだ。

「あと1週間か。どうする? すぐにつかまえるか、当日つかまえるか、アケミはどう思う?」

「私ならすぐにつかまえる。当日は5ケ所に分散するんでしょ。タヤマさんは?」

「私は、少し待つ。例の先生の情報がほしい。でないとまた同じようなことが起きる」

「だな。アケミ、情報を集めてくれ。サカイさんにも依頼しよう」


 3日後、サカイから情報がもたらされた。バックは防衛大臣の岸川だった。正義感の強い熱血漢だが、今回は行き過ぎた正義を振りかざしたようだ。衆議院議長の高橋をかつぎだして臨時政府を作るみたいだという情報だ。

 このことをWPKCの支局に報告し、対処を相談した。結果、自衛隊の監察に委ねることになった。未遂として処理した方がいいという判断だ。

 土曜日、クーデターメンバー全員が拘束された。防衛大臣の岸川も突然の罷免となった。これでクーデター事件は未遂で終わった。

 数か月後、衆議院は解散され、与党は大惨敗を喫した。例の宗教団体と関連のあった与党議員の多くは落選した。総理の木下はなんとか再選されたものの、惨敗の責任をとって退陣した。ある意味、岸川の思いは達成されたと言える。

 ちなみに堀越らクーデターメンバーは退任か地方への左遷ということで決着を見ている。イマイを殺したと思われる同僚は、北海道の島の基地にとばされた。そこで自ら退任したということだ。証拠がないので、殺人の罪を問うことはできなかった。それにイマイがWPKCのメンバーだということを公にすることはできないのだ。クーデターの首謀者の堀越は退任し、自決をはかったが、死にきれず半身不随で入院中とのこと。

 WPKCのメンバーでイマイの墓前に報告をした。

「イマイさん、あなたの仇はとりましたよ。あなたが命をかけてなしたことです。ありがとうございました」


 これにて任務終了。



 

 

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