後日譚
月の満ち欠け 1
※後日譚その一。全般的に下ネタ、性的表現注意
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テレサが継いだ魔女モルガナの住居は、ローレタリア北部の辺境に用意されている。
魔女の住居は、意外にも五王国が管理しているらしい。
魔女と魔王の関係を考えれば、意外でもないのかもしれないけれど。
テレサは魔女になった後、すぐにそこに向かうつもりだったらしい。
私は本当に、千載一遇の好機を掴めたみたい。あの日、迷わなかった自分だけは、手放しで褒めてあげたい。
テレサと一緒に、私はそこに向かった。
たどり着くまでに一か月ほどをかけて、のんびりと旅をしながら。
テレサは王からしばらく生活に困らないくらいのお金を受け取っていたし、私が王から受け取った宝具の入っていた袋にもかなりのお金が入っていた。
未だにこういう、兄ぶったことをしてくることに苛立つけれど、お金に罪はないし必要なものだ。
袋には他に、私が母から譲り受けた形見の耳飾りが入っていた。
王家と縁を切った身としては受け取りがたかったけれど、置いていこうとしたら本気でテレサに怒られたので、結局持ってきてしまった。
テレサは怒っても言葉を荒げたりしないけど、あの静かな声でこんこんと説教されると、本当に怖いのだ。
旅はとても楽しかった。
誰の目も気にする必要のない旅。手をつなぐことも、腕を組むことも、抱きしめることも、口づけをすることも。
いえ、抱きしめる以上のことは、さすがに人の目を気にするべきでした。
往来の真ん中でしたりはしないけれど、距離が近すぎるからか二度見されることはままあった。
初めての自由に浮かれていたのは否定できない。
テレサがまったく気にしないから、私も感覚がおかしくなっている。
浮かれていたのは、自由もあるけれど、新婚旅行という言葉が頭にちらついていたからかもしれない。
同じ宿、寝台。でも旅の間、口づけ以上のことを私たちはしていなかった。
宿は安全性を確保しながら、なるべく目立たない小さなところを選んでいたから、声とか気になるしそれは仕方ない。人目を気にしないと言っても、私もテレサも目立つようなことができる立場ではない。
テレサからそういう雰囲気を出してくることはないので、私もどこか気が引けている部分もあった。
だけれど、これから二人で暮らすのだから、焦る必要はない。
あまり焦って、体ばかりがが目当てだと思われたくない。
たどり着いた新しい住居があると言う森の近くには、村があった。
様子見を兼ねて立ち寄ると、村長に出迎えられた。
新しい魔女が来ることを知っていたようだ。
おそらく村ぐるみで魔女の監視の任を密かに受け持っているのでしょう。
監視と言っても悪い意味ではない。
長い間、魔女とともに生きてきたのだから、その関係は持ちつ持たれつのものなのでしょう。村長からは、魔女に対する悪意は感じられなかった。
魔女と言っても文明的な生活をするなら、人間社会との関わりは避けられないので、友好的な人々が近くにいることはありがたかった。
私のことは護衛の騎士だと言うことにした。
少し怪訝そうな顔をされたのは、騎士には見えなかったからか、それとも王族としての私を見たことがあるのかもしれない。
とは言え、遠目から見たことがある程度では、ドレスも着ていない私を見ても、似ていると思うのがせいぜいでしょう。
新しい住居は森のそれなりに深くにあった。
村からは半刻近く歩く必要がある。
径が整えられていなかったら、迷ってしまっていたでしょう。
魔女の家は、思ったよりも素朴なものだった。
木造りの平屋で、一人で住むには少し広くて、家族で住むには少し手狭。
そんな大きさの、ごくごく普通の家。
庭には何も植えられていない菜園の名残り。
かと言って雑草が生い茂っているわけでもなく、家の外観もあまり汚れていない。
村人が手入れをしてくれていたのでしょうか。
先代の魔女と村人は、けして悪い関係ではなかったのでしょう。
ここで一人、先代の魔女はどんな気持ちだったのでしょうか。
村人との交流があっても、その孤独は耐えがたいものだった。
だから、魔王になってしまった。
私は手をつないで隣に立つ、テレサの横顔をそっと見る。
貴女はそれをどう感じているの。
未来を不安に思っているのでしょうか。
つないだ手を少し強く握ると、テレサが私の方を向いた。
「この家、少しあの離れに似ていますね」
貴女が嬉しそうに、そんなことを言うから。
愛しくて抱きしめたくなってしまう。
私はつないでいた手を離す。
「ソフィ?」
私は家の入口を開けて、一歩中に入ってから振り返る。
「おかえりなさい、テレサ」
私が言うと、テレサの顔がぱっと輝いた。
軽く広げてた私の腕の中に、テレサが飛び込んでくる。
「ただいま、ソフィ」
私たちは抱き合ったまま、しばらく声を出して笑いあった。
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