春を想う 1

※後日譚その二。性的表現・リバ注意。6.5+1話一挙投稿。

※刺激的(ショッキング)な内容になります。精神状態の良い時にお読みください。

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 唇を重ねるたびに。

 体を重ねるたびに。


 季節を重ねるたびに。


 想いが募る。


◇◇◇


 夜のソフィは二人いる。

 すごくいじわるなソフィと、すごく優しいソフィ。


 どちらのソフィかは、その時まで分からない。

 理由は、たぶんない。

 喧嘩っぽくなったとか、お互いがとても求め合ったとか、そういう事とどちらのソフィかはまったく関係がない。

 だからわたしは、あなたに触れられるとき、すごくどきどきする。


 いじわるなソフィは何度も何度もわたしを気持ちよくしてくれて、気持ちよすぎてわたしが泣いてしまってもやめてくれない。

 だいたい、気を失うように眠ってしまって、翌日は腰が痛くて動けなくなる。

 それが別にいやなわけではない。

 むしろ、身も心も全部あなたのものになれる感覚は安心すらできる。


 優しいソフィは長い時間をかけてわたしの体を隅から隅まで愛してくれて、とても大きくて余韻の続く気持ちよさをくれる。

 終わったあともずっと気持ちよさが続く感覚は、幸せな気持ちになれる。


 今夜は、優しいソフィだった。

 指先から頭の中まで蕩けさせられた事後のわたしの体に、あなたは優しい口づけを何度も降らせている。

 あなたの口づけがわたしの体に触れる度に、快楽の余韻が続いていく。


 あなたは、女の子を気持ちよくするのが、とてもうまい人なんだと思う。

 同じ女だとは言え、わたし以外の経験なんてないはずなのに、気持ちよくなるところを的確に見つけ出して、羽根のような繊細さで責め立てる。


 わたしは別に、あなたを見て欲情したりはしない。

 裸を見れば、とても奇麗な人だとは思うけど。

 それでも、あなたに抱かれれば体は反応するし、心は満たされる。

 わたしはあなた以外に抱かれて気持ちよかったことはないし、きっとこれからもないだろう。

 

 つま先の一つ一つまで丁寧に口づけをしたあなたは、最後にいつも通り唇に深く長い口づけをくれる。

 あなたとの口づけは、好き。

 気持ちいいし、あなたの想いが全部流れ込んできて、それに溺れていくような感覚。

 ずっとしていてほしくて、首に腕を回す。


 指先が、あなたの耳を飾る耳飾りを掠めた。

 金の耳留めの先に輝く、澄んだ青の宝石。

 うっとりと、その青に見惚れる。


 私と契約する前の、あなたの瞳の色に。


 普段はあなたの部屋にしまい込まれている。

 今日は珍しく、村の冬至祭に参加するためのお洒落として付けてくれた。

 普段付けないから、そのまま外し忘れているみたい。


 この耳飾りを、置いていこうとしたあなたを、私は怒った。

 あの王がわざわざあなたに持って行かせようとしたのだから、何かしら意味があると思って聞いたら、母親の形見だと言うから。

 あなたが王女の地位も何もかも捨てて、わたしと一緒にいてくれることは嬉しい。

 だからと言って、そこまで何もかも過去の自分を切り捨ててほしいわけではない。

 あなただっていつかは帰りたくなる日がくるかもしれない。

 その時のために、繋がりを全て断ち切ってほしくはなかった。


 あなたはずっと一緒にいてくれる約束として、この契約をくれたけれども、それは真心のようなもので、わたしがあなたを束縛していい理由にはならない。

 だけど契約は、解除することはできない。

 もともと使い魔契約は魔力的に一体化する術式なので、混ざり合って一つになったものを解除するのは極めて困難なうえに、わたしたちは第三者の術式で成立したのでどんな術式が使われているかすら分からない。

 そのことに、少し安心しているずるいわたしがいる。

 それでも、あなたがわたしから離れていくなら、それを止める権利なんてわたしにはない。


 そんな日が来なければいいと、祈る様に思う。

 わたしが祈ることができる相手なんて、あなたしかいないのに。

 あなたと離れたくないと、あなた自身に祈るなんて滑稽だけど。いえ、むしろとても正しいのだろうか。


 あなたがわたしにくれたものを、少しでも返したいと思う。

 それは対等と言ってくれたあなたの言葉を嘘にしたくないからでもあるし、一方的にもらうだけではいつかあなたがいなくなってしまいそうで怖いからでもある。


 だって、わたしにはあなたの想いが分からない。

 大切にされているのは分かる。

 愛欲を持っているのも知っている。

 同情だってあるだろう。

 それは、行き過ぎた友情なのだろうか。それとも、それとは違う想いがあるのだろうか。

 わたしのあなたへの想いとは、別のものなのだろうか。


 結局、言葉にはできなかったこの想いが伝わってほしくて、でも伝わってほしくはなくて、わたしはあなたと口づけを交わすのかもしれない。


 口づけの合間に手慰みのように耳飾りごと耳に触れると、甘い吐息を漏らすあなた。

 その反応がどこか心の琴線に触れたわたしは、あなたを真似て、項から耳たぶを羽毛の手つきで撫でる。


「テレサ…や」


 消え入りそうな切ない声。

 嬉しい。楽しい。もっと鳴かせたい。もっと気持ちよくなってほしい。もっともっとわたしだけを見て、夢中になってほしい。

 これが、あなたの気持ちなの。

 もっと、知りたい。


 わたしに覆い被さっているあなたの体に腕を回して、転がる様に上下を入れ替える。

 吃驚したような顔を、真上から見下ろすのは新鮮だった。

 薄明りの下に浮かぶあなたは、裸体でもお姫様だな、と思う。


 陶磁よりも滑らかな白い肌。ほっそりとしながら柔らかな曲線を描く完璧な肢体。白いシーツの上に波うつ長い金の髪。上品に整った目鼻立ち。少し下がった目元が優し気で愛嬌がある。艶やかなふっくらとした唇が、誘うように緩んでいる。


 こんな人と体を重ねているという、夢のような現実感のなさ。

 この人を寝所に招けるのなら、身代を傾けても金を積む男がきっといくらでもいる。


「テレサ。どうしたの」


 熱に浮かされたような目で見上げてくるあなた。

 あなたのこんな姿を見ることができるのは、わたしだけ。

 もっと、わたししか知らないあなたを見せてほしい。

 

 問いかけには答えずに、唇を重ねる。

 わたしの想いも、あなたに伝わればいい、と思いながら。


 深く口づけをしながら、形のいい胸に触れると、あなたの体が小さく跳ねる。


「待って、待って…テレサ」


 騎士として鍛えられているとは思えないくらいか弱い力で、わたしの肩を押してくる。

 手を止めて、少しだけ唇を離す。


「本当に、どうしたの」

「わたしにも、させてください」

「でも…別に、無理しなくていいのよ」


 困ったように、眉を下げるのが憎らしい。


「テレサは私の体を見ても、したくはならないでしょ」


 だけど、気持ちよくしてあげたいとは思っている。


「貰うばかりは、いやなんです」

「私は貴女を気持ちよくするだけで、気持ちよくなれるのよ」

「それを、わたしも知りたい」


 戸惑うように、あなたの瞳が揺れる。

 ここでいやだと言われたら、わたしはたぶん泣いてしまうほど悲しい。


「どうしてもいやなら、いいですが」

「…いやではないけど」

「けど?」

「恥ずかしい」


 両手で顔を隠して縮こまるあなたに、少し腹が立った。

 人には散々、痴態を晒させておいて、何を言っているんだこの人は。

 わたしは手首をつかんで、無理矢理に顔を引き出す。

 少女のように不安を滲ませるその顔に、罪悪感よりもむしろ嗜虐心が刺激された。


「…暗くしてもらってもいい?」

「駄目に決まっているでしょう」


 わたしが見えなくなるのが嫌だからと、明かりをあまり暗くさせてくれない人が何を言っているんだろう。

 しばらく唸ってから、大して力も入れていなかった拘束を外された。

 逃げ出すかな、と思ったけど、そのままわたしの首に抱きついてきた。

 耳元で恥ずかし気に、でも誘うように、囁かれる。


「初めてだから優しくして、ね」

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